タイラー・コーエン 「歯医者に『いい仕事』をしてもらうにはどうすればいい?」(2006年4月25日)

●Tyler Cowen, “How to motivate your dentist” (Marginal Revolution, April 25, 2006)


昨日のことだ。歯医者に行ったのだが、すぐに家に戻ってこれるのがわかっていたこともあって(なんてことはない。たかが根管治療に過ぎなかったのだ)、読むものを何も持っていかなかった。そのため診察台に座っている最中は手持ち無沙汰で暇だったので、歯医者がどのようなインセンティブに直面しながら(あるいはインセンティブ無しで)治療にあたっているのかについてあれこれと考えを巡らせていた。その成果を以下に語らせてもらうことにしよう。

私のかかりつけの歯医者はかなりの腕利きだ。とは言っても、その医者がどれだけの「意欲」(やる気)を持って仕事に取り組むか(一生懸命働こう、いい仕事をしようという気になれるかどうか)という問題になるとどの患者に対しても同じだけの意欲を持って接するというわけにはいかず、この面(医者が歯の治療にどれだけの意欲を持って向き合うかという面)で患者ごとにバラツキが出てくることはどうしても避けられないことだろう。

(歯医者に対して)金銭的なインセンティブ [1] … Continue readingが何も与えられないようであれば、歯医者は患者の痛みを和らげるために相応の努力を注ごうとはしないことだろう。「評判」がかかっているじゃないか、という意見もあるだろう [2] … Continue reading。しかしながら、カーネマン(Daniel Kahneman)らの研究によると、「痛みの長さ」と「痛みの記憶」との間にはこれといった関係は見られないらしい [3] … Continue reading。そうだとすると、患者の声を集めた「評判」は歯医者の仕事ぶりの良し悪しを測るシグナル(指標)としてはいくらか欠陥があることになる。また、その歯医者の「評判」がどのようなものであれ、どの患者もその「評判」から予想される「平均的な」治療よりも(その歯医者が担当する他の患者の誰よりも自分のことを)ずっと手厚く扱って欲しいと思うことだろう。

歯医者の「仕事ぶり」(パフォーマンス、成果)が見事なものだったと思うのであれば帰り際にボーナス(チップ)を払うようにしたらいいんじゃないか? そういう意見もあるかもしれないが、そうなると患者にできるだけ痛みを与えないようにしようと試みられてそれが行き過ぎてしまうかもしれない。例えば、「歯が欠けたというお話ですが・・・、心配しないで大丈夫ですよ。治療の必要はないようですね」といった具合にだ [4] … Continue reading

ちなみにだが、昨年からかかりつけの歯医者を変えることにした。それまで通っていた歯医者では歯のクリーニング中に余計な痛みを与えられてそれを我慢しなければならなかったからだ。

自分も同業者(歯医者)であるかのように装うというのはどうだろうか? [5] … Continue reading(この手を試す場合はこちらのサイトが役に立つだろう) あるいは弁護士であるかのように装うというのは? [6] 訳注;「変な治療でもしようものなら訴訟を起こすぞ!」という脅しになる。 「顔の広さ」(人脈の広さ)を仄めかすというのはどうだろうか? [7] … Continue reading

かかりつけの歯医者を変えたという話は先にしたが、新しい担当医の前では何も怖くはないかのように装うようにしている。また、帰り際に「今日もいい仕事ぶりでした」と口頭で伝えるようにもしている。その担当医が「私は名医だ」というセルフイメージ(自己認識)を持ってくれるようになれば結果として「いい仕事」を引き出せるのではないかと慮(おもんぱか)ってのことだ。「成果給」(仕事ぶりに応じたボーナス(チップ)の支払い)はそううまくはいかないのではないかというのが今のところの見立てだ。

他に何か「こうすればいい」という案はないだろうか?

References

References
1 訳注;少し後で出てくるが、歯医者のその日の「仕事ぶり」に応じて治療終了後にボーナス(チップ)を支払うというのは金銭的なインセンティブの一例。
2 訳注:「あそこの歯医者は行かない方がいい。痛いのなんのって」という悪評が立つとお客(患者)の入りが悪くなるかもしれない。そのため、歯医者としてはそのような悪評が立たないようにしようと気を遣う(患者に余計な痛みを与えないように気を付ける)可能性がある。
3 訳注;治療の時間(痛みを経験する時間)が長ければ長いほどその痛み(治療)の記憶が後々まで(不快な記憶として)強く残るかというとそういうわけではない、ということ。このことに関しては例えばこちらのブログ記事(“書評- D・カーネマン, Thinking, fast and slow -④”(Flip-Flop|フリップ-フロップブログ, 2012年1月16日))を参照のこと。
4 訳注;治療の痛みが少なければ患者も満足してくれるだろう(そして帰り際にボーナスを支払ってくれるだろう)と当て込まれる結果として(痛みの伴う)必要な治療が先延ばしされてしまい、長い目で見ると患者のためにならないかもしれない、という意味。
5 訳注;相手(患者)も同業者らしいということになると手抜きや不必要な治療もすぐに見破られるかもしれない、と感じて歯医者も緊張感を持って治療にあたるようになる可能性がある。
6 訳注;「変な治療でもしようものなら訴訟を起こすぞ!」という脅しになる。
7 訳注;顔が広いと思われると歯医者の態度も変わる(丁寧に治療してくれる)かもしれない。数多くいるらしい知り合いに「腕利きの歯医者」として紹介してもらえれば新規の客(患者)を大勢獲得できるかもしれないからだ。
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