タイラー・コーエン 「時を超えた裁定行為」(2015年5月31日)/「『過去』へのアウトソーシング」(2008年3月28日)

●Tyler Cowen, “Traveling back into the past to trade for present gain”(Marginal Revolution, May 31, 2015)


こういう話題はバズフィード好みの話題と言えるだろうか? そう昔のことではないが、会話の最中に次のような質問を受けたことがある。その時は時間が無くてちゃんと答えられなかったのだが、代わりにここで私見を述べさせてもらうことにしよう。

タイムマシンを持っていてそれを金儲けのためだけに使うつもりだとします。タイムマシンを使えば「過去」のどの時代にも行けますが、「現在」から「過去」に一品だけ持って行って何か別の品――「過去」に生きる誰かが等価交換と認めてくれる品――と交換するとします。そして新たに手に入れたその品(「過去」に生きる誰かから交換を通じて譲り受けた品)を持って「現在」に戻ってくるわけです。時を超えた(「現在」と「過去」の行き来を通じた)裁定行為から得られる儲けを最大化するためには「過去」のどの時代に向かうべきでしょうか? また、「現在」から「過去」に持っていく一品には何を選んだらいいでしょうか? その品と交換に何を手に入れたらいいでしょうか?

「これだ!」という答えはすぐ見つかるのだがよくよく考えてみるといくつか厄介な問題が控えていることに気が付く。「これだ!」という答えの一つにこういうのがある。ベラスケス――ベラスケスでなくともその他の有名な画家でも可――が生きている「過去」の時代にタイムスリップする。「現在」から「過去」へは金(ゴールド)を持ち込み、ベラスケスのアトリエに足を運んで金と交換に絵を譲ってもらう。そしてタイムマシンに乗って「現在」に再び戻ってきてその絵を売りさばくというわけだ。ベラスケスがうまく話に応じてくれるかどうかはわからないが、ベラスケスが駄目でも他に誰かいい相手は見つかることだろう。金は高価な品であり、持ち運ぶのも簡単だ。「金の重さを測らせてくれ」「金の含有量を調べさせてくれ」と迫られることもあるかもしれないが、ともかく商談はうまくいくことだろう。

問題は「現在」に戻ってきた後に起こる。その絵が間違いなく自分の持ち物だということをどうやって証明したらよいかという問題がそれだ。その絵が盗品として記録に残っていることはおそらくないだろうが、FBIやインターポール(国際刑事警察機構)から呼び出されて長々とあれこれ取り調べられることだろう。ベラスケス(あるいはその他の有名な画家)の絵を売って得られた儲けは果たして「短期」のキャピタルゲインなのだろうか、それとも「長期」のキャピタルゲインなのだろうか? その点についてIRS(内国歳入庁)の職員(徴税官)から探りが入るだろうが、アインシュタインを盾にとって自分の言い分を通そうとしても聞き入れてはもらえないことだろう。IRSの職員から「(タイムマシンを使って)『現在』と『過去』を行き来することを通じて他にも多額の所得を手にしているのではないか? その所得を申告せずに隠しているのではないか?」と疑いの目を向けられることも避けられないだろう。

こういった一連の問題を回避する術もいくつか考えられる。

1. 絵の買い手を自分で見つけて売るのではなく信用できて目利きの――そして次々と質問を浴びせてくることのない――美術商に買い取ってもらう。その絵がいかに本物らしく見えたとしても(いや、正真正銘の本物なのだが)出所が疑わしいということもあってかなり安値で買い叩かれるだろうが、それは仕方がない。しかしながら、美術商に絵を売って得たお金を銀行に預金した暁にはやはりFBIやらIRSやらからあれこれ探りが入ることだろう。

2. 作品の来歴を跡付ける書類が無くても自分の持ち物だということを証明できそうなアート作品を手に入れる。その一例としてはタイムマシンを使って比較的最近まで生きていた芸術家――例えば、ウィレム・デ・クーニング――のもとを訪ねて商談を持ちかけ、無事商談が成立したら買い取った作品を「現在」に持ち帰るという方法がある。そしてこう主張するのだ。「この作品は父親からもらったものだ。私の父親が亡くなる直前に譲ってくれたのだ」。しかしながら、やはり(FBIやらIRSやらからの)しつこい調査の手から逃れることはできないだろうし、嘘発見器にかけられることだってあるかもしれない。さらには、生前の父親のことを知っている人物からチクリが入る(「彼はデ・クーニングとは何の面識もなかったよ。その“Excavation”とか何とかいう作品を屋根裏部屋に飾っていたなんて話も聞かないし、その様子を見たこともない」)可能性もある。

3. 来歴という概念が大して意味をなさないようなアート作品を手に入れる。しかしながら、どうやってその作品にめぐり合い、いかにしてその作品を手に入れることができたかについて無理のないエピソード話を拵える必要があるだろう。

さて、これだけ用心した上で他に何かすべきことはあるだろうか? 作品の来歴を跡付ける書類を誰かに作成(偽造)してもらおう・・・なんて考えは持たない方がいいだろう。

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●Tyler Cowen, “Outsourcing, taken to extremes”(Marginal Revolution, March 28, 2008)


(未来へのタイムトラベルだけではなく)過去へのタイムトラベルもある程度可能となったとしたら、企業の中には業務の一部を「過去」の世界にアウトソースする――賃金の低い(人件費が安くつく)「過去」の時代に生産拠点を移す――ところも出てくることだろう。つまりは、「時を超えた(時間横断的な)貿易の利益」(transtemporal gains from trade)を手にするチャンスが生み出されることになるわけだ。・・・ただし、政府が(「過去」の世界との取引を制約する)「貿易障壁」を課さなければ、という条件が付くが。

そう語るのはグレン・ホイットマン(Glen Whitman)だ。全文はこちらをご覧いただきたいが、はじめから最後まで興味深い議論が目白押しだ。ところで、スティーヴン・キングは正しかったようだ。映画『ジャンパー』〔日本語版ウィキペディアのページはこちら〕がキングの正しさを裏書きしているのだ。『ジャンパー』を楽しむためにはSF特有の反実仮想の発想を抵抗なく受け入れられる必要があるだろうが、そういう但し書きはあるにしても『ジャンパー』はかなり出来のいい作品だと評価できるだろう。テレポーテーション(瞬間移動)をテーマとした作品――その源流はプラトンの『国家』の中に出てくるギュゲスの指輪のエピソードに求めることができるだろう――は数多いが、私が知る範囲では『ジャンパー』はその中でもベストの一作だと思う。できることなら読者の皆さんにもビデオを買うなり借りるなりして自分の目で直接確認していただきたいものだ。

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