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ナウロ・F. カンポス, マーティン・ガセブナー 「国際テロリズムとエスカレーション効果」 (2009年4月7日)

Nauro F. Campos, Martin Gassebner, “International terrorism and the escalation effect” (VOX, 07 April 2009)


通説ではテロリズムは収入や民主主義の欠乏に由来するものと説明される。本稿では、政情不安 [訳注: political instability] の方が国際テロリズムの予測変数としてより優れたものである事、また内戦 [civil war] およびゲリラ戦 [guerrilla warfare] は、テロリストがテロ行為を実行する際に必要となる人員および技能を集積する為の訓練場を提供してしまう事、これらの点を主張する。政治的暴力の減縮はそれに続くテロリズムの減縮をもたらす可能性が有る。

何が国際テロリズムの駆動力となっているのか? 一体何が、長年に亘り諸国を横断する形でテロ組織の行動に影響を及ぼしている根深い要因なのか? どの様な説を以てすれば、1980年代以来の国際テロ行為 『件数』 の減少と、その種の行為がもたらしている平均 『死亡者数』 の増加を同時に説明し得るのか? こういった重要政策問題を扱った文献はあまた在るが (また9/11以降、指数関数的な増加をみせているが)、実証研究に基く既存の推定値は依然として、その大小・正負符号 [sign] ・有意性の点で四分五裂の状態にある (現状把握には、諸文献の中でも特にKrueger, 2007, やLlusa Tavares, 2008を参照されたい)。

 

図1. アメリカ州 [Americas] における国際テロ事件およびそのが死亡者の (国当たりの) 平均数

図2. 欧州における国際テロ事件およびその死亡者の (国当たりの) 平均数

有力な説明因子としては次の2つが最も注目されてきた – 貧困と民主主義がこれである。1つの可能性として、極端な貧困が人を自暴自棄のテロ行為へと駆り立ている場合が考えられる。低次の経済発展状況が即ち職業機会の減少となり、テロ行為という選択肢の誘惑を増している事も考え得るだろう。民主主義についての洞察も、政治的機会の欠乏がテロリズムという選択肢の誘惑を増し、一定限度ではあるが、正当化可能なものにし得るという趣旨である点で、類似している。こういった問題に関して、実証研究に基く文献は未だ結論を出すまでに至っていない。一人当たりGDPが国際テロリズムの重要な決定因子である旨を示す種々の論文が在る一方で (例えばBlombergら, 2004)、その反対を主張するものも在る (例えばKruegerとMaleckova, 2003)。民主主義についても同様で、Abadie (2006) の伝えるところによれば、政治的権利が専らテロリズムを説明するものとなるのだが、Tavares (2004) の主張はそれと異なる。

CamposとGassebner (2009)で我々は、国際テロリズムの有力な説明因子新たに1つ提示しているが、これは実証的文献の中でこれまでほとんど注目されてこなかった。我々はこれを 『エスカレーション効果』 と呼んでいる。これは、国内の政情不安が国際テロ攻撃の深層に在る要因である (国際テロにまでエスカレートしている) との考えを反映するものである。我々の推定値は、国内の暴力的な政情不安の勃発は国際テロ攻撃を概そ30%、その種の攻撃に因る死亡者数を約50%も増加させている事を明らかにしている。

政情不安と国際テロリズム

我々の研究は、国際テロリズムの様々な側面を把捉しつつ、130を超える発展途上国および先進国を1968年から2003年までの期間対象にした、独自の年度毎データセットに基いている。主要な発見となったのは、内戦とゲリラ戦が国際テロリズムの勃発と頑健に [robustly] 関連している一方で、暴動 [riots] と罷業 [strikes] はそうではなく、またこの関連性が死亡者数に関して攻撃数よりも強く見られた事である。さらに、一人当たりGDP・貿易の開放性・外国の支援の要素が、国際テロリズムを説明する上で、画一的な重要性をもつものでは無い事も見出されている。それとは対照的に、合衆国に対する政治的な近接性はどうやら国際テロリズムを醸成する様である。この場合近似性とは、国連総会で合衆国の投票と同調する投票の割合に依って計測されたものである。

