海賊の経済学:閉じたお金の流れ BY STUART YIKONA

STUART YIKONA “The Piracy Money Cycle: ‘Trickle-Round Economics’” (October 30, 2013)

(本エントリは世界銀行のウェブサイト使用条件に従って掲載しています。The World Bank: The World Bank authorizes the use of this material subject to the terms and conditions on its website, http://www.worldbank.org/terms.)


Containership Photo
ここから千マイル以上先の彼方、隠れ家で腰を下ろしつつ3人の元海賊が小型艇の「歩兵」としての過去、アフリカの角周辺海域で警戒が薄い輸送船を襲撃するための準備作業について回想している。私たち研究者チームは、彼らの話に釘付けとなった。

聞き取りでは、どういった経緯で海賊業に身をやつしたのか、稼ぎはどの程度か、そのお金をどのように使うのかといったことの他に、おそらくは何よりもここで重要なこととして、彼らの「船長」、出資者やその他の投資家、交渉役などについて知っていることを尋ねた。

彼ら歩兵は実際のところ、単なる下っ端、高額の身代金と引き換えに返還する船を操船するために雇われた下働きでしかない。

「海賊の足跡(Pirate Trails)」と題した、アフリカの角周辺海域での海賊行為に関するレポートに結実した私たちの調査研究による推計では、2005年4月から2012年12月までの間に支払われた身代金の総額は339~413百万ドルになる。船会社や海賊たちはともに、身代金の額については口を閉ざしがちであるために、正確な額を特定するのは非常に難しい。

今回の調査は世界銀行グループ、国際連合薬物犯罪事務所(UNODC)、国際刑事警察機構(インターポール)の研究者による協同作業であり、その目的は支払われた身代金がどこへ向かうかを知るというものであった。つまりそれがどこへ投資されているかや、この犯罪事業によって一番儲けを得ているのは誰なのかということだ。「海賊資金サイクル(the piracy money cycle)」と私たちが呼ぶところのものを理解し、明らかにするための試みはそうして始まった。

多額の利益をもたらす海賊事業は、システムの中核となる「親玉」とも呼ばれる出資者によって支配されている。そこから得られた利益は合法事業(カート [1]訳注;wikipedia記事はこちら の取引や、ホテル・運送事業)、非合法事業(武器、人身売買)問わず投資されているが、その中には次回の海賊行為用の資金も含まれており、自己永続的な資金サイクルとなっている。

親玉たちは個人として、あるいはカルテルを組んで出資を行っているかに応じて、身代金の30~70%を得ていることが調査によって判明した。

あらゆる事業がそうであるように、海賊にも支出がある。歩兵、つまりは襲撃や、奪取した船とその乗組員の確保を行う下級船員の支払いには、30,000~75,000ドルが向けられている。その他、「コックやメカニック」、すなわち海賊たちへ物資やサービスの提供を行う地元業者への支払いも必要となる。

調査を進めるうちに、調査期間内の海賊行為による収入のほとんどは、ソマリア内において投資・支出されたと私たちは結論付けるに至った。これは、これまでの支配的な考え方、つまりは汚れたお金は外へと持ち出されるというものとは正反対だ。また、海賊の出資者たちが民兵への投資や、政治的影響力を増すためにもこれら利益を用いていることが分かった。さらに、お金は「伝統的」分野を通じて洗浄されている。すなわち、ホテル、レストラン、カート、運送、石油産業だ。

用心深いビジネスマンのように、一部の親玉たちはメインとなる既存の財源を用いて会計、コンサルタント、金貸しといった金融サービスを提供し、事業の多角化を行っている。

「海賊の足跡」はさらに、一部の支配的な考え、とりわけ海賊行為によるお金が地域の不動産市場における大きな要素であるというものにも風穴を開けた。海賊行為による不正な資金が、不動産価格の高騰をもたらしているという意味においてこの地域で非常に重要な役割を果たしているということを示す説得力のある証拠は、私たちの調査によっては見つからなかった。

海賊のお金の流通が明らかとなった今、やるべきことは次の質問に答えることだ。すなわち、どうすればこうしたお金の流れを妨げる、あるいは断つことができるだろうかということだ。国際社会は海賊がもたらす危険性を認識している。アメリカの法律家、ネイル・マクブライドの言葉を借りれば、「海賊たちは金銭欲のために人々を誘拐、拷問、殺害する、凶暴、強欲、向う見ずでどうしようもない犯罪者」なのである。

海賊の収入(身代金)の洗浄を追跡し、そうした不正資本の流れを断ち、ひいては海賊行為へと走る誘因を減少させるためには、金融情報活動の共有と活用を行うための一致した行動が必要だ。アフリカの角周辺海域における平和維持活動を調整するための多国籍海上部隊をモデルとして、金融情報活動の側でも情報交換を含めた同様の枠組みを再生産することも出来るのではないだろうか。

「海賊の足跡」はインド洋の状況に焦点を当てたものだが、より広範囲へと応用できるものでもあり、西アフリカ周辺海域、特にギニア湾における海賊行為の増加への対処にも活用できるかもしれない。金融フローの追跡し、断ち切ることの重要性は、歩兵たちに対処するための海上活動のそれに劣るものではない。お金の追跡とは、海賊の出資者、仲介役、投資家、受益者たち、つまりは海賊ビジネスを実際に支配している犯罪者たちを見つけ出すことなのであって、海賊対処のあらゆる取組にとって重要なことなのだ。

写真: Istock.com/gioadventures

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1 訳注;wikipedia記事はこちら
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