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Archives for 2月 2014

タイラー・コーエン「仮想通貨Fedコイン採用のススメ?」

Tyler Cowen “What would Fedcoin look like?” (Marginal Revolution, February 26, 2014)


熱心な読者のひとりであるJWがこんな文章を送ってきてくれた。

時は2018年、ジャネット・イエレンはその第一任期において堅実な成長と低インフレ率を達成したことで、ウォーカー大統領によりFed議長の職に再任された。しかしながら、そうした成長を達成するために、イエレンは超低金利を維持せざるをえなかった。そして災厄がやってくる。フランスが突如としてユーロを離脱し、世界的な信用収縮を招くのだ。これは2008年の完全な再現だ。ウォーカー大統領はどのような刺激策もとろうとはしない。イエレンはレジーム変更がFedにおいては必要だと考えるのであった。 [Read more…]

スコット・サムナー「ノアへ:アベノミクスの効果は出てます」

Scott Sumner “Noah’s snark?“(TheMoneyIllusion, February 25th, 2014)

(訳者補足:本エントリは、先日訳したノア・スミスの記事に対してのもの。)


アベノミクスについて私は次のようにずっと言ってきた。

1.データは新たな日銀の政策がインフレ、及びインフレ期待を上昇させたことを示している。これについては山のような証拠がある。

2.日本のインフレ率は、日銀がさらなる行動をとらない限りは(消費税による上昇を除くと)2%に達しない可能性が高い。これは上記1点目ほど明らかではないが、長期債券利回りを始めとした市場の指標の読み取り方としては適切に思う。

3.2%インフレを達成するかどうかは全く重要ではないし、インフレ率を目標とすべきですらない。それよりも重要なのは、日本が名目GDP成長をプラスの領域、少なくとも2%から3%のところまで持っていけるかどうかだ。これが達成されるかは依然として明らかではないが、進展はしてきている。 [Read more…]

アレックス・タバロック 「格差とマネタリーエリート」

●Alex Tabarrok, “Inequality and the Masters of Money”(Marginal Revolution, January 14, 2014)


はじめに断っておくと、今回のテーマは格差とお金にまつわるものではない。格差と金融政策を操る首領(ドン)とがテーマである。

Yellen-300x166まず最初に取り上げるのはジャネット・イェレン(Janet Yellen)である。イェレンと言えばこの度晴れて新たなFRB議長に任命されることになったわけだが、その結果として彼女は現時点において世界で最もパワフルな女性1 /これまでの歴史上において最もパワフルな女性/現時点において(男女を含めて)世界で2番目にパワフルな存在/現時点において(男女を含めて)世界で最もパワフルな存在/・・・としての地位を手にすることになった(どの評価が妥当であると感じるかは各人次第だろう)。ともあれ、FRB議長という地位にあるイェレンがパワフルな存在であることだけは確かだ。さらに、彼女の夫はノーベル経済学賞受賞者のジョージ・アカロフ(George Akerlof)である。これほどまでに卓越した2人の人物が同じ屋根の下で暮らしているという事実は同類婚(assortative mating)のまたとない例だと言える。イェレン-アカロフ夫妻は上位1%の中のさらにその上位1%の存在であり、政治や文化の面でのかくも偉大な成果がわずか1つの家族の手に集中して収まっているという事実は格差の拡大を物語る一つの例だと言えよう。女性に対する機会の平等がますます確保されつつある2ことこそがこの種の(同類婚を通じた家族間での)格差の拡大を促している要因の一つとなっていると考えられるだろう3

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  1. 訳注;「パワフルな」=強大な政治的権力を手にした、という意味 []
  2. 訳注;言い換えると、女性の社会進出が進んでいる []
  3. 訳注;同類婚が家族間での所得格差の拡がりに対してどのような役割を果たしているかという点については本サイトで227thday氏が訳出されている次の論説も参照のこと。“グリーンウッド他 「格差婚がないからアメリカでは格差が拡大する」” []