我々は他にも地域横断的に見られる極めて重要な差異を発見している。すなわち、アジア地域では内戦と暴動が国際テロ行為の主要な説明因子となっている一方で、アメリカ州地域ではゲリラ戦がそれに当たり、中東では内戦とゲリラ戦の組み合わせが国際テロ行為を引き起こしている。欧州については、国内政情不安が取るこういった暴力的形態の何れもテロ行為の勃発とは関連していない事が分かった。とはいえ、欧州における政治体制の存続時間が国際テロ行為の勃発と負の関連性を有する事については相当な実証成果が存在する。

エスカレーション効果はどの様なメカニズムで機能しているのだろうか? こういった入り組んだメカニズムを解きほぐしてゆく事の難しさは良く知られているが、我々は、同効果を引き起こしている主要メカニズムが、実戦学習 [learning-by-doing] およびテロリストとしての人的資本の集積過程と関わるものであると予想している。テロ行為は教育と、高度に洗練されたトレーニングの過程を必要とするのである。政治的に不安定な国々はそれにうってつけの環境を提供する。テロリストグループの人的資本方針が、教育程度の高い者あるいは収入の高い者を優遇している事、この点はこれまでにも正しく指摘されてきた。それと関連性をもちながら注目される事の少なかったのが、テロリズムが特定の人的資本を必要としており、また獲得・維持にコストの嵩む種々の技能を複雑に取り入れを行っているという側面である。付け加えるに、国内政情不安の或る種の形態 (例えばゲリラ戦や内戦) は、テロ行為実行に必要となる軍事・戦術・組織形成の技能の研鑽の場を提供する一方で、その他の形態 (反政府運動や罷業) が同種の技能あるいは同程度の技能の向上をもたらすものとは考え難い。

政治的暴力の削減を通してのテロリズムとの闘争

結論として、ゲリラ戦や内戦の封じ込め [containment] はそれ自体が褒むべき事業であるだけに尽きないのかも知れないといえる。国際共同体は、この様な封じ込めが価値ある外部性をもたらし得るものである事実にも注意すべきだろう。具体的にいえば、世界で起きている政治的暴力を封じ込める為に協力して取り組めば、国際テロリズムの勃発とその深刻度をかなりの程度縮減できるかも知れないのだ。

参考文献

Abadie, A. (2006), “Poverty, Political Freedom, and the Roots of Terrorism,” American Economic Review, 96(2): 50-56.
Blomberg, B., Hess, G.D. and A. Weerapana (2004), “Economic Conditions and Terrorism,” European Journal of Political Economy 20(2): 463-478.
Campos, Nauro and Martin Gassebner (2009), “International Terrorism, Political Instability and The Escalation Effect,” CEPR DP 7226.
Krueger, Alan (2007) What Makes a Terrorist: Economics and the Roots of Terrorism, Princeton: Princeton University Press.
Krueger, A.B. and J. Maleckova (2003), “Education, Poverty and Terrorism: Is there a Casual Connection?Journal of Economic Perspectives, 17(4): 119-144.
Llussá, Fernanda and Jose Tavares (2008), “Economics and Terrorism: What We Know, What We Should Know, and the Data We Need,” in P. Keefer and N. Loyaza (eds), Terrorism, Economic Development, and Political Openness, Cambridge University Press, 233-254.
Tavares, J. (2004), “The Open Society Assesses its Enemies: Shocks, Disasters and Terrorist Attacks,” Journal of Monetary Economics, 51(5): 1039-1070

 

マーク・ソーマ 「現代労働経済学と最低賃金」(2006年12月10日)

●Mark Thoma, “Smart Ph.D. Economists and the Minimum Wage”(Economist’s View, December 10, 2006)


