ポール・クルーグマン、日本への緊急提言

Paul Krugman, “Japan: Don’t Ruin A Good Thing”, September 19, 2013.


日本:いいところを邪魔すんな

by ポール・クルーグマン

Paresh/The Khaleej Times - Dubai, UAE/CartoonArts International/The New York Times Syndicate
Paresh/The Khaleej Times – Dubai, UAE/CartoonArts International/The New York Times Syndicate

ここまでのところ、アベノミクスはホントにホントうまくいってる。「日本銀行は変わったんだ」、「宴もたけなわのところで酒瓶を片付けてしまうようなマネはしない」、「持続的なプラスのインフレ率を目標にする」とシグナルを送り、また、債務は高水準ではあるものの、なんらかの財政刺激をまもなく行うというシグナルも送ることによって、日本の当局者たちは、短期の経済実績で刮目すべき転回を成し遂げた。

でも、この短期の成功は、自己破滅的なおわりを迎えたりしないだろうか? 『フィナンシャルタイムズ』に最近のった論説にでてくるこの問いは、ぼくもホントに心配してる:「日本経済は、第二四半期に当初の報道よりも大幅に急速なペースで拡大した。それにともなって、安倍晋三首相が異論多数の消費増税を敢行する確率が上昇している――もっとも、この増税はさらなる政府支出によって相殺されるという話だが」

いいかな、もしかすると、日本はこの増税を受けてもなお、経済成長を維持できるかもしれない。でも、できないかもしれない。経済成長が確実に定着するまで待てばいいじゃないの。とりわけ、デフレ予想ががっちりと〔プラスの〕インフレ予想に転換するまで待てばいいじゃないの。

ぼくに言わせれば、消費税増税を延期するのは、純粋に財政の観点から見ても賢明な判断だ。日本でゼロ下限とデフレが組みあわさって生じた深刻な帰結の1つは、日本の実質金利が最近まで他の先進国よりも大幅に高くなってしまっていたことだ――これまでに積み重なった債務がすっごく大きいときには、深刻な懸念事項だよ。実質金利を下げるのは(そして、かなりの部分まで、既存の債務の実質価値を下げてやるのは)、長期的な財政の見通しにとって大いにものをいう。財政責任の名の下に、この前線で事態の進捗を危機にさらそうってのは、おろかでしかない。

そうだね、たしかにゆくゆく日本はもっと歳入を必要とするようになる。でも、リフレーションの方が先決だ。消費増税がいままさに議論されてるってことですら、マジでよくないサインだよ。

OECDの不確実っぷり

2008年以後の経済論議には、独特な特徴がある。それは、目を見張るほどの破壊的な役割を、国際的なテクノクラートたちの全員ではないまでも大半が演じてしまっている、という点だ。高い失業率と低いインフレ率に直面するなかで、主だった機関は――欧州委員会、国際決済銀行、経済協力開発機構 (OECD) などの機関は――ずっと一貫して先進諸国をいっそう落ち込ませるような政策を訴え続けている。

そうした政策提言で興味をひくのは、おそらくみんなの予想しているとおり、そうした政策はべつに通例の経済モデルを厳格に適用して導き出されたわけじゃないって点だ。通例のモデルによれば、何と言おうと縮小的な財政政策は縮小的であって、より緩和的な金融政策によってその悪影響を相殺できない状況で実施すべきではない、という話になる。もちろん、通例のモデルからは、高い失業率と低いインフレ率の状況下で「金利を引き上げるべきだ」なんて話はでてこない。それなのに、どういうわけだか、こうした機関は財政政策と金融政策をどちらも引き締めるのがいまなすべきことだ、なんて判断を下しちゃって、いきあたりばったりにあれこれと話をつくりあげては――ぼくはそんなのモデルって呼ばない――自分たちの要求の正当化に使ってる。

この手の人らは、「クラート」と呼んでやった方がいいんじゃないかな。だって、「テクノクラート」の「テクノ」部分は窓から放り投げちゃって、そのかわりに直観だかなんだかを使ってるんだもの。

ともあれ、OECD はその手のわからんちんのなかでも最下位か下から2番目ってところだ――(緊縮っぷりでは)BISもいい勝負してる。OECDみずからの推計に寄れば、ユーロ圏全体の「基礎的なプライマリーバランス」は、2009年以降に大幅な赤字から大幅な黒字に変わってるらしい。国内総生産の約4パーセントという振り幅だ。いま乗数についてわかってることを踏まえると、この転換によって、緊縮がなされなかった場合に起きたであろう状況と比べて、ユーロ圏の GDP は少なくとも5パーセントの落ち込みになっているはずだと考えられる。おそらくは、5パーセント以上の落ち込みだろう。当然、ユーロ圏は、実にひどい有様になってる。そうやって起きたのが、景気後退が長引き、成長しているときですらいまなお低調な経済成長だ。さて、この点はどう説明できるっていうんだろうね?

