タイラー・コーエン「進路に悩む医学生への経済学的アドバイス」

Tyler Cowen “What kind of doctor should I become?” (Marginal Revolution, April 3, 2014)


コーエン教授

いつも楽しくブログを拝見していますが、ひとつ以下の状況についてコメントをお願いすることは可能でしょうか。

私は医学部の三年生なのです。問題の都合上、様々な医学の専門分野に対して等しく興味を持ち、等しく適性を持っていると仮定してください。医学における私の働きによって最大多数の最大幸福(つまり社会への最高リターン)を生み出すためには、私はどの専門分野へ進むべきでしょうか。私はアメリカで働くことを念頭に置いていますが、自由時間や休暇を可能な限り無料の診療活動に捧げることもやぶさかでないということや、また自分の手で医療に従事したい(その代わりにたとえば、ただ単にお金をたくさん稼いでその利益を何かほかの慈善事業へと寄付をするのもありです)と考えていることもお伝えしておくべきでしょう。この問題の答えを得るために、私は様々な医療活動(白内障の手術など)に関するDALYやQALY [1]訳注;どちらも患者のの効用を数値化するためのアイデア。 を見てきました。私はこの問題の答えを得るのに正しい方向へと向かっているのでしょうか。何かご意見はありますか。

どんな分野であるかに関わらず、どういった仕事が社会に対して最高のリターンを持っているのでしょうかということについてお伺いできればと思います。これについて何らかの文献はありますか。

正しておかなければならない根本的で原理的な間違いは、「その辺」の多くの人たちはとても幸福で、非常に生き甲斐を持っているけれども、そうした個人は妥当な医者に見てもらうのに十分なほどのお金を持っていないということだ。社会的厚生を最大化したいと思っているのであれば、こうしたギャップのいくらかに手をつけることを考えなくちゃいけない。

でもそれは具体的にはどういった格差だろうか。

ふたつめの拘束的な制約は、僕の考えでは、ほとんどの人たちは実のところ多くの社会的な便益をもたらすために自分の計画をやり遂げるわけではないということだ。そして君もその一人だ。つまり君は長期に渡って自分のインセンティブに沿うような良い行いを求めているんだ。別の言い方をすれば自分にとって楽しかったり何か他の意味で報われるものだね。このふたつめの考慮が決め手となる可能性が高い。

たとえば、狭い意味での費用便益分析によって、デング熱(これは要点を示すための例であって、実際の評価に基づくわけじゃないよ)の治療こそ進むべき道だと決意するかもしれないよね。でも実地で医療に従事する人にとって、全く完全にデング熱から自分自身を守るのは難しい。そしてデング熱に罹ってしまうことは実際本当に悪いことになってしまう場合がある。歳を重ねるにつれて、実地へ行かないという圧力は高まるだろう。大きなリスクや自分への感染をせずに治療することのできる病気へと自分の努力を捧げることによって、より多くの便益をもたらすことができるかもしれない。例えば幼児死亡率の改善とかね。

個人の努力を捧げることとお金を捧げることの違いにも注意する必要がある。お金を捧げる人は、ナッシュ的な意味でのゲーム理論で考えると、努力を捧げる人たちがデング熱の治療への従事を拒否することに気付くだろう。それこそデング熱の治療にお金をかけることが高いリターンをもたらしうる理由だ。つまり、限界においてはボランティアや準ボランティア的な労働者の側が行うものが不足するのだ。(一般的に言って、こうした区別は一つの要因を別の要因よりも重視してしまうという問題を作り出してしまう。労働者とお金は異なったインセンティブに直面するため、それぞれ異なる動機へと耳を傾ける必要がある [2] … Continue reading 。)

次善の最適においては、実地で従事する人たちが「役得を消費し過ぎている」ように見えることも注意しておくべきだ。それと同時に、寄付金は実地で従事する人たちを安全地帯の外へ押し出すよう努めなくちゃいけない。少なくとも限界においてはね。

最後に2点付け加えておこう。まずひとつは、もし研究分野でのスーパースターになるそれなりのチャンスがあるのならば、それが進むべき道になるかもしれない。

ふたつめは、もしも付き合ってる相手がまだいないのであれば、世界へと貢献するにあたって考えを同じくする彼氏彼女や配偶者を見つける社交の輪(援助活動や、世銀、ベジタリアンなどなど)を広げるのに時間を使うといい。

追記:デヴィッド・ヘンダーソンがコメントを付け加えている。

References

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1 訳注;どちらも患者のの効用を数値化するためのアイデア。
2 訳注;お金を出す場合と自分で実地作業をする場合ではインセンティブが異なり、そのため貢献すべき分野も変わってくるのでそれを考慮する必要がある。
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