ダンカン・ブラック(Duncan Black)が労働市場における買い手独占をテーマに取り上げている。

最低賃金の話題が取り沙汰されている昨今だが、経済学の入門レベルの知識を動員して最低賃金の是非を論じるコメントがあちこちで聞かれるようである。曰く、現実の労働市場は完全競争モデルがそっくりそのまま当てはまるような市場ではないと信じるに足る場合には、最低賃金が引き上げられたとしても必ずしも雇用量が減るとは限らない可能性があるばかりか、最低賃金の引き上げ幅が小幅にとどまる限りは(最低賃金が引き上げられる結果として)雇用量が増える可能性すらある、というのだ。換言すると、雇い主たる(労働サービスの買い手である)企業が労働市場で価格支配力を持っている(現実の労働市場は買い手独占的な状況に置かれている)と信じるに足る理由が多分にある場合には、最低賃金の小幅な引き上げは雇用量の増加という何とも「パラドキシカルな(逆説的な)」帰結をもたらすか、あるいは収支はトントンとなる可能性があるというわけだ。・・・(略)・・・

特に次の文章を目にした時には誘いを掛けられているような気がしたものだ。

今後再び心を動かされる機会があるようであれば、その時は経済学の博士号を持つ優秀な人物でも得心がいくように1買い手独占モデルについて入門レベルの解説を試みたいと思っている(残念ながら買い手独占モデルは経済学の入門講座で必ずカバーされているトピックとは限らないわけだが)。

エントリーを読み終えるや「よし。私も何か応答しなければ」と筆を執りかけたわけだが、Angry Bearブログの執筆者の一人であるPGLに先を越されてしまっていたようだ。さらには、切れ者の経済学博士であるデビッド・アルティグ(David Altig)がPGLのコメントに触発されるかたちで最低賃金の話題について言うべきことを巧みにまとめている(“Modern Labor Economics And The Minimum Wage”)。少々長くなるが以下にアルティグの文章を引用することにしよう。 [Read more…]

  1. 訳注;ブラックのこのエントリーはPGLのエントリーに応答するかたちで書かれたものだが、PGLのエントリーでは最低賃金が引き上げられると雇用量が減ると当然視しているかのような経済学者(経済学博士号取得者)のコメントが紹介されている。経済学の博士号を持っていれば簡単に理解できるはずのモデル(買い手独占モデル)によると必ずしもそういう結論にはならないのに・・・と揶揄する意味で「経済学の博士号を持つ優秀な人物でも得心がいくように」との表現を用いているのであろう。 []

マーク・ソーマ 「『ポール・クルーグマン: 医療制度改革は死んでない!』」 (2015年11月23日)

Mark Thoma, Paul Krugman: Health Reform Lives!, (Economist’s View, November 23, 2015)


最近の 「医療制度改革に関する良くない、少なくともいまいちパッとしないニュース」 の為にオバマケアが頓挫する事はないだろう:

医療制度改革は死んでない!, ポール・クルーグマンの論説 (ニューヨークタイムズ): 右翼陣営には残念なこととなったが、種々の脅し作戦も -『死の審議会』 の件をまだご記憶だろうか?- またでっち上げの法律問題も、ついに我が国を医療保険の保証適用範囲 [訳注: guaranteed health coverage] がもたらす厄災から守る事能わなかった。しかしオバマケア反対者は依然として、これがいずれ低い保険加入者数と高まるコストが織り成す『死のスパイラル』に陥ると主張し続けている。

しかしながら、同法律の最初の2年間は頗る好調だった。保険に加入していないアメリカ人の数は激減した…そしてコストの方も予想よりかなり少なく済んでいる。…

以上の点に言及したのは全て、嬉しい驚きが続く中で合間合間の小休止となった最近の情勢について、一定の見通しを紹介する為だ。確かにこの頃オバマケアは幾つかの難局を迎えた。だがそれは諸般の報道、ましてや右翼陣営がその反動を以てあなたに信じ込ませようとしているほど深刻なものでは全く無い。医療制度改革は依然として大躍進を続けているのだ。…

第一に、来年には保険料 [premiums] が値上げとなる見込みだが、これは自らのリスク・プールが幾分不健全 [somewhat sicker] になっている事、したがって予想していたところより高くつく事に諸々の保険会社がその気付き始めた為だ。州単位ではかなりの差が在るが、平均増額はおよそ11%分となろう。まあ少しがっかりといったところだが、大ショックという程ではない。これまでの2年間の好報と、長期的にみると保険料には毎年5%から10%上昇する傾向が有る点を併せて考えればそういう結論になるだろう。