なんだね、そいつは「不確実性」にちがいあるまいよ、とOECDの主席エコノミストはおっしゃる。

「それ以外になにがありうるというのかね?」って。

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

あべこべなシグナル

by ショーン・トレイナー

2つの四半期にわたって堅調な経済成長を記録した日本は、いまやグローバル経済で燦々と日の当たる場所だと広く考えられている。ただ、アナリストたちのなかには、新しい税制案が日本の景気回復を腰折れさせかねないと懸念している人たちもいる。

1990年代に資産バブルが崩壊してから、日本はもう20年近くにわたって、緩慢な経済成長とデフレが続いてきた。2012年に、安倍晋三首相が率いる保守政党の自由民主党が、「我が国の持続的な経済不況を終わらせる」ために大胆な行動をとると約束して選挙で圧勝をおさめた。

政権をとって以後、安倍氏は積極的な財政・金融の刺激策をとってきた。その結果は劇的だ。これまで2四半期経済は年率4パーセント近くで成長している。企業収益は大幅に上向き、日本の株価は1年足らずで50パーセントの上昇をみせた。

ところが、旧政権で可決された消費増税が間近に迫って、いまなお低調な日本の消費者需要を阻害する恐れがでてきている。長年にわたるデフレによって、日本の消費者はお金の節約にはげむことに習慣づけられてしまっている。また、多くの経済学者たちは、国内消費が復活することが、持続的回復に欠かせないと言っている。今回の新たな増税は、4月に消費税を現行の5パーセントから8パーセントに引き上げ、さらに2015年には10パーセントにまで引き上げようというものだ。増税を批判する人々は、いまこそいちばん必要とされるときに、この増税は消費者支出を抑制してしまうと考えている。

安倍氏は、経済状況に応じてこの増税を延期するという見解をもっていたが、この案を支持する決断を下してしまった。「日本は債務問題を真剣に受け止めている」と投資家たちに信用させるためには、この増税が必要不可欠なのだ、というのが安倍氏の主張だ。

© The New York Times News Service

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  1. ぐうの音も出ねーな。庶民は税金あげるなと言ってんじゃない。今は勘弁してくれと言ってる

  2. When the value-added tax is incurred in Japan, Product prices will hike and the demands will decrease. The individual company will struggle the decreaded demands, and will try to transfer their normal workers to temporary workers.
    By doing so, they will be able to decrease the cost on employment.
    They move on from normal workers to temporary workers to contract workers, to outsourcing workers, to foreign outsourcing workers.
    Labour costs will decrease and the individual company will pull down their product prices.
    This means the saving of payments of the value-added tax, and beginning of deflation.
    My Japanese blog is : http://ameblo.jp/tetzan/entry-11625317564.html

  3. 団塊の世代が低年金に苦しみ、若者の正規社員が少ない現状において、増税は消費意欲をそぐでしょう。危険です。

  4. 残念。
    これまで、強烈に増税を煽っていたマスゴミが、
    これからは強烈な『安倍降ろし』報道が始まり、
    どんな政策をしても、批判的な報道しか出てこないと思う。

    安倍さん耐えられるかな、厳しいね。

    先送りすれば、長期政権確実だったのに・・・あーーあ

  5. 「いきあたりばったりにあれこれと話をつくりあげては――ぼくはそんなのモデルって呼ばない――自分たちの要求の正当化に使ってる。」

    コメントをする前に、上の短い文を3回声に出して読むといいと思います。

    1. 制限されると逆にやりたくなるのが人間です。モデルはいくつ作ってもその中に一つでも良いものがあればよい方なので、日頃からモデルを作られたら良いでしょう。心無い人のせいで、あなたの素晴らしい才能を駄目にされては一生後悔しますよ。

  6. 国民への増税のメリットの説明不足。そもそも国民にメリットなどないのかもしれないが。納得までいかなくても「仕方ないよな」と思わせるストーリーがない限り、国民はお金を「使わない」方向に走る。なぜなら、お金を取られるというイメージしかなく、先行きが不安だから。結果、経済が停滞するのが落ち。将来的には仕方なくなると思う。でも、経済の回復を感じ取れてない一般庶民にとっては、今じゃない。

  7. 財務省の一部官僚は、金をまきあげるには、貧乏人から絞り盗るのが最も手っ取り早いと思っているようだ。しかし、君たちの豊かで安全な暮らしを支えているのはそういった人々なんだよ。墓穴を掘っていることも分からず、今まで何を学んできたのかねえ。

  8. 安倍の長期政権を望んでいる人がいたことが信じられない
    昔から無責任の塊なのに

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