ラミーロ・ガルベス, バレリア・ティフェンベルク, エドガル・アルティーラ「映画に見られるジェンダーと知的能力のステレオタイプ的連想関係を定量化する」(2018年4月1日)

Ramiro Gálvez, Valeria Tiffenberg, Edgar Altszyler “Quantifying stereotyping associations between gender and intellectual ability in films“, (VOX, 01 April 2018)


男性は女性より優れた認知能力を保持するとの信念は、根強くかつよく実証されたステレオタイプである。6歳という幼さの男児・女児までもが、ともに 「利発さ (brilliance)」 をもっぱら男性的な特性と見做すばあいがあることを明らかにした研究さえ幾つかある。本稿では、西側世界における映画産業がこのステレオタイプの慢性化に果たした貢献を検討してゆく。1万点を超える映画のトランスクリプト分析をとおし、過去半世紀にわたる 「利発さ=男性的」 ステレオタイプの執拗なプレゼンスが炙り出された。こうした状況は、特に子供向けに作られた映画にも見られる。

殊更に根強く、そこかしこに蔓延し、しかもよく実証されたステレオタイプに、男性は女性よりも高度な認知能力を保持するという信念がある (Broverman et al. 1970, Williams and Best 1982, Kirkcaldy et al. 2007, Upson and Friedman 2012)1。この 「利発さ=男性」 ステレオタイプは、6歳という幼さの男児・女児そうほうから是認されていることが明らかにされているだけでなく (Cvencek 2011, Bian 2017)、殊にSTEM分野で顕著だが、科学における女性の過小代表を引き起こしている要因のひとつだとも信じられている (Nosek et al. 2009, Leslie 2015, Smyth and Nosek 2015, Storage et al. 2016, Reuben 2017)。このステレオタイプが強力な文化的根因を有することについてコンセンサスが存在する場面でさえ、その慢性化を扱った研究では文化的行動の分析が中心となるのが普通である。ここで着目される文化的行動とは例えば科学的思考を一緒に行う際に親が子供に与えた指導 (Crowley 2001) や、科学教師が生徒のジェンダーに合わせて与えた相異なる指導 (Shumow and Schmidt 2013) をさす。ここで指摘すべきは、メインストリームの文化的製作物に見られるこの種のステレオタイプのプレゼンスに焦点を合わせた大規模研究が、極めて不足している点だ。

そんななかわれわれの最近の論文では、西側世界の過去半世紀をカバーした1万点を超える映画のトランスクリプトに見られる、「利発さ=男性」 ステレオタイプのプレゼンスを研究している (Gálvez et al. 2018)。ステレオタイプなるものの一端は、ひとつの集団を一群の記述的特徴に関連付ける連想関係の集まりである (Gaertner and McLaughlin 1983) 。そこでわれわれは、自然言語処理の技術を用いることで、映画におけるジェンダー-関連語 (gender-related words) と高度認知能力-関連語 (high-level cognitive ability-related words) の連想関係を定量化した。そのさい、子供向け映画におけるこれら連想関係のプレゼンスに重点的なフォーカスを置いている。

資料と方法

われわれはまずデータ収集に着手し、IMDbから、合衆国における興行収入トップ1000タイトルを内容とするリストを、1967年にはじまり2016年いっぱいまで、各年度分ダウンロードした。つづいて、これらリスト中の各タイトルにつき、メタデータをダウンロードした。このデータを頼りに、タイトルのうち、映画でないもの (TVシリーズなど)、作中で話される言語に英語が含まれないもの、製作に合衆国・英国・カナダ・オーストラリアのいずれも関与していないもの、を全て除去した。最後に、こうして得られた集合に含まれる各映画につき、最も頻繁にダウンロードされていた英語字幕を、OpenSubtitlesから入手した2。結果、本研究の最終サンプルとして、半世紀のスパンをもつ映画字幕1万1550点が確保された。

図1Aは、連続する10年の期間 (1967-1976, 1977-1986, …, 2007-2016) 毎に分析対象となった映画の数を、フル-サンプルとサブ-サンプルにつき詳述している。このサブ-サンプルは、familyかanimation、またはその両者に跨るジャンルに属する映画のみからなるもの (family/animationサブ-サンプル)。図1Bは、男性代名詞 (he, his, him, himself) 登場回数の、女性代名詞 (she, hers, her, herself) 登場回数にたいする比率の推移を示す。書籍を対象とした先行研究 (Twenge et al. 2012) と軌を一にし、1960年代中頃以降は映画にもこの比率に一定の退潮が見られた – 女性の地位向上と結び付けられてきた現象である (Twenge et al. 2012)。とはいえフル-サンプルと比較すると、family/animationサブ-サンプルにおけるこの比率は、女性代名詞にたいし一貫して手厳しくなっている。

図 1 連続10年期間毎に見た、映画度数およびジェンダー代名詞比率

: (A) 連続する10年の期間 (1967-1976, 1977-1986, …, 2007-2016) 毎の、分析対象となった映画の数。フル-サンプルとfamily/animationサブ-サンプル。(B) 男性代名詞登場回数の、女性代名詞登場回数にたいする比率の推移。フル-サンプルとfamily/animationサブ-サンプル。両パネルとも、LOESS回帰で傾向を推定している。

