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Archives for 11月 2014

ポール・クルーグマン「格差と不況からの回復力のつながり」

Paul Krugman, “The Inequality Connection,” Krugman & Co., November 28, 2014.
[“Inequality and Crises: Scandinavian Skepticism,” November 21, 2014; “The Wisdom of Peter Schiff,” November 22, 2014]


格差と不況からの回復力のつながり

by ポール・クルーグマン

Jonathan Nackstrand/The New York Times Syndicate

Jonathan Nackstrand/The New York Times Syndicate


12月はじめに,コロンビア大学で開かれる格差とその帰結に関するカンファレンスでぼくも話す予定になってる.そこでぜひ取り上げなくちゃいけない問題のひとつは,「格差の拡大によって国々は金融危機に対して弱くなるのか,そうした危機からの回復がいっそう困難になったり,あるいは他のかたちで経済の業績をわるくしてしまうのか」っていう,いま議論になってる問題だ.
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ポール・クルーグマン「苦しむ日本がとるべき道筋」

Paul Krugman “The Right Course for a Troubled Japan,” Krugman & Co., November 26, 2014.
[“Structural Deformity,” The Conscience of a Liberal, November 20, 2014.]


苦しむ日本がとるべき道筋

by ポール・クルーグマン

Stephen Crowley/The New York Times Syndicate

Stephen Crowley/The New York Times Syndicate

日本の安倍晋三首相が消費税増税の延期を模索してるのは,正しい.延期はいい経済政策だし,ぼくにとってはかなり新鮮な経験でもある――国のリーダーと会って,正しい政策の主張をして,その相手がまさにそのとおりにやってるんだもの.(もちろん,同じ主張をしてた人はぼく以外にたくさんいる.)
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マーク・ソーマ 「睡眠不足と『楽観主義バイアス』」

●Mark Thoma, “Sleep Loss and “Optimism Bias””(Economist’s View, March 8, 2011)


サイエンティフィック・アメリカン誌が運営しているブログの記事(“Short on sleep, brain optimistically favors long odds”)によると、睡眠不足の状態ではギャンブルには手を出さない方がいいようだ。

・・・新たな研究によると、人は一晩徹夜するだけでも一か八かの賭けに出る――大儲けできそうであればそれよりもずっと大きな損をするリスクがあっても構わず賭けに乗る――可能性が高くなるということだ。・・・

デューク大学に籍を置く研究チームは29名の健康な被験者にいくつかのギャンブルゲームを行ってもらい、fMRIを用いてその最中の脳の活動の様子がどうなっているかを調べた。一晩ぐっすりと眠った後にゲームを行った被験者のグループは実生活で大抵の人が示すのと同じような振る舞いを見せた。ゲームに負けてお金を失う(損をする)リスクを警戒しながら慎重な態度で儲けを追い求めたのである。

一方で、一晩徹夜した(午後6時から翌日の午前6時まで実験室で寝ずに過ごした)後にゲームを行った被験者のグループは「損するリスクへの警戒を緩めてできるだけ大きな儲けを追い求める」姿勢を露わにしたという。・・・この実験を行った研究チームは徹夜した被験者たちが露わにした姿勢を指して「楽観主義バイアス」(“optimism bias”)1と呼んでいる。

・・・fMRIで捉えられた脳の画像を調べたところ、一晩徹夜した上でギャンブルゲームを行った被験者の脳内では一晩ぐっすりと眠った被験者と比べると前頭前野腹内側部がより活発に活動している様子が確認できたという。この部位は恐怖やリスク、意思決定と関わりのある領域として知られている。それに加えて、一晩徹夜した被験者の脳内では前部島皮質――感情や中毒との関わりが指摘されている領域――の活動が落ち込んでいる様子も確認できたということだ。・・・

・・・カジノでブラックジャックのテーブルの前に「一晩中」張り付いたり、オンラインのポーカーゲームに「夜通し」興じたりすることは、(睡眠不足を伴うことで)ギャンブルに輪をかける結果となる可能性があると言えるだろう。・・・睡眠不足を原因とした「楽観主義バイアス」の問題はギャンブルよりもずっと賭け金が高い(ずっと大きなものがかかっている)分野、例えば証券取引所の立会場(トレーディング・フロア)や病院での仕事にも付きまとうことになるかもしれない。立会場や病院では時として寝不足のままでの業務遂行を強いられているのだ。

・・・睡眠不足に伴う問題は単にやる気が出ないという話にとどまるわけではなく、ずっと根が深い可能性がある。エスプレッソ――あるいはもっと強力な眠気覚まし――を口にしたところで睡眠不足の脳が「根拠のない楽観」に向かう傾向を食い止めることはできないかもしれないのだ。・・・ 

