メンジー・チン「所得格差是正のために出来ること」

Menzie Chin “A Feasible Measure for Mitigating Income Inequality“(Econbrowser November 6, 2013)


最低賃金を上げるんだ!

ニュージャージーでの最低賃金引き上げもあったことなので[0]、全国規模での引き上げの是非について再評価するのには良い機会だろう。遡ること2月の教書演説において、オバマ大統領は2015年末までに最低賃金を9.00ドルに引き上げることを提案した。図1はこの提案の歴史的背景について示している。 minwagepix2 図1:名目最低賃金(青)とCPIによる実質最低賃金(赤)。2015年12月におけるオバマ案の名目値(青三角)と実質値(赤四角)。2015年12月におけるCPIは、インフレ予測についてのウォールストリートジャーナル2013年10月調査を用いた。

言い換えれば、9.00ドルへの引上げは単に最低賃金を1981年7月の実質水準にまで戻すだけということだ。

完全雇用を前提とする部分均衡分析においては、最低賃金の引き上げは(需要側の独占力、情報の非対称性等々[1]を無視すれば、つまり新古典派的な世界においては)雇用の減少と失業の上昇をもたらす。経済が不景気にある世界においては、こうした諸々の市場の不完全性がない場合であっても、別の結論が成り立つ。

別のエントリにおいて書いたように、最低賃金の上昇が低所得者賃金の総額を拡大し、このグループの限界消費性向が他よりも高いのであれば、経済に対する影響はプラスになる。図2はこの論理を図解している。

mwfig1 図2:低所得労働市場における最低賃金導入前の均衡と導入後の均衡

当初、労働供給量と需要量はN1で一致している。最低(実質)賃金の導入によって、賃金率はW1からW2に上昇する。標準的な部分均衡分析においては、Ns2 – Nd2だけの過剰労働供給が存在していることになる。しかし、ここで労働需要が派生的に生まれるのだ。所得の変化が需要曲線を押し上げるからだ(低所得家計の限界消費性向が高所得家計よりも高く、賃金総額が増えるのであればこれが成り立つ)。

すると、労働需要量はNd3に上昇する。失業が上昇する一方で、雇用も上昇する。したがって、最低賃金の導入(による制約)によって雇用は必然的に減少するという標準的な初等経済学による予測は、より一般的なモデルの特殊ケースなのだ。

例え所得上昇による波及効果がない場合においても、実質所得総額に対する影響は不明瞭だということに注意してほしい。当初の実質賃金総額はオレンジの部分、最低賃金導入後(くどうようだが波及効果は無視する)の総額は斜線の部分で示されている。需要が非弾力的であるなら賃金総額は上昇するというのは明らかだ。

低所得賃金総額に対する所得の反応が大きければ大きいほど、最終的な賃金総額は上昇する(ドット部分)。

ホワイトハウスによる背景説明はここ2007年には議会予算局が最低賃金上昇の効果を計算しているが、雇用に対する効果は差し引きゼロと仮定されている。CEPR.netのジョン・シュミットは過去の文献とともに最近の研究をいくつか紹介している。

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