第二に、低価格保険プランの購入に踏み切った一部のアメリカ人は、高額の年間自己負担額 [deductibles] のせいで嬉しくない驚きを被る事となった。実際これは問題だが、誇張は避けるべきである。許諾されている全ての保険プランが自己負担額無しの予防サービスをカバーしているし、また多くのプランではその他の医療サービスもカバーされている。それだけでなく、低収入世帯には追加的な財政援助が利用可能となっている… こういった緩和的要素の事を知らない人もいるかも知れない…が、徐々に周知のものとなってゆくだろう。…

ああ、他にも公式の予想によれば、こういった医療保険取引所 [exchanges] で保険に加入する人はこれまでの予測より少なくなる事が見込まれるという。しかしその理由は主として、保険適用範囲を削減した雇用者が驚くほど少なかった点にあった。つまり、全体的にみた、保険未加入のアメリカ人の数についての予想はまだまだかなり良好なのだ。

となると、いま我々はどういう状況に置かれているのだろうか? オバマケアの予想だにしない好報ラッシュに終わりが来たのは疑いない。かような大躍進が何時までも続かないのは当然なのだ。…道すがらの二三の失策も避けようのないものだ。

だがしかし、我々はここにあの『死のスパイラル』 の始まりを見出すのだろうか? そう言う人も一部には居るが、私の見る限りこの人達は、オバマケアが一歩踏み出すたびに破滅を予言し続けてきた様である。…

現実を直視しよう。オバマケアは不完全な制度である。しかしそれは機能しうる制度であり – 現に機能しているのだ。

マーク・ソーマ 「『合衆国刑務所の中の薬物違反者』」 (2015年11月25日)

Mark Thoma, ‘Drug Offenders in American Prisons, (Economist’s View, November 25, 2015)


ブルクッリン研究所のジョナサン・ロスウェル (Jonathan Rothwell) の論考:

アメリカ刑務所にみられる薬物違反者: ストック/フローの区別は極めて重要: 刑務所における大量収容が合衆国にとって大きな問題となっているという認識を二大政党が共有している事は、いまや広く知れ亘っている。二大政党間共有の認識である。収監率および収監強度 [訳注: rates and levels of imprisonment] は諸々の世帯やコミュニティに破壊的影響を及ぼしており、また機会格差の拡大にもつながっている – 後者は、人種的見地からみると特に顕著である。

しかし、こういった状況がどの程度薬物違反を理由とする収監のせいで生じているのかについて、目下議論は錯綜を極めている。法学者のMichelle Alexanderがその説得力に満ち、また強い影響力をもつ事ともなった批評を公開したのは…2012年だが、彼はその中で薬物撲滅戦争が比例性も公平性を欠く遣り方でアフリカ系アメリカ人を害してきた実態を示した。

近年の学問的成果からAlexanderの主張に対する反論が提出されている…が、しかしながら標準的な分析手法は – Alexanderの批評も含め – 薬物犯罪関連収容のストック/フローを区別してこなかったのである。…

状況は明白である: 薬物犯罪こそ、ここ数十年の間に為された州刑務所および連邦刑務所への新規収容に関する主だった理由であった。

 

 

Pfaffは別の著作の中で、区検 [local prosecutor] が罪質如何に無頓着せず犯罪に直面した際にみせる攻撃的態度が、この大量収容問題の渦中で見過ごされている要素であると考える理由を提示している。

概していえば、破綻した薬物撲滅戦争の効果は破滅的であり、特に黒人アメリカ人にとってこの傾向が顕著である事は明白である。以前の論稿で示したように、薬物を使用・販売する傾向が白人より幾らかでも高いわけでもないのに、黒人が薬物犯罪の為に逮捕される傾向はその3倍から4倍にもなる。さらに深刻な事に、黒人が一度の薬物違反を理由に州刑務所に収容される傾向はおよそその9倍に至る。…

警察活動・訴追・判決形成・刑事司法・刑務所収容といった事柄に対する種々のアプローチの危険な組み合わせは、納税者にとってはコストの増加となり、直接影響を受ける個人にとっては機会の減少となり、そして人種の平等を願う者にとっても深刻な障害となっているのである。

 

 