ノア・スミス「日本のインフレはアメリカ人が考えるほどには高くない」

Noah Smith “Japanese inflation isn’t as high as you think” (Noahpinion, February 23, 2014)


Gauze+promoshot
僕はいつも、「コアコア」っていうのがすごいハードコアなハードコア音楽で、演奏できるのはGGアリンだけ、それもステージ上で文字通りぶっ飛んでるときだけっていうようなのだと思ってた。でも実際には、「コアコア」っていうのは日本のインフレ指標の一種で、食品とエネルギー価格を含んでいないやつだ。アメリカで「コア」って呼んでるやつと同じじゃないかと思う人もいるかもしれない。そしてそれは正解。問題なのは日本には彼らが「コア」インフレ率と呼ぶものが既にあるっていうことなんだけど、これは食料を除外しているけどエネルギー価格は含んでいる1 。これは自然に報道で混乱を作り出してしまう。記者たちは律儀に日本の「コア」インフレ率を報道するけど、読者はアメリカの指標と同じものとして受け取ってしまうからね。でも実際にはこの二つは違うんだ。

さてどうしてこれが重要なんだろうか。 [Read more…]

  1. 訳注;正確には日本のコアインフレ率で除外されるのは生鮮食品のみ。それに対し日本のコアコア及びアメリカのコアは食料全般(酒類を除く)をエネルギー価格とともに除外する。参考リンク []

タイラー・コーエン「成長の終焉論文ver.2.0」

Tyler Cowen “Robert Gordon’s sequel paper on the great stagnation“(Marginal Revolution, February 18, 2014)
(訳者補足;本エントリは、先に投稿したジョン・コクランによる論文紹介の1番目の論文に対するコーエンによるレビューなので、論文自体の要旨はそちらを参照。)


NBERに投稿した新論文で、ロバート・ゴードンは批判への応答や、アメリカの経済成長が鈍化してこの先長期間に渡って標準以下になることは決定づけられているという彼の主張の核心の概要を述べている。この既によく知られた議論を要約してもしょうがないから、いきなり本題に入ろう1[Read more…]

  1. 訳注;この議論の概要について知りたい方は、外部サイトの拙訳で大変恐縮だがここここを参照 []

ジョン・コクラン「新着論文紹介」

John Cochrane “In Box“(The Grumpy Economist, February 17, 2014)

経済学者であるということの喜びの一つは、いくつもの素晴らしい論文が書類箱に届くということだ。それら全部を読む時間がないというのは酷く残念に思っている。NBER、SSRN、AEAの優待メーリングリストから今日届いたいくつかのものを紹介しよう。免責条項:まだ要約部分しか私は読んでいない。(NBERのワーキング・ペーパーを見ることが出来ない場合には、大抵Google検索で著者のページやSSRN上の無料版が見つかる。)


1.アメリカ経済成長の死:再主張、反論、再考 by ロバート・J・ゴードン(The Demise of U.S. Economic Growth: Restatement, Rebuttal, and Reflections by Robert J. Gordon)http://papers.nber.org/papers/W19895 [Read more…]

タイラー・コーエン 「経済学の世界も同類婚という現象と無縁ではない?」

●Tyler Cowen, “Assortative mating”(Marginal Revolution, February 20, 2007)


先月のニューヨーク・タイムズ紙でデイビッド・レオンハート(David Leonhardt)が興味深い論説を執筆している。“The Future of Economics Isn’t So Dismal”(「経済学の未来はそれほど暗くはない」)と題されたこの論説では13人の(今のところはテニュアをとっていない)若き経済学者の業績が紹介されている。

