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Archives for 8月 2014

アレックス・タバロック 「オリンピックゲーム理論」

●Alex Tabarrok, “Olympic Game Theory”(Marginal Revolution, August 11, 2012)


のろのろとゆっくり走ってレースに勝つにはどうしたらいいだろうか? その秘訣を知りたければ、こちらの映像をご覧になればよいだろう。この映像は自転車トラックレース個人スプリントのワールドカップ(UCIトラックワールドカップ2011-2012、ロンドン大会)の試合の模様を収めたものだが(似たようなシーンはオリンピックでも目にすることができる)、スタートの合図とともに世界でもトップレベルの速さを誇る2名の選手が限界ぎりぎりまで「速度を落として」スタートを切る。その姿はまるでモンティ・パイソンの世界から飛び出してきたかのようだ。速度を限界まで落としきってその場にピタッと停止するに至るようなケースもあるということだ。

本ブログの熱心な読者の一人であるAndy Garinがこのようなおかしな光景が生まれる理由を次のように分析している。 [Read more…]

ポール・クルーグマン「中流社会に関する思い違い」

Paul Krugman, “Misperceptions About Middle-Class Society,” Krugman & Co., August 29, 2014.
[“Inequality Delusions,” August 20, 2014; “The Euro Catastrophe,” August 29, 2014]


中流社会に関する思い違い

by ポール・クルーグマン

Doug Mills/The New York Times Syndicate

Doug Mills/The New York Times Syndicate


ドイツ経済研究所 (IW) が,先進諸国で格差がどう受け止められているか比較している――この研究で大事なお持ち帰りメッセージは,「ヨーロッパ人と比べてアメリカ人は自分たちが中流社会に暮らしていると思う傾向が強い」ってことだ.実際には,ヨーロッパと比べて,所得の分布はずっと不平等なのにも関わらずね.

たとえば,アメリカとフランスを比較したところでは,フランス人は自分たちが階層的なピラミッドに暮らしていると思っているものの,現実には彼らは大半が中流だ.アメリカ人はこの真逆になってる.〔下記のグラフは訳者による補足〕

comparison_France
▲ フランス人が考える所得分布(左)と実際のフランスの所得分布(右)

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▲ アメリカ人が考える所得分布(左)と実際のアメリカの所得分布(右)

この研究で指摘されているように,他の証拠からも,アメリカ人が自分たちの社会にある格差を大幅に小さく見積もっていることがわかる――そして,理想的な富の分配について質問されると,アメリカ人はスウェーデンみたいなものがいいと語る.

なんでこんなちがいがあるんだろう? ぼくも含めて多くの人たちは,こう論じる――「こと所得分配に関して,アメリカ人は社会保障と反貧困プログラムに独特な不審を抱いているし,敵対心すらもっている.このアメリカ例外主義は,人種に関わるアメリカ史とすごくつながりが強い.」 ただ,これでは,アメリカ人がどうして格差を間違って認識しているのか直接に説明がつかない:お金持ちがどれほどお金持ちなのか理解しながらも人々が《あいつら》に対する援助に反対することだって可能だ.ただ,間接的な効果ならあるのかもしれない:人種的な分裂は,あるとあらゆる種類の右派グループを力づける.すると,今度はそれによって,格差を無視しいかにも小さそうにみせかけるプロパガンダが大量にもたらされることになる.

面白い問題だ.

© The New York Times News Service


ユーロの破局

先日,『ワシントン・ポスト』に書いた記事で,マット・オブライアンがこう指摘している――実際のところ,ヨーロッパは大恐慌時代よりも下手を打っている.他方,フランス大統領フランソワ・オランドは――その腰抜けぶりと緊縮をしぶしぶでも黙認する姿勢で自分の大統領職の運命も,そしておそらくはヨーロッパの企図の運命すらも決定してしまった,オランドは――ようやく,ためらいがちながらも,さらに緊縮にはげむのは答えにならないかもしれないと示唆している.
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ポール・クルーグマン「公共政策はよりよい習慣を促進すべき?」

Paul Krugman, “Should Public Policy Promote Better Habits?,” Krugman & Co., August 29, 2014.
[“Steps and the City (Fairly Trivial),” The Conscience of a Liberal, August 16, 2014.]