マーク・ソーマ 「『失業手当の銀裏地』」 (2015日11月14日)

Mark Thoma, ‘The Silver Lining of Unemployment Benefit, (Economist’s View, November 14, 2015)


「失業手当を潤沢にすると働かない人が増加する? Ioana Marinescuが素晴らしい発見を伝える。すなわち潤沢な失業手当は、労働市場の過競争をリラックスさせる事で、人びとと希少な働き口とを引き合わせる手助けをしてくれるというのだ」


訳註: 元記事は、Ioana Marinescu氏が自らの学説を簡単に紹介する動画を合わせた構成となっている。自己紹介等の後の動画1:30秒辺りから 『銀裏地』 効果について直接の解説が始まるので、その部分を抜粋し原文と合わせて試訳を公開した。誤りがあればコメント・メール等で指摘して頂きたい。

 

[1:30-]… The basic concern with unemployment benefits is that more generous you make unemployment benefits, the less people search, which leads to higher unemployment, and that’s been documented again and again. So this is a very well-known fact in the literature.

…そもそも失業手当に関して気掛かりなのが、失業手当を潤沢にすればするほど、働く人が少なくなり、さらに高い失業率につながってしまうという点ですが、この点は既に繰り返し実証されてきたところでもあり、関連文献の中では周知の事実となっています。

 

[1:46-] However, what I show is “SILVER LINING,” namely that even though when you increase the duration of unemployment benefits, people search less, this also means there is less competition for jobs. So they are sending fewer applications, but each one of these applications […] has higher chance of succeeding, which means the fact of unemployment is not as bad as you might think at first blush.

ですがここで紹介する『銀裏地』、これは何かといいますと、失業手当の給付期間を引き伸ばすと人びとは以前ほど求職活動に励まなくなるとしても、それは同時に求職競争の穏健化を意味するのだとの趣旨をいうものなのです。つまり人びとが以前ほど職に応募しなくなっていても、その応募の各々には以前よりも大きな成功のチャンスが有る訳で、失業も実は第一印象ほどひどいものでは無いと、そういう事になります。

 

[2:16-] If you take prior research, you would think that increasing the duration of unemployment benefits by 10 percent is going to increase aggregate unemployment by 1 percent. But after you take into account my SILVER LINING effect, instead of having unemployment increased by 1 percent, it increased […] by only by 0.6 percent. So what very important here is that my SILVER LINING effect reduces the impact of unemployment insurance on unemployment by 40 percent. So basically the impact of unemployment insurance on unemployment is 40 percent lower than you would have thought if you didn’t take into account the SILVER LINING effect that I documented in my research.

既存の研究をご覧になった方は、失業手当の給付期間を10%引き延ばせば失業率全体は1%上昇するのだろうとお考えになるかも知れません。しかしこの 『銀裏地効果』 を考慮に入れると、失業率の上昇は1%ではなく、0.6%のみになります。ここでとても重要なのは、この 『銀裏地』 効果に因って、失業保険が失業率に及ぼす影響を40%も軽減されている点です。ですから、失業保険が失業率に及ぼす影響は、この銀裏地効果を考慮しない時と比べて実は40%も低いのです。そして正にこの銀裏地効果こそ私の研究が実証したものなのです。

 

[2:54-] The U.S policy is already designed in such a way that the duration of unemployment benefits goes up when we have higher higher unemployment. Is this a good idea? Well, my result showed that “Yes, it is a good idea.” And why? Because when we have a recession, basically the competition for jobs tend to be too high. There is too many job-seekers chasing too few jobs. So if unemployment benefits make them calm down a little bit, this reduces the competition for jobs, it’s a good thing. Conversely during, you know, boom times, there is not enough job-seekers looking for jobs and firms are desperate to hire. So having a less generous unemployment benefits at that time is actually beneficial.

