不吉な統計:左利きは早死?

Alex Tabarrok, “Sinister Statistics: Do Left Handed People Die Young?”, Marginal Revolution, September 12, 2013


1991年、Halpern & Corenはニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)に右利きに比べ左利きの人の寿命がかなり短いようだ、という有名な論文を発表した。Hlpern & Corenは南カリフォルニアの987件の死亡事例について調査した。この調査はこの時点における死亡事例の無作為抽出であったことは間違いない。そして彼らは遺族に対して故人の利き腕について聞き取り調査を行った。彼らの発見は驚くべきものであった。このサンプルにおける左利きの平均年齢は66歳であり、右利きの平均年齢は75歳だったのだ。もしこれが真実なら左利きの人の死亡率は一生喫煙を続けた人の死亡率と同程度ということになる。Halpern & Corenは、左利きの人が右利きに適応したこの世界で起こす労災事故、あるいは自動車事故といった不自然な死亡にほとんどの原因を見いだせるとしている。この研究は当時広く報道され、いまでも左利きのエピソードとして日常的に引用されている(例:BuzzfeedCracked

他方でよく知られていない事実は、このHalpern-Coren研究の結論はほぼ確実に間違いであり、左利きであることは大きな死因ではない、ということだ。Halpern-Coren研究が発見した事実とは、左利きの寿命は劇的に短いということではなくて、もっと微妙かつ興味深い統計の誤読だったのである。この問題はHalpern-Corenの論文が発表されたニューイングランド医学ジャーナルのすぐ次の号に掲載された編集者へのレター(Strang letterを見よ)で指摘され、最近でもBBCニュース(BBCに脱帽!)のなかでHannah Barnesが指摘している(後者はあまり知られていないが)。

ある時点での死亡事例の無作為抽出は必ずしも人々の無作為抽出になるとは限らない、というのがここでの統計的な問題である。以下で説明しよう。

Percentage of left-handed people

20世紀の間、左利きの比率は上昇し続けてきた。左利きであるかどうかは比較的遺伝的に決定されているのかもしれないが、20世紀初頭には子供たちは右利きに矯正されることが非常に多かった。その結果、多くの「生まれつきの」左利きは右利きとして振る舞うようになり、右利きの大人として認識されることとなった。しかし時が経つにつれ左利きへの社会的な圧力は減少し、左利きとして振る舞う人の比率は上昇してきた。それが上の図で示されている(おそらくイギリスのデータである)。

さてここで1990年に死亡した人々のランダムサンプルをとるとしよう。このサンプルである人は若くして死に、ある人は年老いて死んだであろう。この高齢で亡くなった人たちのうちの左利きであった(と申告された)人は若年死亡者よりも少ないであろう。なぜならこの人達は左利きであることが抑圧された時代に育っているからである。しかし、このサンプルからは高齢死亡者には右利き比率が高く、若年死亡者には左利き比率が高いと読み取れるため、左利きの方が寿命が短い、と誤って結論してしまいがちなのである。この研究はこの統計的誤読が9年の平均死亡年齢の差を容易に説明できる、と指摘している。

もっとわかりやすい例を思考実験で示そう(Chris McManusより)。最近亡くなった人の遺族に次のような質問をするのである。「故人はハリー・ポッターシリーズをお読みになったことがありますか?」と。悲劇的に若くしてなくなった人(例えば12歳)のグループでは90代でなくなった人のグループに比べて明らかに多くの人がYESと答えるであろう。だからといって、いろいろな意見はあるものの、「ハリー・ポッターを読むと早死する」と結論するべきではないのである。

(Tim Harfordに感謝)

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