タイラー・コーエン 「図書館が大量の蔵書を(誰かにあげちゃえばいいのに)廃棄してしまうのはなぜ?」(2011年10月15日)

●Tyler Cowen, “Libraries destroy books carrying costs exceed liquidity premia no free disposal edition”(Marginal Revolution, October 15, 2011)


廃棄してしまわないで貧しい人たちに譲ればいいのにどうしてそうしないの? 彼らも本を欲しているだろうに。譲るんなら囚人でもいいし、病気の子供でもいい。経営状態が悪くてもがいてる個人経営の本屋でもいい。本を譲るのにコストなんてかからないでしょうに。そうでしょ?

・・・というのが図書館の本を廃棄処分することに対して真っ先に寄せられる反論だが、図書館が置かれている状況というのは古着だとか不要になったポルノだとかを救世軍に寄付するのに比べるといくぶん複雑なのだ。図書館の本にはスタンプが押されていたり、バーコードシールだとかICタグだとか分類ラベルだとかが貼り付けられている。そのおかげでその本が図書館のものだという証になるわけだが、その本を誰かに譲ったり売ったりするとなると本に貼られているシールだとかラベルなんかをきれいさっぱり剥がさなきゃならない。図書館から本を譲り受けた(あるいは買い取った)人が決してその本を図書館の書架からこっそり盗んだわけじゃないということを証し立てるためにはそこまでしなきゃならないのだ。嘘なんかじゃないよ。シールとかラベルとかが貼られたままだと、図書館が一旦手放した本をどういう経緯でか手に入れた人が親切にもその本を図書館までわざわざ届けてくれることがあったりするんだから。

(一冊、二冊とかいうちんけな数じゃなくて)膨大な数の本が問題になっているということも忘れちゃいけない。それも膨大な数の本を短期間のうちに急いで処分しなきゃならないのだ。あなたが図書館の経営者だと想像してもらいたい。お抱えの会計士がやってきて次のように通告してきたとしよう。「10万冊。それだけの蔵書を処分してください。急いでください。1週間。1週間で全部処分してください」。あなたが取り得る選択肢は二つ。専門家を呼び寄せて蔵書を片っ端から鑑定してもらうというのが一つ目の選択肢だ。歴史的な価値だとか資料としての重要性だとかいう基準に照らして一冊一冊入念に鑑定してもらうのだ。そして専門家による鑑定で評価が低かった本を順番に次々と書架から引っ張り出してきて誰かに譲渡するなり売ったりする準備を整える。10万冊に及ぶ本一冊一冊に根気強く除籍スタンプを押したり一冊一冊に貼り付けられているシールやラベルをきれいさっぱり剥がしていくのだ。次に二つ目の選択肢。まずは図書館のコンピュータにお伺いをかけて蔵書の貸出回数のデータを調べる。そして貸し出された回数が少なかった本を順番に次々と書架から引っ張り出してきてシュレッダーに放り込む(廃棄する)。

二つ目の選択肢の方が一つ目の選択肢よりもずっと手早くて安上がりだ。紙のリサイクル工場に廃棄する本を古紙としてまとめて売り捌いてしまうという手もある。そうすれば本を廃棄するのに伴って差し引きしてプラスの儲けを手にすることだってできる。「紙のリサイクル工場に売るだって?」と誰もがしかめっ面をするだろうが、致し方ない。あなたの親友がゾンビに今にも噛み付かれようとしている。銃を持っているのはあなた一人だけ。図書館員はあたかもそのような差し迫った状況に置かれているようなものなのだ。

二つ目の選択肢にも欠点はある。歴史的に見て貴重な本が他の本と一緒くたにされて廃棄されてしまう可能性がそれだ。しかしながら、後世に残すべき貴重な本を見つけ出すためにはゴミ同然の大量の本の山の中に分け入らなきゃいけないということを忘れちゃいけない。極めて価値のある本が他の本と一緒にゴミ箱に捨てられてしまう(廃棄されてしまう)のは避け難いことであり、そうならないように抗おうにもできることは少ない。『白鯨』の(ボロボロの)初版と2011年に出た(ピカピカの)再版とが同じ棚に並んでいたとしたらどっちを借りるだろうか? 初版を借りる人なんていないだろう。貸出回数のデータが詰まった図書館のコンピュータには初版と再版の違いはわからないのだ。

二つ目の選択肢には他にも欠点がある。廃棄するにしても元の姿がどんなだったかわからないように滅茶苦茶にした上で廃棄しなきゃならないのだ。本をそのままの姿でゴミ箱に捨てちゃダメだ。誰もいない隙を見計らって下衆野郎にゴミ箱の中身をこっそり持ち去られてしまうのがオチだ。本をゴミ箱に捨てるのであれば誰も欲しがらないように細かく裁断してから捨てるか、あるいはゴミ箱を洗剤まみれにする必要がある。誰だってゴミ箱をセール品が詰まったカゴみたいにはしておきたくはないだろう。(本を元の姿のままで廃棄してしまったために)ゴミ箱に人が殺到するなんてことになったら危険で汚いだけだ。

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