ついでにこちらの記事(“How do doctors know how much sleep we need?”)もご覧になられるといいだろう。「必要な睡眠時間はどのくらいか?」といった問題については諸説あるようだが、この記事ではこの問題に関するこれまでの研究の概要が紹介されている。

  1. 訳注;ゲームに勝つ(儲けを手にする)可能性を過大評価する一方で、ゲームに負ける(損をする)リスクを過小評価する傾向 []

マーク・ソーマ 「たっぷり寝て経済に活を入れよう」

●Mark Thoma, “‘Get Some Sleep, and Wake Up the GDP’”(Economist’s View, February 1, 2014)


センディル・ムライネーサン(Sendhil Mullainathan)がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿している記事(“Get Some Sleep, and Wake Up the G.D.P.”)によると、どうやら少し横になる必要があるようだ。

・・・(略)・・・国民の多くはもっと睡眠をとる必要がある。

・・・(略)・・・睡眠と経済学? 両者の間に一体どんな関係があるというのだろうか? 生理学の専権事項なのではないだろうか?

いや、睡眠と経済学とは大いに関係がある。まず第一に、睡眠不足は経済に対してかなり大きな影響を及ぼす力を秘めている。・・・2008年に行われた世論調査によると、働く社会人(労働者)のうち29%は仕事中に居眠りをしたり激しい睡魔に襲われた経験があるという。オーストラリア人を対象とした研究によれば、睡眠障害に伴う経済的なコストはGDPの0.8%に相当するということだ。

しかしながら、この数字は睡眠不足がGDPに及ぼす損害を過小評価している可能性がある。上記の研究では睡眠障害の治療に要する医療費や(睡眠不足を原因とする)業務上の事故に伴う金銭的なコストに焦点が当てられており、睡眠不足がGDPに及ぼし得る最も重要な影響が見逃されているのだ。現代の多くの職場では頭を使う仕事や(周囲とのコミュニケーションをはじめとした)ソーシャルスキルが重要な位置を占めているが、睡眠不足は無気力やイライラを誘発するだけではなく、頭の働きを鈍らせることにもなる。その結果として経済に対してあらゆる角度から大きな損害が及ぶ可能性があるのだ。・・・[続きはこちら]

タイラー・コーエン 「安眠の効能 ~一晩寝て考える~」/「睡眠に関する2つのトリビア」

●Tyler Cowen, “Sleep on it”(Marginal Revolution, January 22, 2004)


安眠は思考力を高め、問題解決を促す助けとなるかもしれない。

今回ドイツの研究チームが明らかにしたところによると、人間の脳は寝ている間も日中にうまく解決できなかった問題に取り組み続け、十分な睡眠――8時間睡眠――をとることですんなりと問題の答えに辿り着くことができるようになるかもしれないという。

十分な睡眠はひらめきや問題解決を促す可能性があるという話は世間一般に流布しているところだが、今回ドイツの研究チームが明らかにした研究結果はそのことを裏付ける最初の動かぬ証拠だと言えるだろう。(今回の研究には参加していない)別の研究者が語っているように、今回の研究結果は過労気味の社会人や学生に対して「睡眠こそが時として最高の良薬だ」との警鐘を鳴らしている。

ドイツのリューベック大学に籍を置く研究チームはボランティアを募って簡単な数学クイズを課した。ボランティアは一旦クイズに取り組んだ後に複数のグループに分けられ、睡眠を8時間とった後に再びクイズに挑戦したグループでは寝ずに(徹夜で)クイズに取り組み続けたグループよりも3倍ほど正解に辿り着く割合が高かった。今回の研究結果は近々ネイチャー誌に掲載される予定となっている。

全文はこちらを参照されたい。この研究結果についてはこちらでも取り上げられている。原論文はこちらだ。ちなみに、私はぐっすり眠った後に本ブログの過去エントリーを見返す習慣があることを申し添えておこう。
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●Tyler Cowen, “Two things I learned about sleep”(Marginal Revolution, October 11, 2003)


レム睡眠が不足すると精神に異常をきたすという古くから伝わる考えはかなり説得力のある証拠によって否定されている。

この後には次のような但し書きが続いているが、文中で触れられている研究に政府が研究費を支給していないことを願うばかりだ。

とは言え、これまでの研究によると、眠っている最中に繰り返し小突かれて睡眠の邪魔をされると、眠りを邪魔された人はイライラしやすくなることは確かなようである。

次の話はご存知だっただろうか?