合衆国の関連政策は既に、失業率が高い時に失業手当の給付期間を長くするという具合に設計されていますが、これは良いアイデアなのでしょうか? 私の研究によればその答えは 「イエス、イッツアグッドアイデア」 となります。しかしその理由は何でしょうか? こういう事です: 詰まる所、不況時には求職活動の競争は過激化する傾向があり、あまりに多い求職者がこれまたあまりに少ない職を求め奔走している訳ですね。そこでもし失業手当が求職者を少し落ち着かせてくれて、それで求職競争の熱気を静まってくるなら、これは良い事でしょう。反対に好景気の時には、御存じの通り求職者の数が不足しますので、企業側は働き手を確保しようと必至です。そんな時には以前ほど潤沢でない失業手当を採用する方がかえって有益なのです。

 

[3:34-end] So in a nutshell, what my results say is that they vindicate the institution of unemployment insurance in the U.S, which tends to be more generous during recessions than during boom.

要するに、私の研究成果は、不況時に好景気の時より潤沢になる傾向のある合衆国の失業手当制度の正しさを立証するものなのです。

 

 

 

マーク・ソーマ 「『地域経済の低迷をみた労働者が労働市場から離脱するに至る構造』」 (2015年11月19日)

Mark Thoma,  ‘How Workers Exit the Labor Market after Local Economic Downturns, (Economist’s View, November 19, 2015)


本研究の主眼は景気後退が労働市場参加率に及ぼす影響の形に置かれているが、他にも私が最新の論稿で提示した、(キャリアアップという意味での) 労働者の流動性は 『落ち込む経済的見通し』 の為に下落しているという主張を後押しにするものにもなっている:

地域経済の低迷をみた労働者が労働市場から離脱するに至る構造: 近年みられた 『大不況 (the Great Recession)』 によって白日の下に晒された事柄を目の当たりにし、我々は大規模な経済的低迷が様々な形を取って労働者に直接の影響を及ぼすその形態について日々新たに学ぶ事が絶えない状況だ。本稿で実証を試みるのは、 既に 『大不況』 の際には以前ほど顕著でなくなっていたにせよ、負の需要ショック [訳注: adverse demand shock] が起きると、それを追う様にして諸個人は、専ら移住という手段に拠って、地域の労働市場から離脱するという事実である。落ち込む経済的見通しを前に、目下労働者はますます行動を控えようとする公算が高く、したがって労働市場への再参入も望み難い。我々の研究は、負の労働需要ショックに続いて市場非参入現象が増加する事を実証するものであるが、さらにこの現象がより広い経済に対し如何なる影響をもつものなのかを解明する為のいっそうの取り組みが求められる。というのも、特に非参入が求職者の賃金ならびに雇用見込に及ぼす影響、或いは労働市場からの離脱が労働者の人的資本に及ぼす長期的影響については、未だ殆ど研究が為されていないのである。

マーク・ソーマ 「『福祉政策は貧困層を堕落させるという俗説』」 (2015年10月20日)

Mark Thoma, The Myth of Welfare’s Corrupting Influence on the Poor’, (Economist’s View, October 20, 2015)


福祉政策は貧困層を堕落させるものであるという俗説

福祉政策が人間の行動に与える影響についての誤解を解こうというEduardo Porterの試み:

福祉政策は貧困層を堕落させるものであるという俗説: … これ程まで深く、アメリカ国民一般のイマジネーションに根付いた観念は、この、貧しい人々に対する政府援助が不品行を助長するだけであるという確信を措いて他にそうは無いだろう。

本命題は特に保守陣営側から愛好されている… しかしニューディール政策の父であるあのフランクリン・デラノ・ルーズベルトでさえ福祉政策を 「一種催眠的な、隠微な、人間精神の破壊者」 と曾て呼んだ事があった。また 「我々の知る様な福祉政策」 に終止符を打ったのも、民主党員である、ビル・クリントン大統領その人だった。…

しかしながら、この見解の抱える誤謬は、看過し得る限度を超えている。世界随一の富裕国を初め、世界中の諸最貧困地帯に至るまで、各地での実際の経験が示唆しているのは、貧困層にとって金銭補助が極めて大きな助力と成り得るものである事だ。そしてこういった人々を、曾てロナルド・レーガン大統領が印象的に命名したところの 『依存という蜘蛛の巣』 – これは、貧困層をして泳ぐか沈むかの選択を強いるものとしても知られているのだが – から解き放っても、それで以て万事足れりとはいかないのである。…

