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Archives for 2月 2015

ミカエル・トルカノ「技術は教師に取って代わるのか?」

Micael Trucano”Will technology replace teachers? No, but …“(blogs.worldbank.org, 24 February, 2015)


framebreaking 未来では、機械は私に取って代わって私の代わりに別の機械を壊してくれるだろうか

これまで15年以上に渡って数十もの国における教育技術事業について、取組み、助言を行い、評価を行ってきた。情報コミュニケーション技術(ICT)に日常的に親しんでいる人ならば誰でも知っているように、技術分野で働いていると変化というものは常に起こっている。(それに対し、教育分野において変化は常に起こっているということは言えるにせよ、変化それ自体はよりゆっくりと訪れる・・・。)技術それ自身は頻繁に変化する場合がある一方で、そうした技術の導入や使用に関する非常にありふれた疑問の多くは大体が同じものだ。 [Read more…]

アレックス・タバロック「不可解知能の興隆」

[Alex Tabarrok “The Rise of Opaque Intelligence,” February 20, 2015]

ずっと昔のこと.ぼくはトロントで小包の集配をやっていた.ボスから小包 A → 小包 C → 小包 B の順で配達するように言われたけれど,A と B の方が近かったので,A→C→B の順では巡回ルートが長くなってしまう.ぼくが A→B→C の順にやったのを見つけたボスはご機嫌斜めだった.C の方が荷物がずっと早く届く必要があって,最適化すべき変数は距離だけじゃなかったからだ.そのときボスがどなりつけた言葉を(きっと不正確だろうけど)思い出す:

いいか小僧,おれァお前に考えさせるために給料出してんじゃねえんだ.おれがやれっつったことをやらせるために金だしてんだ.

相手の方がいい判断をしてるときにすら,ぼくにとって自分より他人の判断を優先するのはどうにもガマンならない(ぼくの妻に聞いてみるといい).だけど,いったん説明されてみたら,少なくとも,ボスの判断が理に適ってるってことを理解できた.ところが,自分の判断を抑えて人工知能の判断にしたがうよう求められることがますます増えてきている.これは,タイラーの『Average is Over』の主題だ.タイラーはこう述べている

なんらかのラッダイトが登場するだろう.「この手の新デバイスが,どいつもこいつもぼくにああしろこうしろと指図する――だが,たたき壊しちまえってんだ.ぼくは人間なんだ! 毎週パンを買っては3分の2を余らせて捨ててやるさ.」 なんらかのかたちで,疎外がおこるだろう.居心地のわるさを感じることだろう.手にする結果は改善されるだろうけれど,ユートピアのようには感じられないだろう.

これをちょっとちがったかたちで述べよう.問題は人工知能じゃなくて,不可解知性 [opaque intelligence] なんだ.いまや,あれこれのアルゴリズムはすごく洗練されていて,アルゴリズムがどうしてしかじかの指図をするのか,その理由がぼくら人間にはわからないほどになっている.『ウォールストリート・ジャーナル』の記事によれば,配送運転手たちはユナイテッド・パーセル・サービス UPS のスーパー・アルゴリズム「オリオン」を使って配送ルートを計画しているそうだ.

運転手たちのオリオンに対する反応は好悪・賛否が入り交じっている.一定の自律を手放したくない人たちやオリオンの論理に従わない人たちにとっては,いらだちのつのる経験になる場合がある.たとえば,午前中に近所に1件の配送をやっておいて,あとでまた別件の配送のために同じエリアに戻ってくるのがどうして理に適うのか理解しない運転手たちもいる.だが,オリオンはそうすることが割に合うのをよく見越せる.平均的な人間にはわからないわずかな時間と金額でみて得になるのを見越せるのだ.

身分を明かすのを拒んだある運転手は,こう語った――2014年中頃からオリオンを使っていますが,嫌いですね.だって,非論理的に思えるんですよ.

人間の運転手たちがオリオンの指示を非論理的だと思うのは,オリオンの超論理が彼らにはなっとくいかないからだ.おそらく,十分に発達した論理はアホと区別がつかないのだろう.

議論してくれたロビン・ハンソンに感謝.

アレックス・タバロック「学資ローンが少ないほど債務不履行率が高くなっている謎」

[Alex Tabarrok “Default Rates on Student Debt Increase with Lower Balances,” February 24, 2015]

ニューヨーク連邦準備銀行の「リバティ・ストリート・ブログ」に,驚愕のグラフが掲載されていた:

【2009年コゥホート:卒業・中退時の債務額ごとにみた債務不履行率】
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ここからわかるのは,学生ローンの債務不履行率は借入額が大きければ大きいほど小さくなるということ,言い換えれば,いちばん債務不履行になる率が高いのはいちばん借入額が小さかった学生たちだということだ.

