マーク・ソーマ 「iPodってどこ製?」(2007年6月28日)

●Mark Thoma, “Hal Varian: Who makes the iPod?”(Economist’s View, June 28, 2007)


iPodはどこで作られているのだろうか? iPodを作っているのは誰なのだろうか? ハル・ヴァリアン(Hal R. Varian)が、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説の中で、かような問いに対する答えを探る試みを紹介している。

An iPod Has Global Value. Ask the (Many) Countries That Make It.” by Hal R. Varian, Economic Scene, NY Times:

アップル社のiPod(アイポッド)を作っているのは、誰なのだろうか?・・・(略)・・・アップル社ではない。というのも、アップル社は、iPod本体の製造をアジアに本社を構える数ある企業――例えば、Asustek(エイスーステック)に、Inventec Appliances(インベンテック・アプライアンシズ)に、Foxconn(フォックスコン)――に外注しているからだ。

しかしながら、今しがた列挙した三社だけで、iPodの製造に関わる企業のリストが埋め尽くされるわけではない。・・・(略)・・・Asustek(エイスーステック)にしても、Inventec Appliances(インベンテック・アプライアンシズ)にしても、Foxconn(フォックスコン)にしても、iPodの最終的な組み立てを受け持っているに過ぎないのだ。iPodは全部で451種類の部品から構成されているが、個々の部品の製造は一体どうなっているのだろうか? 個々の部品はどこ(どの国)で製造されているのだろうか? 一体誰(どの企業)が製造しているのだろうか?

原価計算の手法を使ってこの問いの調査に立ち上がったのが、カリフォルニア大学アーバイン校に籍を置く三名の研究者(pdf)――グレッグ・リンデン(Greg Linden)、ケネス・クレイマー(Kenneth L. Kraemer) ジェイソン・デドリック(Jason Dedrick)――だ。

・・・(中略)・・・

iPodの生産プロセスを、細分化された工程の連なりとして捉えることにしよう。それぞれの工程では、インプット(例えば、コンピューターチップとまっさらな電子基板)がアウトプット(チップが実装された電子基板)に変換される。インプットの価格(費用)とアウトプットの価格(価値)の差が、それぞれの工程で生み出される「付加価値」であり、それぞれの「付加価値」は、その工程を受け持つ企業が立地する国に割り振られることになる。

ねじやボルトといった汎用品は、競争が熾烈な産業で製造されており、世界中どこででも製造可能だ。それゆえ、その利幅(付加価値)は極めて小さく、iPodの最終的な価値(小売販売価格)への貢献もごく些細なものにとどまる。その一方で、ハードディスク(HDD)やコントローラチップのような特製品(特化部品)の付加価値は、ねじやボルトのような汎用品のそれよりもずっと大きい。

リンデン&クレイマー&デドリックの三人の推計によると、(一台のiPodに内蔵されている)東芝製のハードディスク(HDD)は73ドルの価値を備えており、その製造には総額でおよそ54ドルの部品(インプット)と労働が投下されている。つまりは、東芝は、アウトプットたるハードディスクに19ドルの価値(+人件費)を付け加えているわけだ。東芝は日本を拠点とする企業なので、東芝製のハードディスクに備わる19ドルの「付加価値」の帰属先は日本ということになる。

リンデン&クレイマー&デドリックの三人は、他の部品に関しても同様の計算を繰り返し、・・・(略)・・・iPodの生産プロセスの個々の工程でどれだけの「付加価値」が生み出され、それぞれの「付加価値」がどの国に帰属するかを逐一追跡しようと試みた。決して簡単な作業ではないが、・・・(略)・・・極めてはっきりしていることがある。iPodに備わる「付加価値」の最大の帰属先は、米国(米国内で販売されるiPodに関しては特にそう)ということだ。

iPodの小売販売価格(最終的な価値)は299ドル。そのうち163ドル(の「付加価値」)は米国企業(およびそこで働く労働者)に帰属するというのが、リンデン&クレイマー&デドリックの三人の推計結果だ。163ドルのうち、(米国内の)流通・小売業者が生み出す付加価値が75ドルで、アップル社が生み出す付加価値は80ドル。残りの8ドルは米国内の部品メーカーに帰属する。iPod本体の価値(299ドル)のうちで、日本が生み出す付加価値は26ドル(そのうちの大半は東芝製のハードディスクによるもの)で、韓国が生み出す付加価値は1ドルに満たない。

リンデン&クレイマー&デドリックの三人の調査では、iPod一台の生産に要する部品がすべて捕捉されているわけではなく、補足し切れていない部品の費用に(iPod一台の生産に要する)人件費を加えると、合計でおよそ110ドルになるという。リンデン&クレイマー&デドリックの三人は、iPod一台の生産に要する人件費を国別に割り振る試みにも乗り出す心積もりのようだが、・・・(略)・・・どうやらそう簡単にはいかなそうだ。

(iPodの生産プロセスのような)国境を越えた複雑な生産プロセスの実態を従来の貿易統計を使って要約しようとすると、無理が生じる可能性がある。「付加価値」という観点からすると、中国はiPodの価値のうちでわずか1%程度しか寄与していないとしても、中国で組み立てが完了したiPodが米国に輸出されると、従来の貿易統計では二国間(米中間)での貿易収支でおよそ150ドル分の貿易赤字(対中赤字)が発生することになるのだ。

突き詰めると、「iPodを作っているのは誰なのだろうか?」、「iPodはどこで作られているのだろうか?」という問いへの簡潔な答えなんて無いということになろう。・・・(略)・・・iPodの真の価値は、個々の部品に宿っているわけでもなければ、個々の部品を寄せ集めることによって生み出されるわけでもない。iPodの価値の大部分は、その概念(発想)とデザインにある。iPodに備わる(299ドルの)価値のうちで、80ドルもの付加価値――iPodの製造・販売を支えるサプライチェーンのうちで、単独で生み出す付加価値としては群を抜いて最大の数値――がアップル社に帰属するのもそれゆえなのだ。

451種類の部品(そのうちの大半は汎用品)を組み合わせて一つの価値ある商品にまとめ上げるアイデアを思い付いたのが、アップル社であり、アップル社に集った切れ者集団だ。彼らはiPodを製造してはいないかもしれないが、思い付きはした(生み出しはした)。 結局のところ、肝心なのは、新たなアイデアを思い付くかどうかなのだ。

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