必要な睡眠時間を左右する重要な要因の一つは体のサイズにあるようだ。体が大きな動物ほど必要な睡眠時間は短い傾向にある。これまでの研究によると、睡眠は脳細胞に生じたダメージを修復する役割を果たしていることが知られている。小型動物ほど代謝が活発だが、代謝が活発なほど脳細胞に生じるダメージの量は増える。それゆえ、(代謝が活発な)小型動物ほど脳細胞を修復するためにより多くの時間が必要となり、そのために睡眠時間も長くなるというわけである。

オポッサムの睡眠時間は1日18時間であり、象の睡眠時間は1日3時間ということだ。

全文はサイエンティフィックアメリカン誌(2003年)11月号の記事 “Why We Sleep(pdf)”(「我々はどうして眠るのか?」)をご覧になられたい。

アレックス・タバロック 「お金持ちは睡眠上手?」/タイラー・コーエン 「睡眠時間が最も長い国はどこ?」

●Alex Tabarrok, “The Rich Sleep Efficiently”(Marginal Revolution, September 12, 2006)


アメリカン・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー(American Journal of Epidemiology)誌に掲載されたばかりの論文によると、所得が高い人(お金持ち)ほど睡眠の効率が良い(睡眠上手)ということだ。とは言っても、お金持ちは短い睡眠時間でも体を休める術を体得しているというわけではない――実のところ、お金持ちは貧しい人よりも睡眠時間が長い――。お金持ちは貧しい人と比べて睡眠潜時(sleep latency)――入眠に要する(寝床に入ってから眠りにつくまでに要する)時間――が短く、そういう意味で睡眠の効率が良いのだ。

inv_fig2University of Chicago Magazineより転載

「お前はどうなんだ?」ですと? お金は持ってなくはないが、睡眠に関してはどうやら貧乏人に括られるようだ1

この話題に気付くきっかけをくれたロビン・ハンソン(Robin Hanson)に感謝。
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●Tyler Cowen, “Cultures of sleep, and which is the “most awake” nation?”(Marginal Revolution, May 11, 2009)


ここのところ(2009年5月現在)経済学ブログの界隈では「食事にかける時間が最も長い国はどこか?」という話題で盛り上がっているようだ。そのきっかけはOECD(経済協力開発機構)による余暇の過ごし方に関する調査(Society at a Glance 2009)にあるが、この調査では国ごとの睡眠の実態も対象となっている。この点についてウォール・ストリート・ジャーナル紙は次のように伝えている。

OECDが発表したばかりの生活習慣に関する調査の結果によると、OECD加盟国(のうち調査対象となった18ヶ国)の中で睡眠時間が最も長い国はフランスだということだ。

フランスの1日あたり平均睡眠時間は530分。2番目に睡眠時間が長い国はアメリカで1日あたりの平均睡眠時間は518分ということだ。それとは対照的に、睡眠時間が最も短い(「最も目が冴えている」)国は韓国で1日あたりの平均睡眠時間は469分という結果になっている2

同調査によると、OECD加盟国の中で最も社交的な国はトルコということになるようだ。また、ニュージーランドはスポーツが盛んな国というイメージを持たれているが、そのようなステレオタイプは間違いの可能性がある(同調査によると、ニュージーランド人はスポーツにそれほど時間を費やしてはいないことが明らかとなっている)。さらには、

10代の少女のうちで飲酒を複数回にわたって行った経験があると答えた割合が最も高かった国はイギリスであり、10代の若者のうちで喫煙を複数回にわたって行った経験があると答えた割合が最も高かった国はオーストリアという結果になっている。

10代の若者の飲酒の実態については詳しくは「危険行動」(“Risky Behavior”)の欄をご覧いただきたいが、この調査によるとアメリカの10代の少年は(OECD加盟国全体における)同年代の少年の中でもお酒とは最も無縁ということだ。

調査結果の簡潔な要約はこちらを参照されたい。

  1. 訳注;睡眠効率が悪い(=寝付きが悪い)という意味 []
  2. 訳注;日本人の1日あたり平均睡眠時間は470分で韓国の次に睡眠時間が短い国(18ヶ国中17位)という結果になっている。 []

ポール・クルーグマン「アルゼンチンのインフレの真相」

Paul Krugman, “The Truth About Inflation in Argentina,” Krugman & Co., November 20, 2014.
[“Inflation Truth, Really,” The Conscience of a Liberal, November 14, 2014.]