先週Abhijit Banerjee教授が … 3人の同僚と共同で発表した論文では、メキシコ、モロッコ、ホンジュラス、ニカラグア、フィリピン及びインドネシアで実施された7つの現金給付プログラムの効果が仔細に評価査定されている。本論文によれば、「現金給付システムが労働を阻害する旨を示す画一的な検証結果は一切」 発見できなかったという。…

それにもかかわらずBanerjee教授は、多くの国で 「我々が遭遇したのは、施しは人を怠惰にするという観念でした」 との観察を述べる事になった。

Banerjee教授は、世界中に広まっている福祉政策嫌悪の傾向は、実はアメリカ産の既製品の受け売りに過ぎないかも知れないと示唆する。「多くの政府が、合衆国の学位を保持した経済問題に関する助言者を抱えているが、こういった人員はまた同一のイデオロギーを共有する者でもあります」 と教授は云う。「イデオロギーというものは、事実よりもずっと広まっているのです」 。

当惑の念を禁じ得ない最たる理由は、合衆国が自ら経験したところである福祉政策とその 『改革』 が、実際のところ、福祉政策に突き付けられている罪状をまともに立証していない点に在る。…

マーク・ソーマ 「雇用創出政策の核心部分が顧みられていない」 (2015年11月17日)

Mark Thoma, An Essential Part of Job Creation Policy is Missing, (Economist’s View, November 17, 2015)


私の最新の論稿:

雇用創出政策の核心部分が顧みられていない: 両政党の大統領候補者は労働者階級の苦境に焦点を合わせている。正しい選択である。格差は広がり続け、職を得るのも依然として難しい。職が見つかる時にしても、それは低賃金でしかも福祉手当の給付は仮にあっても甚だ貧弱なものに留まる傾向がみられる。グローバリゼーションとデジタル技術のせいで生活の安定が極めて乏しい現状に加え、労働者には適切な社会保険を頼りに失業の高いコストから身を守る事も出来ない。

その一方、職を有する者の賃金にも行き詰まりがみられるなかで、児童保育・健康管理・住宅供給・公共事業・大学・輸送・保険・食・レクリエーション (4人家族で映画を見に行くたったそれだけの為に、最低賃金では一体何時間労働する必要があるだろうか?) 等々に掛かる費用は上昇の一途を辿っており、多くの世帯で家計の帳尻を合わせる事がいよいよ困難になってきている。

そこで大統領候補者らは、まともな賃金を支払う職を創出する為に取り組むべきは何かという点に焦点を合わせたのだった。しかし彼ら候補者その他が目下繰り広げている討論は、雇用創出のもつ或る重要な側面を考慮していない。…

 

マーク・ソーマ 「『労働者はいま何処?』」 (2015年11月17日)

Mark Thoma, ‘Where Have all the Workers Gone?’, (Economist’s View, November 17, 2015)


何故かくも多くの労働者が労働人口の一員である事を止めてしまったのだろうか?:

労働者はいま何処?, : ブルッキングス研究所イザベルV. ソーヒル (Isabel V. Sawhill, Brookings):  労働の主要な担い手たる年齢層に属する、特に男性の労働者の雇用率は、ここ数十年の間に急落した。さらに 『大不況 (the Great Recession)』 がこの事態を悪化させた。最近みられた失業率の低下は、こういった労働者の一定部分を再び活動的労働力へと連れ戻したが、長期的視点からいえば現状は依然として見る者を落胆させるものである。試みに合衆国をその他の先進国と比較すれば、労働適齢期にある成人が目下担っている労働が、欧州各国の大半で成人が担っているそれに満たない事は、火を見るよりも明らかだ。

我が国に一体何が起きているのか? 私の同僚のゲイリー・バートレス (Gary Burtless) も述べているが、恐らくこれには3つの事態の進展が関与している。第一に、高卒男性に対する実質賃金が1980年以来28%も低下した事が挙げられるが、これは労働の魅力を減じつつも、その一方で、雇用者が求めているのは高度な技能を備えた人材である旨をそれとなく知らせるものでもある。第二に、就業不能登録者数 [訳注: disability rolls] が増加してきた事が挙げられる (その主因となっているのは、筋肉・骨格に関する問題、およびメンタルヘルス問題である)。就業不能給付の受領者となるまでには長く複雑な手続きが在るが、その手当は低技能労働者が自ら働く事で得られる収入と比べれば十分に魅力的なものであって、労働人口への再加入とは反対向きのインセンティブとなっている。第三に、今や女性が労働市場の半分を構成するようになって、男性を労働に向かわせる圧力が弱まってきた事が挙げられる。

