マーク・ソーマ 「睡眠不足と『楽観主義バイアス』」(2011年3月8日)

●Mark Thoma, “Sleep Loss and “Optimism Bias””(Economist’s View, March 8, 2011)


サイエンティフィック・アメリカン誌が運営しているブログの記事(“Short on sleep, brain optimistically favors long odds”)によると、睡眠不足の状態でギャンブルに手を出すのは控えた方がいいとのことだ。

・・・(略)・・・新たな研究結果によると、一晩徹夜するだけでも、一か八かの賭けに出る可能性が高まるということだ。・・・(略)・・・

デューク大学に籍を置く研究チームは、29名の健康な被験者にいくつかのギャンブルゲームを行ってもらい、fMRIを用いてその最中の脳の活動の様子がどうなっているかを調べた。一晩ぐっすりと眠った後にゲームを行った被験者のグループは、実生活で大抵の人が示すのと同じような振る舞いを見せた。ゲームに負けてお金を失う(損をする)リスクを警戒しながら、慎重な態度で儲けを追い求めたのである。

一方で、一晩徹夜した(午後6時から翌日の午前6時まで寝ずに過ごした)後にゲームを行った被験者のグループは、「損をするリスクへの警戒を緩めて、できるだけ大きな儲けを追い求める」姿勢を露わにしたという。・・・(略)・・・この実験を行った研究チームは、徹夜した被験者たちが露わにした姿勢を指して、「楽観主義バイアス」(“optimism bias”) [1] 訳注;ゲームに勝つ(儲けを手にする)可能性を過大評価する一方で、ゲームに負ける(損をする)リスクを過小評価する傾向と名付けている。

・・・(略)・・・fMRIで捉えられた脳の画像を調べたところ、一晩徹夜した状態でギャンブルゲームを行った被験者の脳内では、一晩ぐっすりと眠った被験者と比べて、前頭前野腹内側部がより活発に活動している様子が確認できたという。この部位は、恐怖やリスク、意思決定と関わりのある領域として知られている。それに加えて、一晩徹夜した被験者の脳内では、前部島皮質――感情や中毒との関わりが指摘されている領域――の活動が落ち込んでいる様子も確認できたということだ。・・・(略)・・・

・・・(略)・・・カジノでブラックジャックのテーブルの前に「一晩中」張り付いたり、オンラインのポーカーゲームに「夜通し」興じたりすることは、ギャンブルに輪をかける結果となる可能性があると言えるだろう。・・・(略)・・・睡眠不足を原因とした「楽観主義バイアス」の問題は、ギャンブルよりもずっと「賭け金が高い」(ずっと大きなものがかかっている)分野、例えば、証券取引所の立会場(トレーディング・フロア)や病院での仕事にも付きまとうことになるかもしれない。立会場や病院では、時として寝不足のままでの業務遂行を強いられることになるのだ。

・・・(略)・・・睡眠不足に伴う問題は、やる気が奪われるという問題にとどまらずに、ずっと根が深い可能性がある。エスプレッソ――あるいは、もっと強力な眠気覚まし――を口にしたところで、睡眠不足の脳が「根拠のない楽観」に陥る傾向を食い止めることはできないかもしれないのだ。・・・(略)・・・

こちらの記事(“How do doctors know how much sleep we need?”)もあわせてご覧になられるといいだろう。

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1 訳注;ゲームに勝つ(儲けを手にする)可能性を過大評価する一方で、ゲームに負ける(損をする)リスクを過小評価する傾向
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