サイモン・レン=ルイス「世代間の再分配」

[Simon Wren-Lewis, “Redistribution between generations,” Mainly Macro, October 24, 2014]

経済学でありがちな誤解に関するシリーズをはじめなくてはいけないようだ.(ゾンビ映画は見ないものでね.) そういう誤解のひとつに,中央銀行のバランスシートは通常は重要だというものがあるけれど,前回のポストのこのコメントがいい仕事をしてくれている.さて,かなり頻繁にでてくる誤解にこういうものがある――政府債務には世代間の再分配は関わっていない,という誤解だ.世代は重複するということがわかれば誤解ははっきりする.

ごく単純な例をとりあげよう.ある経済の各期間に産出される財の量がつねに100だと仮定しよう.さて,各期間がそれぞれ1世代の生涯で,世代どうしは重複しないとすると,当然ながら各世代は100を得て,世代間での再分配は起こりえない.だが,現実では世代どうしが重複する.

そこで,各期間に2つの世代があることにしよう:年長世代と年少世代の2つだ.それぞれの世代は50の財を産出すると仮定する.だが,1つの期間(これを期間Tとする)で,政府の決定により,年少世代は年金制度で財10を支払わなくてはならなくなり,年長世代はその年金を T で受け取る.この年長世代は若いときになにも支払っていなかったにもかかわらず,だ.言い換えると,年少世代が年長世代に支払っているわけだ.「突飛な話だなぁ」? そうでもない.これは賦課式年金制度と呼ばれるもので,イギリスで国がやっている年金はこの仕組みを使っている.この方式の結果として,期間 T で産出される財 100 のうち,年長世代は T で財 60 を手に入れる一方で年少世代は 40 しか手に入らない.T では明らかに年長世代が得をしている.損をしているのは誰だろうか? このまま制度が続くのなら,損をしているのは T の年少世代ではない.老齢になったときには彼らも 60 もらえるからだ(話を単純にするため,いつ財をもらえるか人々は気にかけていないと仮定しよう).損をしているのは,この制度をやめた期間で年長世代に該当している世代だ.その期間を T+10 だとしよう.この T+10 で,年少世代は 50 を手に入れ続ける一方で,年長世代は若いときに 40 しか手に入れられなかったのに老齢になってからも 50 しかもらえない.こうして,期間 T+10 の年長世代から期間 T で年長世代だった人々への明らかな再分配がなされることになる.だが,期間 T でも T+10 でも産出は 100 で一定だ.

この例には債務はまったく登場しないけれども,この例から話をはじめたのは,産出が一定のままでも世代間の再分配がどのようにして起こりうるかを明らかに示しているからだ.債務を登場させるべく,政府は各期間で年長世代と年少世代の双方に 10 を課税すると仮定しよう.そして,2つの世代から徴税された 20 を政府は公共財に変換すると仮定する.すると,各世代は生涯で民間財 80 を手にすることになる.

さて,期間 T で政府はこう言い出す――「年少世代は税金を払わなくてかまいません,かわりに紙の資産(国債)と引き換えに財 10 を差し出すこと.国債は次の期間で財 10 と引き換えられます.」 期間 T ではなにも変わらない.たんに,年少世代がこの資産を手に入れるだけだ.次の期間 T+1 では,この資産のおかげで,かつての年少世代(いまの年長世代)は 40 ではなく 50 の民間財を消費できる:彼らの産出から税を差し引いた 40 に国債を政府に売って手に入れる 10 を加えて,合計 50 だ.彼らの民間財の総消費は 80 から 90 に増加する〔年少世代のときに 40,年長世代になってから 50〕.では,この増えた分の 10 財を,政府はどうやって手に入れていまの年長世代に与えるのだろう? 政府は年少世代にこう告げる:「税金を 10 ではなく 20 支払ってください,あるいはこの国債を 10 で購入してもいいですよ.」 人々が気にかけるのは〔生涯での〕総消費だけなので,年少世代は国債を購入する.すると,彼らは T+1 で民間財を 30 消費する一方で,T+2 では国債を手放して 50 を手にする.こうして,生涯の総消費はもともとの 80 に戻る.

このプロセスがずっと続いたあと,期間 T+10 になって政府は年少世代からの国債償還を拒否し,年少世代への課税をさらに 10 引き上げる.すると債務は消滅する一方で,年少世代は損をする.彼らがこの期間に消費できる民間財は 30 しかないからだ.彼らの民間財の生涯総消費は 70 だ.こうして,期間 T において政府が国債を発行することで,期間 T+10 の年少世代から期間 T の年少世代に財 10 の明らかな再分配がなされる.

債務が償還されなかったり年金制度が廃止されなたりしいかぎりはこうした再分配は起こらずに済むと考えているなら,もうちょっとだけ話を現実的にして,金利と経済成長をもちこむ必要がある(例の有名な r g の関係だ).これを私の一連のポストでは議論している(ニック・ロウも少なくとも同じくらいよいポストを書いている).ともあれ,このポストのねらいは,世代どうしが重複しているゆえに世代間の再分配がなされうるごく単純な仕組みを伝えることだ.

ニック・ロウ

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