・・・(中略)・・・

私が個人的に目を引かれたのは、レオンハートが紹介している13人の新進気鋭の経済学者のうち6人が配偶者同士だということだ。例えば、シカゴ大学に所属するエミリー・オスター(Emily Oster)の夫は同じくシカゴ大学のジェシー・シャピロ(Jesse Shapiro)である。ついでながらオスターの両親はともに経済学者――父親のレイ・フェア(Ray Fair)も母親のシャロン・オスター(Sharon Oster)もともにイェール大学に勤める経済学者――というおまけつきである。大事なことは家族だけの秘密にしておけ(keeping it in the family)1とはまさにこのことだ。さて、残す2組のカップルは、マサチューセッツ工科大学のエイミー・フィンケルシュタイン(Amy Finkelstein)とハーバード大学のベンジャミン・オルケン(Benjamin Olken)のカップル、そしてともにカリフォルニア大学バークレー校に勤めるウルリケ・マルメンディア(Ulrike Malmendier)ステファノ・デラヴィグナ(Stefano DellaVigna)のカップルである。

ところで、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのジャステン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)の妻もまた経済学者である。レオンハートの論説で紹介されている13名の中には含まれていないが、ウォルファーズの妻はハーバード大学から博士号(PhD)を取得した後にフィラデルフィア連銀とサンフランシスコ連銀で2年間働き、そして現在はペンシルバニア大学ウォートンスクールの助教授の地位にあるベッツィー・スティーブンソン(Betsey Stevenson)である。つまり、(レオンハートの論説の中で紹介されている)将来を嘱望されているアメリカ経済学界の若きスターの半分以上(13人中7人)が同業の経済学者をパートナーに迎えているのだ。

全文はこちらを参照のこと2

  1. 訳注;コメント欄で山形浩生氏がご指摘くださっているように、”keeping it in the family”には「財産や農場などを一家で持つようにして部外者に渡すな」といった話も含まれるとのこと。親も配偶者も経済学者で占められている状況を見て、まるで経済学という秘密(?)の知識を家族以外の部外者に渡すまいとしているようだ、というようなことが言いたいのかもしれない。 []
  2. 訳注;上の引用箇所で言及されている経済学者の所属等は2007年当時のもの。リンクは各自最新のページに貼り変えてある。 []

グリーンウッド他「格差婚がないからアメリカでは格差が拡大する」

Jeremy Greenwood, Nezih Guner, Georgi Kocharkov, Cezar Santos “US inequality due to assortative marriages” (VOX, February 22, 2014)

(2月25日訳者追記:1)この論説に対する批判をhimaginary氏が概要とともに紹介しているので、そちらも参照ください。2)”assortive mating”の訳語を同類婚に変更)

アメリカ人がどのように家族を形成し、また別れるかは、1950年以降劇的に変化してきた。こうした変化のうちのひとつは同類婚、すなわちある人が似たような教育的背景をもつ誰かと結婚する可能性の上昇であった。本稿では、教育が所得の重要な決定要因であり、こうしたカップリングのパターンがアメリカ経済における所得配分に重要な影響を与えてきたことを論じる。


アメリカにおける所得格差は、過去数十年で急激に上昇してきた。これは文献で十分に示されている事実だ(例えばGottschalk and Moffitt 1994, Katz and Autor 1999)。一般大衆もまたこの問題に強く関心を抱いている。USAトゥデイとピュー研究所が最近行った調査では、「自国における経済制度は不当に富裕層を優遇しており」、政府は「お金持ちとそれ以外の全員との間の差を減らすための多くのこと」をしなければならないと大多数の人々が考えていることが示されている。政策決定者もまた、こうしたことに気付いている。2014年の一般教書演説において、アメリカ大統領バラク・オバマは、「議会が同意するか否かに関わらず」経済格差へ取り組むことを誓った。格差がずっと上昇局面にあったのには複数の理由がある可能性がある(概説としては、Gordon and Dew-Becker 2008を参照)。しかし、家族形成が格差へ与える効果というのはどういうものだろうか。 [Read more…]

ポール・クルーグマン「人々はほんとに分相応なものを受け取っているのか?」

Paul Krugman, “Do People Really Get What They Deserve?,” Krugman & Co., February 21, 2014. [“Vox Anti-Populi“; このブログ版の訳文はすでに掲載済みです)]


人々はほんとに分相応なものを受け取っているのか?