アルゼンチンのインフレの真相

by ポール・クルーグマン

Anibal Greco/The New York Times Syndicate

Anibal Greco/The New York Times Syndicate


先日,アルゼンチンに行ってきた.そのとき,MIT の「ビリオン・プライス・プロジェクト」の歴史についてアルゼンチンの人たちが知らないかもしれないことを話してみるといいんじゃないかって思った.
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ポール・クルーグマン「崩壊を待ちながら」

Paul Krugman, “Still Waiting for the Collapse,” Krugman & Co., November 20, 2014.
[“Rage of the Traders,” The Concience of a Liberal, November 13, 2014.]


崩壊を待ちながら

by ポール・クルーグマン

World Economic Forum/The New York Times Syndicate

World Economic Forum/The New York Times Syndicate

ぼくもバカな経済論にはずいぶんと慣れてるけど,それでもたまに,経済の卓見として出回ってる説の馬鹿さ加減がぼくの予想すら上回ってくれることがある.

政府統計にデッチアゲがあると確信してる「インフレの真実」論者の億万長者ポール・シンガーが,「イースト・ハンプトンの不動産をごらんなさい,ハイパーインフレーションが起きているではありませんか」なんてことを言ってたのは,さすがにウォール街だって恥ずかしい話だと思ってしらんぷりして済ますだろうと本気で予想してた.ところがどっこい.どうやらシンガー氏の投資家宛て書簡を,トレーダーや大物たちが熱心に回し読みしてるらしい.まるで,フォアグラのスライス以来の大事件みたいに.
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ジョナサン・ポルテス 「『ケインジアン』ってどういう意味?」

●Jonathan Portes, “Fiscal policy: What does ‘Keynesian’ mean?”(VOX, February 7, 2012)


「ケインジアン」という言葉には一体どのような意味が込められているのだろうか? 経済学のその他の用語と同様に、「ケインジアン」という言葉も政争の具とされている感を強く受ける。そのために政策論争が不毛なものとなり、その結果として何百万もの雇用がいたずらに失われる羽目になっているのだ。

少しばかり私自身の個人的な経歴に触れさせてもらうが、1987年にイギリスの大蔵省で職を得た後、私は経済学を学ぶために一時的にプリンストン大学の門を叩いた。そこではロゴフ(Kenneth Rogoff)やキャンベル(John Campbell)から教えを受けたが、その後は再びイギリスに戻り、2008年に金融危機が勃発した際には内閣府で首相に経済政策に関してアドバイスを送る立場にあった。これまでの歩みを振り返ると、この間に自分自身のことを「ケインジアン」と考えたことが一度もなかったことに気付く。そもそも「ケインジアンかどうか?」と問うこと自体意味がなかったのだ。それはあたかも物理学者に対して「あなたはニュートン主義者ですか?」と問うようなものだったのだ。ケインズは偉大な存在であり(20世紀のイギリスを代表する最も偉大な人物の一人であることは間違いない)、彼の洞察を理解せずしてマクロ経済学を理解することはできなかったのである。しかしながら、そのような状況にも徐々に変化の波が押し寄せることになったのであった。

2008年に金融危機が勃発する以前の時期を振り返ると、イギリスの大蔵省ではマクロ経済を管理する術を巡って次のような見解が広く支持されていた。財政政策は確かに重要ではあるが、総需要を管理する術として利用するのは――実践上の理由からして――賢明ではない。総需要を管理する術としては財政政策よりも金融政策の方が優れている。というのも、金融政策の方が小回りが利き、透明性が高く、政治的な圧力によって歪みが生じる恐れが小さいからだ。このような見解に対して理論的な後ろ盾を与えたのがナイジェル・ローソン(Nigel Lawson)が1984年に行ったかの有名なメイズ講演である。当の私自身もこの見解を全面的に支持していた。

しかしながら、金融危機を経た2008年以降の世界では事情は少々複雑になっている。というわけで、ここで問うことにしよう。「ケインジアン」という言葉には一体どういった意味が込められているのだろうか? その候補としてはいくつか考えられるだろう。 [Read more…]

ピーター・テミン&ダヴィッド・ヴァインズ「なぜケインズが今日大事なのか」

Peter Temin, David Vines ”Why Keynes is important today” (VOX, 14 November 2014)

ケインズ的刺激策に関する最近の議論は、ケインズが当初自らの理論を擁護した際に出くわしたものとよく似ている。本稿では、そうした当初の議論を解説するとともに、今日の政策議論をそうした文脈に照らし合わせる。現代ではリカードの等価定理や財政乗数がきちんと定義されているため、私たちは過去の人間よりもこの議論をうまく枠に当てはめることができる。著者たちは、短期経済の単純なモデルによって刺激策の論拠を実証できることを論じる。 [Read more…]