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Archives for 8月 2017

マーク・ソーマ 「トーマス・シェリング×マイケル・スペンス ~『核抑止』をめぐる師弟の対話記録~」(2007年2月17日)

●Mark Thoma, “Thomas Schelling on Nuclear Deterrence”(Economist’s View, February 17, 2007)


マイケル・スペンス(Michael Spence)とトーマス・シェリング(Thomas Schelling)の二人――いずれもノーベル経済学賞を受賞した経済学者――が核兵器の拡散や核兵器の使用を防ぐための戦略を論じ合うために顔を合わせたようだ。スペンスがその時の模様を報告している。 [Read more…]

サイモン・レン-ルイス インフレ目標を引き上げる (2017年6月16日)

Raising the inflation target
(Mainly Macro, Friday, 16 June 2017)

Posted by Simon Wren-Lewis

もっと高いインフレ目標をという議論を理解するのは簡単だ.ただ2つのことさえ理解すればよい.第1に,もっとも効果的で信頼できる金融政策手段は実質金利に影響を与えることである.実質金利とは,名目金利から期待インフレ率を差し引いたものだ.第2に,名目短期金利にはゼロ近辺に下限(ゼロ下限)があるということだ.この2つをあわせると,不況の際に深刻な問題が生じる.不況に対処するには実質金利をマイナスの領域に動かす必要があり,どこまで負にできるかはゼロ下限によって制限されてしまう1からだ.つまり,金融政策だけでは不況から抜け出すことができないかもしれないということになる. [Read more…]

  1. 訳注: 名目金利を0まで下げても,実質金利は0-期待インフレ率までしか下げられないという制限がある. []

スコット・サムナー「賃金の伸びが遅い? 説明すべき謎なんてないよ」

[Scott Sumner, “Slow wage growth? There’s no mystery to explain,” Money Illusion, August 28, 2017]

『エコノミスト』誌から:

2007年序盤も,最近と同じくらいアメリカの失業率は低かった.当時,賃金は年率およそ 3.5% で成長していた.今日の賃金の伸びは約 2.5% だ.これに経済学者は首をかしげている.「失業率から示唆されるほど労働市場は堅調ではないのだ」と言う人たちもいれば,生産性成長が低調なのを指摘したりインフレ予想が低いのを指摘したりする人たちもいる.最新の説は,ベビーブーマー世代の退職が犯人だと説く.

ホントのところ,ここには説明すべき謎なんてない.低調な賃金成長を引き起こしているのは低調な名目 GDP 成長である,まる.一件落着.

すると,今度はもしかすると名目 GDP が謎になるかもしれない――ここ2年の名目 GDP 成長がかろうじて年率 3% を超える程度でどうして失業率がこうも低くなりうるんだろう? マイルス・キンボールから引用しよう:

ますます,各国の中央銀行はこんな状況に直面するようになってきている――彼らが見ている産出ギャップがゼロに近づいているように見えるのに,インフレ率が目標を下回っているのだ.おそらくこれは,たとえば日本・スウェーデン・アメリカに当てはまる.ユーロ圏すら,この状況にだんだん近づいてきている.ときに,ジャーナリストたちは産出ギャップゼロとあまりに低いインフレ率の組み合わせをみて,あたかもそんな状況が奇妙なものであるかのように議論する.だが,産出ギャップゼロがどの一定のインフレ率とも整合するのは多様なマクロ経済理論がそろって認めているところだ.(これは「金融の超中立性」(“monetary superneutrality“) の一側面だ.)

メディアは金融の超中立性という概念を理解するのに困っているらしい.1970年代から,経済学者たちはインフレ率と失業率に長期的なトレードオフがないことを理解している.だが,インフレ率を 1.5% から 2% に上げられるのであればさらにもっと大勢の人たちが労働力に参入するだろうと人々はいまなお考えている.そういうことはありそうにないのだが.

PS. 最近のポストで指摘したように,政治的正しさに関する世間の人たちの見解は,みんなが想定しているものとちがっているかもしれない.新しい世論調査によると,アフリカ系アメリカ人の多くが南部軍記念像〔リー将軍・ジャクソン将軍の銅像;南北戦争時代の奴隷制度支持の象徴として撤去すべきという運動とこれへの抗議があり死者がでたシャーロッツビル事件につながった〕をそのままにする方がいいと考えている.この世論調査が多少かたよったものだとしても(標本サイズが小さいので),黒人のあいだで10対1で像をそのままにしておくのに賛成する人が多数派だというのはぼくには驚きだ.また,ヒスパニック系は3対1近くで像の維持に賛成している.白人も同様だ.レインボウ連合はこんなところだろう.