これはぼくも予想外だけど,可能な説明はいくつかある.第一に,中退者は債務が少なくて所得も少ない.だが,債務は教育を受けた年数に比例して増加する一方で,所得はそんなに比例して伸びない.『イノベーション・ルネッサンス開始』で述べたように,2年で中退した学生たちの所得は,4年かけて卒業した学生たちの半分に満たない(卒業証書の効果だ).このため,中退した学生たちの40パーセントほどは,債務の増え方が所得の増加を上回ってしまい,それで債務不履行率が上がることになる.

所得対債務の比による説明の筋書きはありそうな話ではあるけれど,債務の少ない学生たちがこれほどまで債務不履行になっているのには驚く.「リバティ・ストリート・ブログ」の評論家レイモンドが,さらに仮説を示している:

私は大きな公立コミュニティ・カレッジで学資支援の仕事をしている.債務不履行者たちに関するデータを引き出してみたところ,60パーセントの学生が,補習コースから出発し,入学後の1学期か2学期にお金を借り入れていたのがわかった.データに含まれる人たち全員のうち,およそ80パーセントが2学期のあとまもなく学費支払いがとまっている――このため,借入額は少ないのだ.多くの人たちは,高校を卒業してそのまま大学に入った学生ではない.彼らは独立した成人だ.長年にわたって学資支援で学生たちと話してきた経験といまのことを合わせて考えて,1つの結論にたどりついた――学費支払いを中断してローンを求めている学生と面談して「それなら民間の学資ローンや他のローンもありますよ」と伝えると,99パーセントの場合に,相手の学生はこう言うのだ,「与信審査がよくないんです.」 わるい信用は,わるい学業成績と相関しているように思える.多くの学生は,学費の支払いよりも請求書の支払いを心配しているように見える.場合によっては,そうした学生は刑務所から出たてで雇ってくれるところがなかったりもする.彼らは,観察期間中に,働くか仕事をみつけるよう求められているが,就職は不可能に近い.また,債務で首が回らなくなっていて,学資ローンでどうにか時間稼ぎをしている人たちもいる.噂だが,信用がないがとにかく資金をどうにかして手に入れたいとなると,学費が安いコミュニティ・カレッジに行って,限度額まで借り入れるのだそうだ.データを見てみたら,高校卒業または一般教育修了検定合格から10年以上も経っている学生が大勢いるのに気づいた.債務不履行率を下げたければ――学費が安い大学の1学期や2学期に際だってたくさんの補修コースを履修している学生に貸し付けるのをやめることだ.

タイラー・コーエン「戦争は累進的所得課税を後押しする?」

[Tyler Cowen “Does war drive progressive income taxation?,” February 24, 2015]

ロバーツ・ヒッグス説の論拠がでてきた.ぼくの記憶が確かなら,これは,革命と累進課税についてトマ・ピケティが最近発言したことの論拠でもある(誰かリンクを知らないかな?).Juliana Londoño Vélez がこう述べている:

《アブストラクト》20世紀における累進所得課税は,民主制ではなく戦争に迫られての産物だったと本稿は論じる.OECD 諸国の大規模サンプルで限界個人所得税率を長期で追いかける一方,《戦争の諸相関》[Correlates of War] データセットおよび Scheve & Stasavage (2012) から大衆動員戦争と民主制に関するデータを利用して,この仮説を検証した.検証結果からは,大衆動員戦争(i.e. 人口の 2% 以上が軍事関係に従事した戦争)によって,課税が大幅に累進的になったことが示唆される.こうした効果は,戦争終結によって消失せずに持続している.

論文の全文はこちら (pdf).興味深い文献がそろっているバークレー経済史ラボ・リストの1本でバリー・アイケングリーンが引用している.バリーが述べているように,マルサスの罠に関して Lemin Wu が書いた論文の大幅改善版も参照のこと (pdf).

タイラー・コーエン「ベンガル大飢饉の原因」

Tyler Cowen”The causes of the Bengal famine” (Marginal Revolution, February 17, 2015)

1943年のベンガル大飢饉は、アマルティア・センをはじめとする人々によって市場の失敗の典型例1 として引用されてきた。でもその新たな(そして素晴らしい)著書「死者を食べるというのは誤り‐飢饉の過去と未来に関する小論集(Eating Dead People is Wrong, and Other Essays on Famine, Its Past, and Its Future ※未邦訳)」において、コルマック・オグラダはこのベンガル大飢饉にまるまる一章を割き、そのような見方とは違った印象を与えてくれる。その要旨を示す箇所を引用しよう。

