ポール・クルーグマン「アップル vs. マイクロソフト:IT業界巨人譚」

Paul Krugman, “Apple vs. Microsoft: A Tale of Tech Titans”, September 5 2013.


アップル vs. マイクロソフト:IT業界巨人譚

by ポール・クルーグマン

 Chang W. Lee/The New York Times Syndicate
Chang W. Lee/The New York Times Syndicate

ぼくは技術業界の事情通じゃない。だから、バルマーの引退にどんな含意があるのか、ニュースにおいつくだけで一苦労だ。それに、これから書く話は、多くの人たちにしてみればわかりきったことかもしれない。それでも、言っておいて損はなさそうだと思う:表面的なちがいから目を移せば、絶頂期のマイクロソフトと今日のアップル、それぞれの戦略には目を見張るほどの対称性があるのがわかる。

マイクロソフトの話はご存じのとおり。かつて80年代に、マイクロソフトとアップルはどちらもオペレーティング・システムを売っていた。明らかに、優れていたのはアップルの方だ。でも、アップルは市場の性質を見誤っていた:「うちらの方がいいシステムをもってる。そこで、こいつを自前の美しいマシンで使えるようにして、プレミアム価格を設定しようじゃないか」。他方、マイクロソフトは、安価なマシンを製造してる大勢の人たちに自社のシステムをライセンス提供した――そして、ネットワーク外部性を通して、業界に命令できる立場を確保した。みんながウィンドウズを使ったのは、みんながウインドウズを使っていたからだ――ウィンドウズの方が、利用できるソフトウェアが多かったし、企業の技術担当部署にとっても、サポートの態勢ができていた、などなど。

この支配は、今日まで持続してる:ぼくがいまこのポストを書いてるノートブックはウィンドウズ7で走ってるし、アップル製ノートブックを買おうだなんて、考えもしない――その主な理由は、これまで何度もやばいところを助けてくれた〔プリンストン大学の〕ウィルソン校IT部署にいるすごい人たちが、アップル製品を扱う態勢をもっていないからだ。

でも、マイクロソフトは、盛り上がる携帯端末のうねりに乗り損ねた。他方、アップルは、一時的ながらも、時代の先を行っていた。なんで「一時的ながらも」かっていうと、ぼくが見る限り、もやはアップル社の製品は品質面で圧倒的な先端にあるわけじゃないからだ。ぼくも、iPhone を使ってたこともある――けど、かなしいことに、水没しちゃって動かなくなっちゃった。いまはサムスン製品を使っている。2機種のちがいは、とくに大きなものには思えない。ぼくは iPad2 をもってる。画質がよくって買うことにしたんだ。でも、上着のポケットに入れて持ち歩ける小さいタブレットも欲しいなと思って探してみたところ、iPad Mini はアンドロイドの競合機種いくつかと比べて目立って優れているわけじゃないとわかった。それどころか、ぼくの利用目的に照らしてみると、いくつかの点で、劣ってさえいた。(この件はもうちょっと後で。)

さて、マイクロソフトとちがって、アップルは他社より劣った製品を売ってるわけじゃあない。でも、同社が売ってる製品が競合製品と比べて優れている点は、あったとしてもわずかなものだ。それでいて、プレミアム価格をつけている。なんでそんなことができる? ここでも、ネットワーク外部性がものを言ってる:主に、アプリの品揃えが行き届いているおかげだ。というか、そう聞いてる(実のところ、ぼくはそうたくさん使わないんで)。

それじゃあ、アップルの覇権をマイクロソフトのそれと比べてみると、そのゆくえはどんな風に見えるだろう? マイクロソフトは実際のところ、信じられないほどの成功例だってことをお忘れなく――同社はPCの囲い込みを何十年にもわたって維持したし、それどころか、その囲い込みをいまでも保っている。たんに、市場が変化しているだけの話だ。気楽にぼくの印象を言えば、アップルの囲い込みは、マイクロソフトほど堅牢じゃない。理由の一端は、アップルが個々人の消費者が抱く忠誠心に頼っている点にある――この点は、マイクロソフトと対照的だ。マイクロソフトは、企業のITマネージャたちの忠誠心に頼っていた。彼らは、その性質上、消費者よりも保守的だ。

ともあれ、ちょっと馬鹿な話を。アップルについてぼくが抱いてる不満を書こう。

――というわけで、アップル製品で困っていること。一般に、アップルの要点は、スティーブ・ジョブズの精神を反映しているってところにある。ジョブズは、キミにとってなにがいいことかを知っていた――で、ちがったやり方の余地は与えなかった。すると、典型的なユーザーじゃない場合、キミは単純なことをするために iOS とずいぶん苦労して格闘するハメになる。

