スコット・サムナー「ジョン・テイラーが連邦準備制度議長のよい選択肢かもしれない理由」

[Scott Sumner, “Why John Taylor might be a good choice for Fed chair,” The Money Illusion, October 16, 2017]

これまでに何度か,ケヴィン・ウォーシュの FRB議長指名に反対するポストを書いておいた.さて,ジョン・テイラーの株が上がっているという噂があちこちで出てきている:

FRB 議長候補に上がっているスタンフォード大学の経済学者ジョン・テイラーは,先週ホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領と1時間にわたって面談し,好印象を残したという.複数の関係者が語った.

一方,前述の関係者3名によれば,連邦準備制度の前理事であるケヴィン・ウォーシュはホワイトハウス内での株が下がっているという.理由は語られなかったが,ウォーシュ氏の学術的な業績は他の候補より見劣りし,また,FRB 委員会のテニュアを批判する人々も多い.そうした批判の声は,[どっかの無名な人]から,ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマンまで,多岐にわたる.

ウォーシュには,いくつか問題点がある.金融経済学の専門知識を持ち合わせていない点や,FRB 委員会に名を連ねていた時期にかんばしい働きをしなかった点に加えて,バーナンキやイェレン以上に「政治的」にふるまうかもしれないとぼくは心配してる.

テイラーについては,そこまでの懸念は抱いていない.テイラー(や,他の保守的な面々の大半)は大不況で予想を大きく外して,量的緩和でインフレが昂進すると過剰に懸念を表明した.それでも,テイラーはきわめて明敏で資質も十分だし,連邦準備制度に政治をもちこみそうにない人物でもある.「テイラー・ルール」はぼく好みの政策とはちがうけれど,テイラーはルール基盤のアプローチを強固に主張している.

テイラー・ルールにはいくつも保留をつけたうえで,テイラーがよい選択肢かもしれない理由を挙げよう.

#1. 一般的に,FRB 議長は独裁者ではなくて,連邦準備制度の非常に堅固な本流と協調してはたらく.だから,テイラーが就任するやいなやテイラー・ルールを実施することはないだろうと見ている.

#2. ポイント #1 はテイラー支持の論拠としては弱く思えるかもしれないけれど,ここでは,いまの連邦準備制度が十分にルール基盤の運営になっていない点についても併せて考慮してる.もしテイラーと連邦準備制度がちょうど半々で歩み寄ってくれれば,心から支持できる政策になりそうだ.言い換えれば,テイラーは連邦準備制度をいまよりルール基盤のアプローチに寄せてくれそうな人物だとぼくは見てるってことだ.

#3: 連邦準備制度は 2% インフレ目標を設定している.テイラーはこの目標をかなり真剣に受け止めるだろうとぼくは予想してる.その点で,政策が「タカ派寄り」か「ハト派寄り」かをぼくはあまり気にしていない.それよりもっと安定した金融政策レジームをのぞんでいる.もしこの先10年間のコアインフレ率が平均で 2% ではなく 1.8% になったとしても,べつにそれで世界の終わりになるわけではない(目標に達してくれた方がいいとは思うけれど).一方で,コアインフレ率がきわめて不安定で景気循環に連動するようになった方がよほどひどいだろう.

#4. (ぼくの予想どおりに)テイラーが持論の政策ルールをすぐさま実施できなかった場合,おそらく,彼は他の領域で推進できることに目を向けるだろう.すぐさま思い浮かぶ選択肢は,これまでぼくが提唱してきた説明責任の手段をどれかしら採用することだ.こうした手段をとれば,政策がもっと規律正しくルール基盤にものになる一方で,厳格な機械的方式はとらずにすむ.政策担当者は,じぶんたちが達成しようとしてるマクロ経済的な結果がどんなもので,そうした結果を可能にする手立てについてどう考えているのか,〔人々が〕もっと明確に理解できるようにしないといけない.

#5. もうひとつありうるのは,バーナンキの修正版物価水準目標の案だ.これを採用すれば,金利がゼロ下限に直面した状況下でもっと説明責任を果たしルール基盤で運営されるようになるだろう.2010年の時点でこの種の政策をとっていれば,追加の刺激策をとることなく,「インフレがどんどん昂進してしまう」と心配していた保守派たちも安心していただろう.水準目標を採用した場合,基本的に長期的なインフレのリスクはない.また,かつて1980年代にテイラーが名目 GDP 目標についていいことを言っていたのも思い出そう.こういう方向の改革もありうる.

まとめよう.連邦準備制度議長をそれ単独で考えるのではなくて,新議長が連邦準備制度の既存構造と相互作用して生じる帰結について考えるべきだ.この記事のタイトルに,テイラーがいい選択肢になる「かもしれない」と書いておいた.この種の領域では,確実にこうなるとは誰にも言えないけれど,ぼくの直観では,テイラーによって連邦準備制度はほんの数歩ながらもルール基盤のアプローチに近づくことになるだろう.そして,それこそいまの連邦準備制度に必要なことだ.

PS. この記事は,べつにテイラーがイチオシだと言っているわけではない.そうではなくて,「きっとサムナーはテイラー指名に反対なんだろう」という見方に反応しているだけだ.

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