タイラー・コーエン 「私に強い影響を及ぼした本《十選》」(2010年3月16日)

●Tyler Cowen, “Books which have influenced me most”(Marginal Revolution, March 16, 2010)


本ブログの熱心な読者の一人であるChrisから、次のような質問を頂戴した。

貴殿の世界観に影響を及ぼした本のトップテンを是非ともお教え願いたいです。

「長い時間をかけて熟考した挙句に選び抜いた10冊」ではなく、「パッと頭に浮かんだ10冊」ということで許してもらいたいと思う。私の世界観に影響を及ぼした源(みなもと)の候補は本だけに限られるわけではないということも強調しておくとしよう。概(おおむ)ね読んだ順番に並んでいると思うが、リストの順序にはこれといって深い意味は無いことを断っておく。

1. プラトンの対話篇;プラトンの対話篇の数々に手を伸ばしたのは、かなり若い時分のことだ。哲学的に考えるとはどういうことか、メタ合理性とはいかなるものか。プラトンの対話篇には、そのあたりのことを教わった。

2.The Incredible Bread Machine』 by スーザン・ラブ・ブラウン他;経済学について書かれた本で初めて手に取ったのが本書だ。経済学への興味を駆り立ててくれた一冊。

3.Capitalism: The Unknown Ideal』 by アイン・ランド;「生産」というのは大事な役割を果たしており、生産者には活動するための「自由」と「インセンティブ」が与えられねばならない。(本書の中で語られる)そのようなアイデアに興味をそそられたものだ。

4.Individualism and Economic Order』(邦訳『個人主義と経済秩序』) by フリードリヒ・ハイエク;「発見手続きとしての市場」、社会主義下での経済計算の不可能性(社会主義のもとで経済計算がうまくいかない理由)。本書を通じてそのあたりのことが学べる(ところで、ジャスティン・ウォルファースとマーク・ソーマが高校の経済学の授業でハイエクの考えを教えようとする一部の動きに疑問を呈しているが、そんな彼らに舌打ちをくれてやるとしよう)。

5.The General Theory of Employment, Interest, and Money』(邦訳『雇用、利子および貨幣の一般理論』) by ジョン・メイナード・ケインズ;ケインズは、経済学の世界で最も偉大な思想家の一人だ。本書のどのページを開いても、必ずといっていいほど何かしらの新しいアイデアに出くわすことになる。

6.Autobiography』(邦訳『ミル自伝』) by ジョン・スチュアート・ミル;一生の間に人の考えはいかに変容を遂げるか&どのように変わるべきなのか、といったことについて考えさせられた一冊。ミルは、思想家としては言うまでもなく、文筆家としても優れた力量の持ち主だ。

7.Word and Object』(邦訳『ことばと対象』) by ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン;現状(今の自分が到達できる限度)よりもさらに深いレベルで物事を理解するにはどうすればいいか。本書を通じてそのことが学べる(そのような読み方をする人はあまりいないだろうが)。

8.Reasons and Persons』(邦訳『理由と人格』) by デレク・パーフィット;倫理問題に対する厳格なかたちの個人主義的なアプローチは概してうまくいかない。本書を読んで、そう納得させられた。それだけではなく、推論したり、物事を深く掘り下げたりするための新しい方法に目を開かせてもくれた。

9.Sexual Personae』(邦訳『性のペルソナ』) by カミール・パーリア;本書の中で展開されているアイデアそれ自体には大して影響を受けていないと思うが、理由はどうあれ、本書を読んだおかげで「文化経済学」の分野に進出しようと思い立つに至ったことは確かだ。さらには、これまで以上に広い視野から問題に切り込む姿勢を培うきっかけにもなってくれた。ちなみに、本書を私に薦めてくれたのはタバロックだ。

10.Remembrance of Things Past』(邦訳『失われた時を求めて』) by マルセル・プルースト;人間の内面性(内面世界)をテーマとした本の中で、今でも最高の一冊。

a) どちらを選べばいいか決めかねることに加えて、b) 選出する本の数を10冊と決めてしまってもう数に余裕がないわけだが、フィッシャー・ブラックの手になる二冊の本(『Business Cycles and Equilibrium』/『Exploring General Equilibrium』)も是非とも挙げさせてもらいたいと思う。ラ・ロシュフコーの『箴言集』には、審査員特別賞(選外佳作)をあげてもいいかもしれない。自己欺瞞だとかそのあたりのテーマ絡みで色々学んだものだ。他には、シェイクスピアもいる――物事を深く掘り下げて考えることを教えくれた功績で――。問題は、数ある作品の中からどれを選べばいいか決められそうにないことだ。あとは、ハロルド・ブルームの『The Western Canon』なんかもか。

他のブロガーの面々にも、「私に強い影響を及ぼした本」のリストを是非とも披露してもらいたいものだ。

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