ジョセフ・ヒース「なぜ我々はかくも怒り狂っているのか? 保守政権に怒る人々と、保守政権に怒る人々に怒る人々」(2015年10月10日)

Why u so mad?
Posted by Joseph Heath on October 10, 2015 | Canada, elections

〔訳注:本エントリは、スティーブン・ハーパーが首相を務めるカナダ保守党が政権与党であった、2015年のカナダの下院の総選挙直前に書かれたものである。〕

先日、ブログの共同執筆者達によって書かれた〔保守党の選挙戦術を批判する〕公開書簡に関して、私はなんとも複雑な感情を抱えている。(結局、私も署名したわけだが…)。スティーブン・ハーパーを嫌う人は目立って沢山いるわけだが、「スティーブン・ハーパーを嫌う人」を嫌う人もまた沢山いる。なので、私が今に至るも確信しているのが、レックス・マーフィー [1]訳注:カナダの公共放送であるCBCのニュースキャスター。アカデミアの象牙の塔ぶりを揶揄したり、やや保守寄りの言論を行うことで有名。 はこの公開書簡に関して痛烈な批判を行うであろう。「587人もが署名した公開書簡は、大学における『ポリティカル・コレクトネス』と『集団浅慮』の暴走による帰結である」とか。他の批判者は、この公開書簡を、「単なる党派性」「ローレンシャン [2]訳注:カナダ北西部の高原地帯の名称だが、付近にカナダの有名大学が多数存在している。 のエリート達の狂乱」その他もろもろのものとして片付けるに違いない。

公開書簡を「単なる党派性」の論題として扱ってしまえば、全ての政策論題がこのように関心を引きつけおらず、非常に多くの人々を激怒させてはいない事実の反映から逸脱することになる。カナダ保守党の政治要綱に、カナダの大学人達によって幅広く反対されている多くの事例があるというのは間違いない。例えば、『高級品の税額控除』は、この国のほとんど全ての経済学者から強く反対されている。しかしながら、経済学者達によるこの税額控除への大規模な公開書簡は顧みられていない。言い換えるなら、大学人達によるハーパー政権への激怒は端的にいつもの党派性や政治性とは異なっているのだ。保守党による選挙戦術として、マイノリティ集団に対する敵意の駆り立てのようなものが存在する。非常に攻撃的なものや、私が指摘した『一線を超えた』等である。そういうわけで、非常に多くの人々が激怒しているわけである。

繰り返させてもらうが、多数の保守党の擁護者達が、人々がハーパー政権に激怒している理由に関して、あらん限りの風変わりな理論を持ち出すであろう。示唆させてもらうなら、我々の立ち振舞から奇矯さを読み解くために、我々には精神科医による治療が必要である、等である。しかしながら、〔多くの人々がハーパー政権に怒っているように見えるのには〕極めて明晰な説得的事実が存在するのだ。以下が、十全に説明可能な単純なグラフだ。

CBCによる投票コンパスアンケート調査に答えた私の結果だ。4つの政党の主要政策論題が図示されている。政治的見解に関する一連の質問の解答に基いており、私は左上に位置付けされている。(ところで、もし私がこの場所に置かれたことに驚いた人がいるなら、私自身も驚いたのである)。ともあれ、この図おける関心事全ては、政党がどこに位置しているかにある。私の位置付けはどうでもいい。可視化されているのは、本質的に同じ投票先として3つの政党が競合していることと、保守党が右の分野に完全に単独で存在していることである。

今現在、我々が感じているフラストレーションは、有権者のほぼ70%が、左上1/4区画〔社会的革新・経済的左派〕に投票するとされている事に起因している。保守党に現ポジションが与えられている限り、今回の選挙は、単独の統一された中道左派政党があれば、たやすく政権交代が実現するだろう。しかしながらもちろん、もし本当に単独の統一された中道左派政党があれば、保守党はこのポジションにはいないでもあろう。

より知的なタイプの人々に特にフラストレーションを与えているものは、もし選挙で政策論題に焦点が絞られていれば、〔中道左派の〕票分離を克服するのは難しくないであろうことにある。その場合、新民主党とカナダ自由党への両投票者達は、より現実的になることで、自身の選挙区において、保守党に対して勝利するチャンスを最大化するよう候補者を支持するだろう。なぜなら、大きな絵図を見た場合の政策ということになれば、2つの政党間に端的にあまり違いがないのである。中道左派の2政党の分断の解消が困難である理由は、「党派性」「政治的アイデンティティ」「指導者の個人的資質」「候補者誰がしの父親からの遺恨」エトセトラ、エトセトラ…の要因からである。

いずれにせよ、大学人が不愉快である理由を理解するのに、風変わりな理論は必要ない。この件で、「エリート達」は通常のカナダ人の手が届かない場所にいるわけではない。それどころか、「エリート達」の立ち位置は、中庸の投票者に極めて似通っている。

投票が割れていることで追加言及するなら、Ali Kashaniによる動向が定まっていない選挙区に関する最近の研究に関心を示したい。新民主党とカナダ自由党の票分離が投影された結果、保守党候補の選出されている選挙区が存在する。特にAliが分析しているのは、現在、保守党がリードしている16の選挙区だ。そこでは、新民主党とカナダ自由党が合算されれば、保守党に十分に打ち勝つことができる。ただ、そこでは、新民主党とカナダ自由党の双方において、どちらかが際立って他候補の足を引っ張ることになっている。(なので公平に戦えるように、Aliは、8つの選挙区でカナダ自由党は新民主党に投票すべきであり、残りの8つの選挙区で、新民主党はカナダ自由党に投票すべきである、と分析している。)

この記事は、全てを読了することを推奨したい。

※訳注:訳者による注釈・補足は〔〕で括っている
※訳注:タイトルを直訳すると『なぜ我々はかくも怒り狂っているのか?』となるが、当時のカナダの保守政権を巡る論争に関して、日本語読者は馴染みが少ないと考え、副題を追加している。

References

References
1 訳注:カナダの公共放送であるCBCのニュースキャスター。アカデミアの象牙の塔ぶりを揶揄したり、やや保守寄りの言論を行うことで有名。
2 訳注:カナダ北西部の高原地帯の名称だが、付近にカナダの有名大学が多数存在している。
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