目下のところ、近年みられた雇用の急激な減少のうち、どの程度が需要薄と関連し、どの程度がこういった長期的要素と関連しているのかを見分けるのは困難であると言わざるを得ない。…

 

マーク・ソーマ 「買い手独占的な労働市場における最低賃金引き上げの効果」(2013年2月18日)

●Mark Thoma, “The Minimum Wage and Employment when Employers Have Market Power”(Economist’s View, February 18, 2013)


まずはリチャード・グリーン(Richard Green)のコメントからご覧いただこう。

Where’s the monopsony?” by Richard Green:オバマ大統領ポール・クルーグマン、そしてロバート・ライシュがこぞって最低賃金の引き上げを求めている。私も彼らに賛同したいと考えているわけだが、それというのもクルーグマンが正しくも指摘しているように最低賃金の引き上げが総雇用に及ぼす影響は取るに足らないことが実証的な証拠の圧倒的多数(pdf)によって示されているからである。

しかしここで疑問が持ち上がる。なぜそのような結果になっているのだろうか? クルーグマンが語っているように生身の人間はマンハッタンにある賃貸アパートとは違っており、それゆえ家賃統制には懐疑的でありながら最低賃金(の引き上げ)は支持するという立場は矛盾しないというのは確かにその通りである。しかしながら、法律で賃金に下限額(最低賃金)を課す結果として労働の超過供給(失業)が生まれてもおかしくはないはずなのにどうしてそうならないのかを説明するためには「生身の人間はマンハッタンにある賃貸アパートとは違う」と指摘するだけでは十分とは言えないだろう。

ある一定の状況の下では最低賃金が引き上げられる結果として雇用が増える可能性すらあることを理論的に示すことは可能である。雇用主たる企業が労働市場において価格支配力を持っている――労働市場が買い手独占的な状態にある――状況では、労働者に支払う賃金を(労働者の)生産性を下回る水準に設定し、雇い入れる人員の数を効率的な水準(完全競争が成り立つケース)よりも少なく抑えることが企業にとって(より多くの利潤が手に入るという意味で)得になる。そのような状況の中で最低賃金が引き上げられると、企業が労働者に支払う賃金が上昇し、それにつられてこれまでよりも多くの求職者が労働市場に参入する結果として雇用が増える可能性がある。仮に最低賃金が最も質の低い労働者の限界収入生産物1と同じ水準に設定されたとしたらその結果として最善(ファースト・ベスト)の状態がもたらされる――労働者に支払われる賃金も雇用される人員の数も効率的な水準(完全競争が成り立つケースと同じ水準)に落ち着く――可能性もあるのだ。

これまでの話が成り立つためには労働市場が厳密な意味で買い手独占的な状態にある(雇用主が一社だけである)必要は必ずしもなく、完全競争が成り立っていないことが言えればよい。労働者に支払われる賃金と(労働者の)生産性との関係はますます希薄になりつつあることが実際のデータによって裏付けられており、この事実は労働市場では完全競争が成り立っていないことを示す証拠の一つだと言えるが、労働市場における需要サイドの構造に関するもっと事細かな証拠の蓄積が待たれるところだ。

デービッド・カード(David Card)も労働市場の実態を掴むために買い手独占モデルに依拠することを是としている。ミネアポリス連銀のエコノミストであるダグラス・クレメント(Douglas Clement)が2006年にカードに対して行ったインタビューの一部を以下に引用するが、ここでテーマとなっているのはズバリ最低賃金である(中でも「今述べたような方針が採用されている店には従業員に対する幾ばくかの独占力が備わっている云々」というコメントの周辺に注目されたい。政策提言という行為に対する彼のコメントも興味深いところだ)。 [Read more…]

  1. 訳注;生産物の価格×労働の限界生産物 []