好例を挙げよう:いつもここを読んでくれてる人ならご存じのとおり、ぼくは YouTube でライブ演奏を見るのが大好きだ。そして、とくにいいやつはブロードバンド接続ができないときにも見られるようにしたいと思ってる。そこでぼくは動画を mp4 で自分のPCに落としている――動画ダウンロードができるアドオンはあれこれあるのよ。

でも、実はタブレットにも動画を入れておきたいなって思ってたりする。それを iOS でやろうとすると、まずは iTunes にインポートして、それから同期しなくちゃいけない。大した手間ってわけでもないけど、それでも2~3のめんどくさい余計な手順を踏まなくちゃいけない。でも、大きな厄介事は、自分の動画を整理したくなったときに持ち上がる:Arcade Fire の演奏のお気に入りベスト10が関連した1つのまとまりだってことを、いったいどうやって iTunes に教えてやればいいんだろう?

結局、ぼくが見つけた唯一の方法は、10コの動画がありもしないTV番組のエピソードだって iTunes に信じ込ませることだ。やれるにはやれるけど、あほくさい話だよ。他方で、ぼくの Nexus 7 だと、”Arcade Fire” って名前のフォルダをつくって、そこにただ動画をコピーしてやればいい。それで完了。

© The New York Times News Service


読者のコメントから:「ユーザーフレンドリーは際どい話題」

コメントの大半は,もっと長い投稿を短縮したものです.

ぼくにとって読んで愉しい文章を書く最高にすごい人たちの1人があなただけど,ここで表現してる考えは完全にばかげてるよ.PCじゃなくってアップル製品を買ってたら,そもそもプリンストン大学のIT部署に助けてもらわずに使えるって,思いもよらなかったの?
―― P.D., メキシコ

あなたが議論好きなのは知ってるけど,こんな話しをしてると経済刺激の話題が子供の遊びみたいに思えちゃうよ.
―― T.H., ミネソタ

うわ,クルーグマン先生,うちの父そっくりなことを言ってらっしゃる.父はよく,自分が使ってる iPhone はダメだ,だって X ができないからなぁと愚痴ってます.私が「ちがうよ,ちゃんと X できるよ」と言ってやり方を解説してあげると,父は「アップルはダメだな」と言って,自分がマニュアルを読んでなかったのをアップルのせいにするんです.

かつてマイクロソフトの真性信者でいまはマックユーザーに改宗したガジェット野郎として,こう言えます:「マックはパワーユーザーにとって大幅に優れている」 マックならサードパーティのソフトウェアが幅広く利用できて,パワーユーザーにとってはほんと愉しいですよ.ただ,詳しくない人にとっても,アップル製品はほぼいつでも,よりよい選択肢になってます.いったん使い方を覚えてしまえば,PCやアンドロイド端末よりもはるかに生産性の面で利点をもたらしてくれますよ.
――ダン・エイブラムズ,ニューヨーク

アンドロイドとアップル iOS に大したちがいがないと決めつける前に,「アンドロイド マルウェア」でググって,大量に出てくる検索結果をどれかクリックしてみるといいよ.
――デイヴィッド S, オーストラリア

ほんと多くの人がアップルについて誤解してることだけど,アップルはなによりも第1にハードウェア企業であって,その次にソフトウェア企業なんだよ.つまり,アップルはべつにオペレーティング・システムを売ろうとしてるんじゃない.iPhone や iPad や MacBook Pro を売ろうとしてるんだ.

これは,マイクロソフトとまるっきりちがうモデルだ――マイクロソフトの方は,なによりも自社製ソフトウェアを売り込みたがっている.それに,Xbox をのぞくと,マイクロソフトはハードウェアに関してびっくりするほどヘマをする傾向がある.

自分はソフトウェア開発者で,ここ8年以上,主にアップルのハードウェアを購入してきた.もっぱらウィンドウズ基盤の仮想マシンだけを使って開発してるけど,買ってるのはアップル製品だよ.なぜなら,アップルのハードウェアは信じられないほど安定しているからだ.2006年にはじめて買った MacBook Pro をいまでももってる.どんなに手荒く扱っても,不屈の戦士のごとく動作してる.こんなにしっかり動作する PC なんて,使ったことがない.
――トム T, ミネソタ

多くの人たちと同じように,ぼくも最初は PC ユーザーだった.でも,それまでずっとコンピュータの使い方で助けてもらっていた若い IT 野郎に新しい自分用のマシンについて助言を聞いてみたら,アップル製品にしなよって答えだった.でもお高いんでしょうって言ったら,彼の答えは,アップル製品にしてくれたら,もうあなたの厄介事を解決する必要がなくなりますよ,だった.

彼は完全に正しかった.自宅では,ぼくは娯楽用途の他にはほとんどコンピュータを使わない.自宅でもべつにウィンドウズで仕事したって問題ナシだ.でも,それは一本電話を入れればIT部門に助けてもらえるからだ.
――クリス,オーストラリア

© The New York Times News Service

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