ジェンダー関連語と高度認知能力-関連語の連想関係を推定するため、ジェンダー代名詞と高度認知能力-関連語 (例: 天才的な genius、知能的な intelligent、冷静な clever) のあいだにある、正の自己相互情報量 (PPMI: positive pointwise mutual information) スコアを計算した。PPMIは、ふたつの単語が単なる偶然をどのていど上回る頻度で共起しているかを把捉するようデザインされた尺度であり (値が大きければ連想関係も強い)、単語と概念の連想関係を測定するさい一般的に利用されている。PPMI推定値は共起行列に含まれる値に依存する。この行列はひとつの単語がほかのひとつの文脈で登場する回数を表示するもの (各行は 対象語 target word ひとつを、各列は 文脈語 context word ひとつを、それぞれ現わす)。図2に含まれる簡易図は、与えられた字幕データをもとに、これら行列を組み立てる手順を例示している4

図 2 共起行列の構築

: SubRipファイル中の対象語ひとつが与えられれば (図ではhim)、全ての 近傍/文脈 フレームが特定される。どのようなフレームが近傍を構成するかは時間窓 (Δt) の大きさに依存するが、これは30秒に等しく設定している。どの文脈フレームに含まれるテキストも、クリーニング・トークン化 〔単語への分割〕・レンマ化 〔語形変化の除去〕 を施される。そのうえで、全ての文脈トークンの登場回数が、組み立て中の共起行列における関連セルに追加される。この手順を、分析対象となった全ての字幕に含まれる全ての単語につき繰り返す。共起行列は、ひとつの単語がほかのひとつの単語の文脈において登場する回数を表示するもので (これは飽くまで説明のための例にすぎないが、この図によるとsmartはhimの文脈に11回登場している)、PPMIと統計的有意性の推定値にたいする入力の役割を果たす。

結果

Figure 3 quantifies associations between gender pronouns and words depicting high-level cognitive ability. Figure 3A presents estimates considering all movies from 2000 up to and including 2016, for the full sample and the family/animation sub-sample. Estimates indicate that associations of male pronouns with high-level cognitive ability-related words are higher than the associations female pronouns have with high-level cognitive ability-related words. This pattern is present in both the full sample and the family/animation sub-sample. Figure 3B explores the dynamics of these differences through time. Results from the full sample of movies reveal that differences in associations have been steady at least for half a century, with no evidence of convergence in the trends. Results from the family/animation sub-sample show that differences have also been prevalent in this set of films, although estimates are less stable (we attribute this to the fact that sample sizes for every ten-year period of the family/animation sub-sample are much smaller than their full sample counterparts, see Figure 1A).5 Overall, our estimates suggest that, at an aggregate level, the ‘brilliance = males’ stereotype is effectively present in films and that movies specifically aimed at children contain this stereotypical association (which we believe contributes to its early adoption). Moreover, this pattern seems to have been quite persistent for the last 50 years.6 図3は、ジェンダー代名詞と高度の認知能力を形容する単語とのあいだの連想関係を定量化したものだ。図3Aは2000年から2016年いっぱいまでの全ての映画を対象とし、フル-サンプルとfamily/animationサブ-サンプルについての推定値を表示している。推定値が示すところ、男性代名詞と高度認知能力-関連語の連想関係は、女性代名詞と高度認知能力-関連語の連想関係よりも強い。このパターンはフル-サンプルとfamily/animationサブ-サンプルの双方に現れている。図3Bではこうした違いが時の経過とともに辿ったダイナミクスを検討している。映画フル-サンプルからの結果は、連想関係の違いが、少なくとも半世紀にわたり安定してきたことを露わにしており、トレンドの収束を示すエビデンスは全く見当たらない。family/animationサブ-サンプルの結果が示すところでは、これら映画の集合においても違いは蔓延している。もっとも、推定値の安定度は相対的に低い (family/animationサブ-サンプルのサンプルサイズは、全ての10年期間について、フル-サンプルのそれよりかなり小さかった。安定度の低さはこの事実に起因するものとわれわれは考える。図1Aを参照)5。総じて本推定値は、総計レベルで見るかぎり、「利発さ=男性」 ステレオタイプが映画において事実上プレゼンスを有していること、また特に子供向けに作られた映画にもこのステレオタイプ的連想関係が含まれていること (これが早い段階での同ステレオタイプの受容に貢献しているとわれわれは考える) を示唆する。さらに付言すると、このパターンは過去50年ものあいだかなり執拗に残存してきたようである6

図 3 ジェンダー代名詞と高度認知能力-関連語のあいだの語連想

: (A) ジェンダー代名詞と高度認知能力-関連語のあいだに推定される連想関係。分析対象は2000年から2016年いっぱいまでの映画で、フル-サンプル (n = 2902) とfamily/animationサブ-サンプル (n = 242) について示した。アスタリスクは、背景にある分割表 (contingency tables) に関するフィッシャーの正確検定の結果を示す: *** 1%水準で有意。(B) 推定される連想関係の継時的推移。連続する10年期間 (1967-1976, 1977-1986, …, 2007-2016) 各々に属す映画の集合を入力とする。傾向性はLOESS回帰により推定されている。灰色の面積は、背景にある分割表にたいするフィッシャーの正確検定にしたがうかぎり、違いが5%水準で有意でないことを示す。