欲望とパニックによって生まれた投機が、主食である米の「人工的な」不足を作り出したという「エンタイトルメント飢饉2 」として、1943~44年の飢饉はパラダイムとなった。この章において私は、前述した意味における投機ではなく、戦争への注力を食料へと向けるための政治的意思の欠如が飢饉の主な原因であったことを述べてきた。

私としては、飢饉が進行した際に価格統制が導入されたこと、貯蔵業者に対するネガティブキャンペーンが行われたことも付け加えたい。

この本の中では、かなり多くの人肉食が起きたとされる1946~47年のモルドバでの飢饉に関する議論もものすごく面白かった。

  1. 訳注:大規模な飢饉に至るほどではない食料生産の落ち込みがあった際、食料不足や食料価格の高騰を見込んだ買占めが発生することによって、結果として飢饉が発生してしまうという意。 []
  2. 訳注:アマルティア・センは著書「貧困と飢饉」の中で、得るはずのものを得るための力(エンタイトルメント)のどこかに欠陥が生じることで飢饉が生じるとしている。 []

タイラー・コーエン「ギリシャはユーロ圏を本当に離脱するか」

Tyler Cowen “Is Greece really going to leave the eurozone?” (Marginal Revolution, February 17, 2015)

誰にもわからないね。最新のヘッドラインやツイートへの反応が過剰すぎるのかどうかも。様々な政党がバラバラになればなるほど、譲歩を迫る圧力は強くなる。合意が近いように見える分だけ、強硬な態度を取って更なる譲歩を要求するインセンティブは大きくなる。だから短期的なニュースは解釈が難しく、そうしたものに執着してはだめだ。ある方向への振れは、かなり多くの場合逆方向への振れを意味している。たとえ後者はまだヘッドラインになっていなくてもだ。つまり最新のニュースによる振れの方向は、そんなに多くの情報はもたらしてくれない。

ギリシャがどうなるかについては、よく言うところの「最後の鐘」が鳴る、すなわちギリシャから預金が危機的な速度で逃げ出す(逃げ出さないかもしれない)か、ECBが緊急流動性支援を打ち切る(打ち切らないかもしれない)までは分からないだろう。

だったらなぜ、ギリシャがユーロ圏を離脱すると私は考えているのか[Read more…]

メンジー・チン「教科書へ立ち戻って金融政策の有効性を考える」

Menzie Chinn “Thinking about Monetary Policy Efficacy: Back to the Textbooks“(Econbrowser, January 31, 2008)

(訳者注;本記事の原文は2008年1月31日に投稿されたものです。足元の情勢に関する記述は原文執筆時点における原著者の意見であることをあらかじめご承知おき下さい。)


FEDが金利を下げたこともあり、金融政策が産出に影響を与えるあらゆる経路を洗い出し、今の状況ですぐに効きそうなのはそのうちどれなのかを整理しているところだ。

ポール・クルーグマンは、住宅のストックがファンダメンタルから乖離している際には金利の変更は効果がない可能性があると見ている。ロバート・ライシュは、マネーベースの上昇に対応して貸出を拡大するには銀行の資産ポートフォリオはリスクを抱え過ぎていると述べている。トーマス・パレーは、契約の硬直性(変動金利型住宅ローンの金利見直し期間)が金利変更の効果を減少させるとしている。もう一つ別の線の主張は次の問いに要約できる。すなわち、ドットコム・ブームと住宅ブームの後、金融政策が影響を及ぼすことの出来る分野は何だろうかというものだ。

全てそれなりに妥当なところのある数々の異なる主張に出くわす際、私は典型的な教師が行うことを行う。教科書を手に取るのだ。具体的には、ミシュキンの教科書の第23章の図31 の助けを求める。 [Read more…]

  1. 訳注:原文に挿入されている図よりも解像度の良いもの(hicksianさん提供)に差し替えた。 []

タイラー・コーエン「なぜヨーロッパと日本ではデフレが続いているのか」

Tyler Cowen “Why is deflation continuing in Europe and Japan?“(Marginal Revolution, January 22, 2015)

次に引用するのは日本からのニュースだ。

ブルームバーグ・ニュースが行ったエコノミストへの調査によれば、日本銀行が2パーセントのインフレ目標を設定して4年後、物価は依然としてそれに満たない可能性がある。

16個の推計の中央値が示すところでは、消費者物価は2017年3月期の会計年度において平均1.4パーセント上昇し、生鮮食品と消費税による押上げを除けばインフレ目標が設定されてから2017年3月期まで2パーセントに達する年はない。黒田東彦総裁が2013年4月にその記録に残る刺激策を表明した際、彼は約2年以内に目標を達成したいと考えていた。

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