ラルス・クリステンセン 「『ミダス・パラドックス』 ~スコット・サムナーの待望の一冊が遂にお出まし~」(2015年10月26日)/タイラー・コーエン 「『ミダス・パラドックス』 ~スコット・サムナーの大恐慌論~」(2015年11月24日)

●Lars Christensen, “Scott Sumners’ new book: The Midas Paradox – Buy it now!”(The Market Monetarist, October 26, 2015)


私の友人でもあるスコット・サムナー(Scott Sumner)が大恐慌をテーマにした本を書こうと思い立ったのは大分前に遡るが、その本の出版にこぎつけるためには長い時間をかけて奔走しなければならなかった。少々時間はかかったが、その待望の一冊が今年(2015年)の12月に遂に出版される運びとなった。

本のタイトルは『The Midas Paradox: Financial Markets, Government Policy Shocks, and the Great Depression』(「ミダス・パラドックス:金融市場、政策ショック、大恐慌」)である。出版元はインディペンデント・インスティテュートだ。Amazonで注文するにはこちらをクリックされたい。言うまでもないだろうが、私は既に注文済みだ。

出版元による本の紹介文を以下に引用しておこう。

経済史家たちの尽力もあって大恐慌の原因を解明する作業はこれまでに大幅な前進が遂げられてきている。しかしながら、経済が辿った紆余曲折の全貌を説明するためにはスコット・サムナーの登場を待つ必要があった。サムナーのマグヌム・オプス(一大事業、大作)であり処女作でもある『ミダス・パラドックス』では大恐慌という名の大惨事を引き起こした原因を突き止めるために貨幣的な要因だけではなく非貨幣的な要因にも目配りされており、大恐慌に関する包括的な説明が試みられている。

金融市場のデータや当時のニュース記事に依拠しつつサムナーはこう結論する。大恐慌は(中央銀行や議員(政治家)、二人の大統領による)稚拙な政策(政策の失敗)――とりわけ、金融政策面での不手際と名目賃金に対する規制――の結果として引き起こされたのだ、と。サムナーが明らかにしていることはそれだけではない。マクロ経済学の分野の思想は長年にわたって間違ったストーリーの虜となっており、その間違ったストーリーは今もなお政策当局者を「磐石で持続可能な経済成長の追求」という空想に固執させる役割を果たしているというのだ。

『ミダス・パラドックス』は画期的な一冊である。本書では経済史家たちを長年悩ませてきた謎が解決されているだけではなく、「マクロ経済に動揺をもたらす原因は何か?」「マクロ経済の動揺はいかなる帰結をもたらすか?」「マクロ経済の動揺を鎮めるにはどうすればいいか?」といった疑問に関する誤解が正されてもいる。ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)とアンナ・シュワルツ(Anna J. Schwartz)の『A Monetary History of the United States, 1867-1960』(「合衆国貨幣史」)と同様に、『ミダス・パラドックス』は大恐慌研究の将来の方向性を形作る稀な一冊となるに違いない。

『ミダス・パラドックス』について個人的に特にお気に入りな点を挙げると――そうなのだ。もう最後まで読み終わったのだ――、金融市場のデータに大恐慌当時のニュース記事から得られる情報を組み合わせるという目新しい手法を使って大恐慌に関する物語が新たな角度から語り直されているところだ。このやり方はマクロ経済や金融市場、貨幣を巡る動向を分析する上でマーケット・マネタリストの面々がお得意とする手法そのものだ。

金融市場が発する(資産価格の動向をはじめとした)シグナルを調べればマクロ経済に動揺をもたらしているショックが貨幣的なショックなのかそれとも実物的なショックなのかを区別することが可能となるし、金融市場が発するシグナルにメディアの報道を通じて得られる情報を組み合わせればショックの根底にあるそもそもの原因が何なのかを突き止めることも可能となる。マーケット・マネタリストに特有のこの手法は貨幣的なショックを分析するためにローマー夫妻(クリスティーナ・ローマーとデビッド・ローマー)が考案した手法(pdf)を新たな次元に引き上げるものだという見方もできるだろう。サムナーはその手法を『ミダス・パラドックス』の中で巧みに実演してみせてくれているのだ。

本ブログの読者の皆さんにもスコット・サムナーの『ミダス・パラドックス』を是非とも手に入れていただきたいものだ。

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●Tyler Cowen, “*The Midas Paradox*”(Marginal Revolution, November 24, 2015)


スコット・サムナーの大恐慌研究の成果をまとめた『ミダス・パラドックス』の出版が近付いている。副題は「金融市場、政策ショック、大恐慌」だ。サムナー自身が本の中で概要を説明しているのでその箇所を引用しておこう。

金(ゴールド)の取引市場に真剣に向き合えば、大恐慌についてこれまで考えられていた以上にずっと多くのことを説明できるようになることを本書全体を通じて示すつもりだ。生産量に生じた変動(詳細は表1.1をご覧になられたい)の多くは金の取引市場を襲った3タイプのショック――中央銀行による金需要の変化、民間部門における金の退蔵、金の価格の変化――によって説明できる。生産量に生じた変動の残りの部分はニューディール政策に端を発する5度にわたる賃金ショックと密接なつながりがある。本書は大恐慌期に生産量の大幅な変動をもたらしたマクロショックのすべてを取りこぼすことなく詳細に分析したはじめての研究である。

この点は強調しておきたいところだが、サムナーは他の多くの経済史の研究とは比べ物にならないくらい多くの労力を割いて資産価格の反応を調べ上げている。おそらくこのことはサムナーが成し遂げた(経済学への貢献というにとどまらず)方法論(分析手法)の面での主たる革新と言えるだろう。

ニューディール政策による実質賃金の人為的な(法律による強制的な)引き上げは惨事をもたらしたと結論付けざるを得ない。サムナーは本書の中でそうも主張している――私もその主張には同意だ――。この点は大恐慌に関する大半の研究では十分に強調されているとは言えないし、多くのケインジアンはムキになって「そんなことはない!」と否定しさえするかもしれない。しかし、(ニューディール政策による実質賃金の人為的な引き上げが景気にマイナスの影響を及ぼしたことを裏付ける)証拠は歴然としているのだ。

『ミダス・パラドックス』は大変優れた一冊であり、「大恐慌の経済学」をテーマとした本の中でも最高傑作の一つである。

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