公共政策はよりよい習慣を促進すべき?

by ポール・クルーグマン

BLEIBEL/The New York Times Syndicate

BLEIBEL/The New York Times Syndicate


『ワシントン・ポスト』のエミリー・バジャーが書いた先日の記事によると,都市のスプロールは健康にわるいそうだ.それに,Vox のサラ・クリフによると,映画館の売店も健康によくないらしい.それで,民主党のトム・ハーキン上院議員(アイオワ)とローザ・デラウロ下院議員(コネチカット)はポップコーンにカロリー情報表示を義務づける規則を課したがっている.(しょうもないことにクヨクヨしてる風に聞こえかねないのを承知でいうと,彼らはべつにみんなからポップコーンを「とりあげよう」としてるわけじゃない.彼らの規則ができても自由に買える.たんに,映画館はみんながこれから消費しようとしてるモノにどれだけカロリーがあるのか伝えなくちゃいけなくなるだけだ.)
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タイラー・コーエン 「日本のテレビ番組に見る『ただ乗り問題』 ~三銃士vs.50人の素人集団~」

●Tyler Cowen, “The free rider problem as illustrated by a Japanese fencing video”(Marginal Revolution, May 7, 2014)


ジェイソン・コッキー(Jason Kottke)が自らのブログで次のような話題を取り上げている。

日本のテレビ番組で少々風変わりなフェンシングの試合の模様が放送された。3名のプロ選手(「三銃士」)が50人の素人集団を相手に試合を行ったのである1

正直なところ、あれほど面白い展開になろうとは予想していなかった。素人集団が束になってかかり三銃士があっという間にやられてしまうか、試合が30秒では終わらずに長期戦になる場合には三銃士が素人を手際よく次々と始末していくかのどちらかになるだろうと決めてかかっていたのである。しかしながら、実際の試合展開は何とも興味深いものだった。

試合開始直後に50人の素人集団はやるべきことをやらなかった。自らの身は顧みずに一気に束になって三銃士に襲いかかり、即座に決着をつけてしまうべきところだったにもかかわらず、素人たちはそのような行動には打って出なかったのである。その代わり、どの素人もプロ選手と一対一で戦っているかのように振る舞ったのである。そのような中で三銃士は素人を一人一人着実に仕留めていくことになったわけだが、残された素人の数が少なくなるにつれて倒すのがますます容易になる・・・どころかその反対に三銃士は素人を退治するのにますます手を焼くようになっていく。集団の規模が小さくなる(残された人数が少なくなる)につれて素人たちは結束を強めるようになるとともに、「適者生存」の法則が働くことになったのである2。素人集団を相手に試合を続ける中で三銃士の動きは次第に鈍り、疲労の色は徐々に濃くなっていく。三銃士の中にはちょっとした過信もあったのかもしれない。そして試合は何ともショッキングな結末を迎えることになったのであった3

  1. 訳注;その動画はこちら []
  2. 訳注;「適者生存」の法則が働く=素人の中でも実力のある人物が残ることになった、ということ []
  3. 訳注;コーエンがブログのタイトルに「ただ乗り問題」という表現を用いている理由は次のところにあるものと思われる。50人の素人集団にとっての目的は三銃士を倒すことにあるわけだが、集団のメンバー一人一人には集団としての目的を達成する上で他のメンバーの努力に「ただ乗り」しようとするインセンティブがある。自分はできるだけ努力せずに(三銃士から討ち取られる危険は冒さずに)他のメンバーの努力にただ乗りして成果(三銃士を倒す)だけを手に入れたいと望む傾向があると考えられるわけである。そして他人の努力にただ乗りしようとするインセンティブは集団の規模(集団を構成するメンバーの数)が大きくなるほど強くなると予想されるわけだが、「三銃士vs.50人の素人集団」の試合もその予想通りの展開を見せているようである。ただ乗りのインセンティブと集団の規模との関係をはじめとして「ただ乗り問題」について詳しくは次の本を参照されたい。 ●マンサー・オルソン(著)/依田博(訳) 『集合行為論』 []

バンダリ&フランケル「途上国でこそ名目GDP目標を」

Pranjul Bhandari, Jeffrey Frankel ”Central banks in developing countries should consider targeting nominal GDP” (VOX, 21 August 2014)

中央銀行、とりわけても発展途上国のそれは、依然として透明性と信頼性のあるコミュニケーションを探求している。しかしフォーワード・ガイダンスあるいはコミットメントによる意図の伝達は、好ましくない制約を生み出してしまうことがある。本稿では、名目GDPの形で表現された中央銀行の発表は、インフレ率の形で表現された発表と比較して、発展途上国において非常に一般的である供給・貿易ショックとぶつかり合う可能性がより低いのだ。


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ポール・クルーグマン「ヨーロッパではダメな意志決定でぞっとする結果が生じてる」

Paul Krugman, “Bad Decisions Yield Grim Results in Europe,” Krugman & Co., August 22, 2014.
[“What’s the Matter With Europe?,” The Conscience of a Liberal, August 13, 2014.]


