スコット・サムナー 「イングラムの寓話の現実版?」(2013年1月17日)

●Scott Sumner, “Give that man the Bastiat Award!”(TheMoneyIllusion, January 17, 2013)


経済学の基礎を教える講義ではこんな感じの話が語られる。

ジェームズ・イングラム(James Ingram)が創作した寓話は自由貿易に伴っていかにして生産面での効率性の向上がもたらされるかを例証してもいる。イングラムが『International Economic Problems』(John Wiley, 1970)の中で物語っている寓話の主人公は「X氏」という名の秘密のベールに包まれた起業家。テレビに自動車、カメラ等々を安くで製造する驚くべき方法――穀物や石炭等々を原料としてテレビや自動車等々を作り出す方法――を発見した。X氏は世間に向けて公然とそう宣言すると早速ノースカロライナ州の沿岸部の広大な土地を買い取ってそこに工場を建設。企業秘密の厳守を条件に総勢5000名の従業員を雇い、穀物や石炭、各種機械の買い入れも開始。穀物や石炭を乗せた列車がX氏の工場になだれ込む一方で、テレビや自動車を乗せた列車がX氏の工場から全米の展示場へ向けて放たれる。「X氏はエジソンの再来だ!」、「いや、ベルの再来だ!」。X氏の名声は高まる一方。ウォール街の投資家たちの間でもX氏の会社は一目置かれる人気の会社へとのし上がっていくことに。

全米の消費者たちもX氏を称賛した。X氏の工場で作られる製品は従来のものよりもずっと安かったからだ。その一方で、同業のライバル他社がX氏を疎んじたことは言うまでもない。ライバル他社の間では議会に働きかけてそれぞれの工場に生産割り当てを課す法律を通そう(そうすることでX氏の工場の操業を縮小させよう)とする動きもあったが、その試みも水泡に帰する。「経済面での(痛みを伴う)調整は技術進歩に伴う避けられない副産物である」。そのように訴える某議員の議会演説は世間の語り草となったのであった。

そんなある日のことである。X氏の工場近くの海でとある少年がスキューバダイビングに励んでいた。買ったばかりの機材の調子を試すつもりで海中を泳いでいるうちにX氏の工場の周囲に張り巡らされている警戒網をたまたま潜り抜けてしまった少年はX氏の秘密を目の当たりにする。X氏の工場では何も作られてはいなかった。X氏の工場は輸出入品を積み降ろしするための巨大な倉庫に過ぎなかったのだ。X氏は穀物や石炭を海外に「輸出」して得られた代金でテレビや自動車を「輸入」する(海外から購入する)というかたちで穀物や石炭をテレビや自動車に変えていたのである。X氏の秘密はメディアを通じて暴露され、世間は一斉にX氏を糾弾、X氏の工場も閉鎖されてしまうことに。「アメリカ国民の生活が海外の安価な労働力に脅かされる危険から危機一髪のところで逃れることができた。アメリカ国内の産業技術の研究開発に向けてもっと公費を投入すべきだ」。議員連の間からはそのような訴えが口をついて出るのであった。

経済学の講義で学んだことを現実に応用するとその先にはどんな結果が待ち受けているかというと・・・ [1] 訳注;リンク切れ。代わりに例えばこちらを参照されたい。 

あまりに出来過ぎていて信じられないような話がネット上で広まっている。本当であって欲しい。是非とも本当であって欲しい。個人的にはそう思いたいところだ。ベライゾン社のブログによると、米国企業に雇われているソフトウェア開発者が自分の仕事を中国に外注しているのが判明したという。そして浮いた時間を使って何をしていたかというと、・・・YouTubeで猫の動画を見ていたというのだ。

・・・(中略)・・・

ベライゾン社の調査によると、ボブは自分が任されているプログラミングの仕事を(中国の)瀋陽を拠点とするソフトウェア専門のコンサルタントに外注し、社内ネットワークにアクセスするために必要な2段階認証のトークン(パスワード)もあわせて外注先に「郵送」してボブ名義のアカウントでログインできるように手を打っていたという。ボブは外注先に自分が受け取る6桁の給与の5分の1に相当する金額を支払い、浮いた時間を「その他の活動」に費やしていたという。

「その他の活動」の中身とは? 以下がそれだ。

午前9時 – 会社に到着。数時間ほどRedditの閲覧。YouTubeで猫の動画を見る。
午前11時30分 – 昼食
午後1時 – ebayに出没
午後2時頃 – Facebook、LinkedInの更新
午後4時30分 – 今日一日の業務の進捗状況をメールで上司に報告
午後5時 – 退社

カスタードクリーム入りのビスケットをひたすら満喫するかのような一日。天国のような一日だが、かといってボブの生産性に悪影響を及ぼすようなことにはならなかったようだ。とある情報によると、「ボブのプログラムは無駄がなくてよく書けている。納期もきちんと守る。人事評価で社内イチの開発者という評価も何度も受けている」とのこと。

The Registerが伝えるところによると、ボブは会社をクビになったそうだ。悲劇、大いなる悲劇だ。

昨日も漏らしたばかりだが、どうやら世間の皆々様方は経済学流の考え方が大いにお嫌いなようだ。

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1 訳注;リンク切れ。代わりに例えばこちらを参照されたい。
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