by ポール・クルーグマン

PETT/The New York Times Syndicate

PETT/The New York Times Syndicate

ぼくの学生だったリチャード・ボールドウィンが編集してる VoxEU は,いま現在の政策をとりあげる経済オンライン・ジャーナルだ.そこに,格差に関するすぐれた記事が2つ掲載されている.
[Read more…]

タイラー・コーエン 「アスリートはベイジアンか?」

●Tyler Cowen, “Are athletes Bayesians?”(Marginal Revolution, January 21, 2004)


アリゾナ大学に所属する経済学者のマーク・ウォーカー(Mark A. Walker)とジョン・ウーダース(John C. Wooders)は、ビョルン・ボルグやイワン・レンドル、ピート・サンプラスといった往年の名テニスプレイヤーの試合のビデオをつぶさに見返した。それぞれの選手がサーブを打つ際に相手のフォアハンド側とバックハンド側にどれだけ巧みにランダムにボールをちりばめているかを調べたのである。

実験室で同様のテストをした場合、多くの人々は思わしくない結果を残す傾向にある。例えば、何度もコイントスを繰り返したと想像してその結果を紙に書き出すよう依頼された場合、表や裏が複数回連続して出ると答える人はほとんどいないことだろう。コインをトスした場合に表が出るか裏が出るかの確率は五分五分だということを知っているため、多くの人々は裏が3回連続して出たり表が4回連続して出たりする可能性を過小評価してしまうのである。

しかし、プロのテニスプレイヤーは、フォアハンド側へのサーブ後にはバックハンド側にサーブが来る可能性が高いと相手にわかられてしまうと自分が不利になってしまうと-意識のいずれかのレベルで-理解しているようである。ウォーカーとウーダースが2001年の論文で報告しているように、コンピュータープラグラムの計算ほどにはランダムではないにせよ、プロのテニスプレイヤーはサーブを相手のフォアハンド側とバックハンド側にかなり巧みにちりばめて打ち分けているということだ1

その他の実験でも同様の結果が得られているということだ。詳細はこちらを参照してほしい。

記事の中で指摘されている次のポイントは重要である。

何らかの決定を下そうとしている状況において-例えば、テニスのコート上で突然風が吹き出したり、フットボールの試合中に雪が降ったり、ハイウェイで運転している際に視界が暗闇に包まれたりするなどして-不確実性が高まるほど、人々は意思決定にあたってたった今手に入ったばかりの情報に頼る度合いを減らす一方で、潜在意識内の記憶に頼る度合いを高めるようになるというわけだ2

関連する話題としてクレムゾン大学の院生であるドル・コジョク(Doru Cojoc)の研究にも触れておこう。過去にも紹介したことがあるが、彼の研究によるとチェスのプレイヤーは相手を惑わすために混合戦略を用いている3ということだ。それも大きな大会になるほどそのような洗練された戦略が用いられる可能性が高まるというのだ。

ところで、こちらで紹介されているように、植物も呼吸するにあたってあたかも計算を行っているかのように見えるということだ。かつてアーメン・アルチャン(Armen Alchian)が似たような仮説4 -植物ははっきりとそう意識することなく体に受ける日光の量を最大化するように振る舞っている-を述べていることをご存知の読者もいることだろう。

  1. 訳注;ウォーカーとウーダースによるこの研究のそれほどテクニカルではない紹介としては、Mark Walker and John Wooders, “Mixed Strategy Equilibrium(pdf)”(in The New Palgrave Dictionary of Economics)も参照のこと。 []
  2. 訳注;状況の不確実性が高まるほど、新たに入手したばかりの情報だけではなく、過去の体験(≒事前確率)も加味して意思決定を下すようになる(ベイジアンのように振る舞うようになる)、ということ。 []
  3. 訳注;最初の1手目をランダムに選ぶ []
  4. 訳注;リンクが切れており該当するページを見つけ出すことができなかったため、別のリンク先に貼り変えてある。 []