ヨーロッパではダメな意志決定でぞっとする結果が生じてる

by ポール・クルーグマン

KAL/The New York Times Syndicate

KAL/The New York Times Syndicate


ほんの数ヶ月前,ヨーロッパの緊縮派はせっせと自画自賛にはげんでいた.南欧でほどほどに経済が上向いたのを見て,これこそ自分たちの対応の正しさを裏打ちするものだと宣言していた.ところが,いまやニュースで伝えられる状況はゾッとするほど雲行きがわるい.鉱工業生産は急落を見せ,またしても景気後退にずり落ちるのを心配すべきまっとうな理由ができてしまっている.

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ヨーロッパではこうなってる一方で,アメリカでは,すべてってわけじゃないけど多くのデータ点から,いっそう強い成長が示唆されている.どうしてヨーロッパはこんなひどいことに?
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ポール・クルーグマン「《リバタリアンへの転回》は起こりそうにない」

Paul Krugman, “The ‘Libertarian Moment’ Will Have to Wait,” Krugman & Co., August 22, 2014.
[“Libertarian Fantasies,” The Conscience of a Liberal, August 9, 2014]


《リバタリアンへの転回》は起こりそうにない

by ポール・クルーグマン

Damon Winter/The New York Times Syndicate

Damon Winter/The New York Times Syndicate

ロバート・ドレイパーが先日『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』に書いた長文は,「リバタリアンへの転回」の可能性について論じている.この記事には,すでにけっこうな数のコメントが集まっている.その多くは,根拠とされる世論調査を疑問視している.
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ポール・クルーグマン「エリー湖で共和党の潮目は変わる?」

Paul Krugman, “Will Lake Erie Turn the Tide?,” Krugman & Co., August 15, 2014. 
[“Phosphate Memories,” August 4, 2014; “The Empiricist Strikes Back,” August 10, 2014]


エリー湖で共和党の潮目は変わる?

by ポール・クルーグマン

Joshua Lott/The New York Times Syndicate

Joshua Lott/The New York Times Syndicate

RedState.com の編集者エリック・エリクソンが前に言ってたこれを覚えてるかな? 「ワシントン州はその住民を麻薬密売人グループに変えてしまった――州境をまたいで,リン入り洗剤を仕入れる密売人に」――エリクソン氏は2009年にこう記している.「いったいいつになったら,人々は政治家に『地獄に堕ちろ』と言い出すんだろう? いったいいつになったら,人々はソファから起き出して州議員の家に大挙して押しかけて引きずり出し,バカなマネをしくさってと張り倒すんだろう? きっともうすぐそうなる.」
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ポール・クルーグマン「共和党はレーガン神話を守るのに懸命だ――中身におかまいなしで」

Paul Krugman, “Republicans Are Devoted to Protecting the Reagan Myth, No Matter What,” Krugman & Co., August 15, 2014.
[“Sliming Rick Perlstein,” August 5 2014; “On Reaganolatry,” August 8, 2014]


共和党はレーガン神話を守るのに懸命だ――中身におかまいなしで

by ポール・クルーグマン

Paul Hosefros/The New York Times Syndicate

Paul Hosefros/The New York Times Syndicate

そうだね,グロテスクな話だ.リック・パールスタインが新著を出した.『見えない橋:ニクソンの凋落とレーガンの隆盛』って題で,すばらしく教えられることの多い保守主義運動の興隆史の続きを書いてる――で,その彼がいま,完全に事実無根な剽窃疑惑で非難されてる.
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ポール・クルーグマン「相変わらず失敗の兆しなんか見えない保険医療改革」

Paul Krugman, “Still Failing to Fail,” Krugman & Co., August 8, 2014.
[“Still Failing To Fail,” The Conscience of a Liberal, August 5, 2014.]


相変わらず失敗の兆しなんか見えない保険医療改革

by ポール・クルーグマン

『ニューリパブリック』のジョナサン・コーンが,先日,アメリカにおける健康保険プレミアムに関するこれまでの証拠に目を向けている.それでわかったのは,事態はそうひどすぎるってわけじゃないってことだ:

《消費者の大多数にとって,保険適用はほぼいつでも高くつくものだが,これがいっそう高くつくようになるだろう」とコーン氏は8月4日に書いている.保険プレミアムの変化は州やプランしだいで大幅に異なるだろう.ただ,全体を見ると,2015年のプレミアム増額は,過去と比べて大幅に悪くなることはない.それどころか,ほんの少しながらよくなるかもしれない.》
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