検討

西側世界の映画産業は、ジェンダー格差をめぐる近現代の論争の主題であった。論争は、(俳優は女優より相当大きな額を支払われているという) 強固なジェンダー賃金格差の実在性にはじまり、性的暴行および性的ハラスメント蔓延の訴えに至る幅をもつ。今回の結果が示唆するところ、ジェンダー格差は同産業による映画の内容においても相当強固である。知性に関するステレオタイプは知的アイデンティティや学業成績を形成するものであることが明らかにされているが (Steele 1997)、この点に鑑みれば、映画におけるこれらステレオタイプの存在と積極的に取り組んでゆく必要は自ずと明らかだ。

参考文献

Bian, L, S J Leslie and A Cimpian (2017), “Gender stereotypes about intellectual ability emerge early and influence children’s interests”, Science 355(6323): 389-391.

Broverman, I K, D M Broverman, F E Clarkson, P S Rosenkrantz and S R Vogel (1970), “Sex-roles stereotypes and clinical judgments of mental health”, Journal of consulting and clinical psychology, 34(1): 1.

Crowley, K, M A Callanan, H R Tenenbaum and A Allen (2001), “Parents explain more often to boys than to girls during shared scientific thinking”, Psychological Science, 12(3): 258-261.

Cvencek, D, A N Meltzoff and A G Greenwald (2011), “Math–gender stereotypes in elementary school children”, Child development, 82(3): 766-779.

Furnham, A, E Reeves and S Budhani (2002), “Parents think their sons are brighter than their daughters: Sex differences in parental self-estimations and estimations of their children’s multiple intelligences”, The Journal of genetic psychology, 163(1): 24-39.

Gaertner, S L and J P McLaughlin (1983), “Racial stereotypes: Associations and ascriptions of positive and negative characteristics”, Social Psychology Quarterly, 23-30.

Gálvez, R H and V Tiffenberg and E Altszyler (2018), “Half a Century of Stereotyping Associations between Gender and Intellectual Ability in Films”, available at SSRN.

Kirkcaldy, B, P Noack, A Furnham and G Siefen (2007), “Parental estimates of their own and their children’s intelligence”, European Psychologist, 12(3): 173-180.

Leslie, S J, A Cimpian, M Meyer and E Freeland (2015), “Expectations of brilliance underlie gender distributions across academic disciplines”, Science, 347(6219): 262-265.

Martin, J H and D Jurafsky (2009), Speech and language processing: An introduction to natural language processing, computational linguistics, and speech recognition. Pearson/Prentice Hall.

Nosek, B A et al. (2009), “National differences in gender–science stereotypes predict national sex differences in science and math achievement”, Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(26): 10593-10597.

Reuben, E, P Sapienza and L Zingales (2014), “How stereotypes impair women’s careers in science”, Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(12): 4403-4408.

Shumow, L and J A Schmidt (2013), Enhancing adolescents’ motivation for science. Corwin Press.

Smyth, F L and B A Nosek (2015), “On the gender–science stereotypes held by scientists: explicit accord with gender-ratios, implicit accord with scientific identity”, Frontiers in psychology, 6, 415.

Steele, C M (1997), “A threat in the air: How stereotypes shape intellectual identity and performance”, American psychologist, 52(6): 613.

Storage, D, Z Horne, A Cimpian and S J Leslie (2016), “The frequency of “brilliant” and “genius” in teaching evaluations predicts the representation of women and African Americans across fields”, PloS one, 11(3): e0150194.

Twenge, J M, W K Campbell and B Gentile (2012), “Male and female pronoun use in US books reflects women’s status, 1900–2008”, Sex Roles, 67(9-10): 488-493.

Upson, S and L F Friedman (2012), “Where are all the female geniuses?”, Scientific American Mind, 23(5): 63-65.

Williams, J E and D L Best (1982), Measuring sex stereotypes: A thirty nation study. Beverly Hills, CA: Sage.

原註

[1] 「知能」 は一般的に、数学的知能や空間的知能と結び付けて考えられている (Furnham 2002)。

[2] このプロセスで支援して頂いたOpenSubtitlesに特に謝意を表したい。

[3] 高度認知能力-関連語の全容およびその構築方法はGálvez et al. (2018) で確認できる。

[4] 本データを使ったPPMI計算過程の詳細はGálvez et al. (2018)で確認できる。

[5] 1967-1976年期間にかぎるが、推定値は高度認知能力-関連語が女性代名詞とのあいだで男性代名詞よりも強い連想関係をもったことを示している。もっとも、背景にある分割表にたいするフィッシャーの正確検定は、この違いが統計的に有意であるとは明らかにしていない (p ≈ 0.4)。

[6] Gálvez et  al. (2018) では、ジェンダー代名詞とジェンダーステレオタイプ的な役割分担の関係につき、さらなる結果を掲載している。

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