ポール・クルーグマン「ジャーナリストが報道せずに憶測する方を選ぶとき」

Paul Krugman, “When Journalists Choose to Speculate Rather Than Report,” February 13, 2014. [“Second-Order Journalism,” February 7, 2014]


ジャーナリストが報道せずに憶測する方を選ぶとき

by ポール・クルーグマン

Gabriella Demczuk/The New York Times Syndicate
Gabriella Demczuk/The New York Times Syndicate

今月はじめ,議会予算局 (CBO) のレポートがでた当初のメディアによる取り扱いの惨状をに,『スレート』の Dave Weigel が目を向けている――「CBO聖戦士」ですって!――そして,ぼくがいっつもむかついてることの1つを取り上げている:報道が実際の政策問題をきれいにスルーして,政治的にどんな動きがでるかについて憶測をあれこれとめぐらせてるのがそれだ.ぼくはこれを「二次」報道だと考えてる.で,これはほぼいつでもわるいことだ.

これについては,2004年大統領選のときに書いた.当時,ぼくは苦心して調査し,2ヶ月掛けていろんなTVニュースの書き起こしを読み込んだ.それでわかったこと:「ケリー氏は低~中所得の家庭に健康保険を拡大するために6500億ドルの支出を提案している.賛否がどうだろうと,ケリー氏が問題に取り組んでいないとは誰にも言えない.有権者がこれを聞いたことがないってのはどういうわけだろう? さて,5人に4人のアメリカ人がふだんよくニュースにふれる媒体として挙げる主要ケーブルテレビや放送局のネットワークから,60日分の書き起こしを手に入れて,このところぼくはずっとそれを読んでるんだけどね.細かいことは脇に置いてしまおう――近年の高所得者減税を撤廃してその分のお金で保険未加入者の大半をカバーするのにあてようとケリー氏が考えているってことをはっきり伝える文言すら見つけられなかった.報道でケリー・プランに言及することがあったとしても,たいていきまって選挙情勢分析だ――ケリー・プランが情勢にどう関わるかって話ばかりで,中身は取り上げていない.」

さて,認めるのはくやしいけれど,おおむね政策問題に関する報道はあれ以来,よくなってきてる.ただ,いまだに古くさいやっつけ仕事があっちこっちで見かけられる.CBO の場合,記者たちが退歩してしまった主な理由は,当初,資料を誤解しちゃったことの恥を隠そうとしているからじゃないかとぼくは見てる.ただ,それでもやっぱり間違った方向だってことは言っておいていいだろう.

さっきの分析で,Weigel氏は,ぼくが2004年に主張したことを越える論点を1つ,立てている.二次報道が読者/視聴者が受け取るべき情報を与えずにいるってだけじゃない.実は,どのニュースを撮ってみても,それが政治的にどんな影響をもたらすかなんて,誰も知らないんだよ.それどころか,政治学者たちによれば,選挙戦で争う政治家たちについて伝えられるニュースの大半は,いかにも重要そうに見えて,実はまったくそんなことがない:選挙の決め手になるのは主に経済情勢と,場合によって戦争であって,失言だとかそういうのじゃあないんだ.

というわけで,ジャーナリストが予算書に関する世間の受け止め方が次の選挙にどう影響するかについて憶測を語るのは,純粋に有害な行為でしかない:実際の政策問題に関する情報提供から貴重な時間とリソースを奪ってしまうばかりか,将来の政治情勢を予測するっていう表向きの目標に加える価値すらゼロなんだもの.

ぼくはなにも政治報道すべてに反対しているわけじゃない:政治報道はやるべきだし,色とりどりの逸話は,みんなが新聞を読む動機でもある.ただ,なにより中身が優先されるべきだ.記者たちが中身をじゅうぶんに理解していないのだとしたら――保険医療改革の経済学がよくわかってなくて雇用喪失と労働供給減少の区別もつかないのだとしたら――判断を控えるとか,なにか書く前にもののわかってる人たちに相談するとかすべきだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

ゆがめられたメッセージ

by ショーン・トレイナー

2月4日,アメリカ合衆国の議会予算局は,オバマ大統領の医療改革法の目玉である適正価格医療保険法 (Affordable Care Act) に関する分析の更新版を公表した.報告書では,これから数年で,労働者のなかにはいまの仕事を離れたり自発的に労働時間を減らす人たちがでてくると予測している.理由は,雇用主を通して保険を維持する必要がなくなるからだ.

予算局のデータによれば,アメリカ人が選択して供給する労働力は,2017年までに,フルタイム労働者200万人に相当する減少になりうるという.

適正価格医療保険法に反対する人々や,一部の保守系メディアは,すぐさまこうした発見をとりあげて,オバマ氏の医療改革法が200万の雇用を失わせてしまう証拠だと言い立てた.当初,多くの主流メディアでも,同様の主張が報道され,訂正や修正を強いられることになった.なかには,報道の焦点を政治に移したところもある.

たとえばウェブサイト「ポリティコ」は「CBO:オバマケアの低い登録数と大きな雇用喪失」と題した記事を公開している.この記事はのちに書き直されて「報告書を受けオバマケアと雇用をめぐる論争が再燃」に変わっている.修正版では,デイヴィッド・ナサ記者とジェイソン・ミルマン記者がこう解説している.「こうした数字が意味することについては,もっと細かい但し書きがたくさんついている.また,雇用が「失われたかどうか」についても同様だ.(…)政治的に重要なのは,そうした数字が批判広告でどう見えるかということの方だ.」

『ワシントンポスト』のコラムニスト E.J.ディオンヌJrはこう記す.「CBO調査への反応をみると,オバマケアをめぐる論争がどれほど故意におろかになっているかがわかる.「故意におろか」としか言いようがない.反対する人々は,知見を得るために骨の折れる分析を参照しない.彼らは発見をねじまげ,いいかげんなスローガンに仕立て上げる.メディアまでもがそれに追随して調査の政治的影響に焦点を当てて,実際に調査が述べていることをなおざりにしている.」

© The New York Times News Service

Total
0
Shares
0 comments

コメントを残す

Related Posts