「リベラルの指導者が一般庶民のリベラルを代弁している」とも,「黒人指導者が黒人コミュニティ全体を代弁している」とも想定するべきでない.

スコット・サムナー「政治的正しさはおろか者の考えだ」

[Scott Sumner, “Political correctness is a stupid idea,” Money Illusion, August 27, 2017]

数週間まえにも書いた論点だけど,この主張をうらづける実証的な証拠がでてきた.ラジブ・カーンが下記のグラフを示している.これを見ると,知能テストで高いスコアをとっている人たちの方が,不人気な言葉遣いをはるかに許容しやすいのがわかる.


【▲ ムスリムの説教師がコミュニティでアメリカ憎悪を説教するのを許容する割合を語彙テストのスコア別にみたグラフ】
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サイモン・レン=ルイス「イギリスで緊縮の過ちはどうやって起きたのか」

[Simon Wren-Lewis, “How did the UK austerity mistake happen,” Mainly Macro, August 14, 2017]

グローバル金融危機 (GFC) とその帰結としておきた不況が進行中だった当時,労働党政府は財政刺激を使ってその影響をやわらげることはできないかと検討した.財政刺激を打てば,すでに不況の結果として増加しつつあった財政赤字をいっそう増やすことになる――だが,金利引き下げだけではこの危機に対応するのに不十分なのも彼らはわかっていたし,景気後退期の赤字を人が気にかけないのも知っていた.これは「経済学101」つまり基礎的なマクロ経済学だ.そして,この中身は 100% 正しい.
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アレックス・タバロック 「『覆面経済学者の逆襲』、『アメリカにおける財産の歴史』、『コマンド&コントロール』 ~お気に入りの3冊~」(2013年12月22日)

●Alex Tabarrok, “A Few Favorite Books from 2013”(Marginal Revolution, December 22, 2013)


トム・ジャクソンが(Sandusky Registerに寄稿する予定の)今年最後のコラムで2013年中に出版された優れた書籍を紹介する予定らしく、何冊か心当たりはないかとコメントを求められた。私はコーエンほど多読ではない。そういうわけでいくらか範囲と数を絞ってピックアップさせてもらうとしよう。2013年中に読んだ社会科学の分野の本の中から個人的なお気に入りを選ぶと以下のようになるだろう。

ティム・ハーフォード(Tim Harford)と言えば物語の語り部(ストーリテラー)としての天賦の才と複雑なアイデアをわかりやすく噛み砕いて説明する才能に恵まれている人物だが、そんな彼が持ち前の才能を携えてマクロ経済学の世界に足を踏み入れているのが今年(2013年に)出版された『Undercover Economist Strikes Back』(「覆面経済学者の逆襲」)である。経済学の分野の(世間一般の人々に向けて経済学の概念をわかりやすく解説することを狙いとした)ポピュラー書ではミクロ経済学の話題――市場やインセンティブ、個別の経済主体(消費者や企業)による意思決定などなど――に焦点が合わせられていることが多い。『ランチタイムの経済学』然り、『ヤバい経済学』然り、『予想どおりに不合理』然り。ハーフォードの旧作である『まっとうな経済学』にしてもそうだ。しかしながら、本作では従来のポピュラー書とは一味違ってずっと珍しい「獣」に狙いが定められている。インフレーションや失業、経済成長、経済危機といったマクロ経済現象を世間一般の人々向けに噛み砕いて解説するガイドブックを作成しようと意気込まれており、その狙いはものの見事に実を結んでいる。経済理論や経済政策についての冴え渡る説明が盛り込まれているだけではなく、刺激的な人生を過ごした経済学者の面々(かつてはそういう経済学者がいくらかはいたのだ!)の魅力溢れるエピソード(物語)が合間合間に挿入されている。その結果として『Undercover Economist Strikes Back』は啓発的な一冊であると同時に非常に愉快な読み物ともなっているのだ。 [Read more…]

タイラー・コーエン「ハーバードの運営費」

[Tyler Cowen, “The cost of running Harvard,” Marginal Revolution, August 27, 2017]

ブルームバーグ・ビジネスウィーク』誌の8月28日号から:
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サイモン・レン=ルイス「マクロ経済学におけるミクロ的基礎づけヘゲモニーを医学になぞらえると」

[Simon Wren-Lewis, “Medicine and the microfoundations hegemony in macroeconomics,” Mainly Macro, August 25, 2017]

主に経済学者向けの話.
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サイモン・レン-ルイス メディアの自己改革には権力の自覚が不可欠 (2017年8月7日)

The media cannot reform itself until it acknowledges its power
(Mainly Macro, Monday, 7 August 2017)

Posted by Simon Wren-Lewis

いつも読んでくださっている方々ならば,私がこの2〜3年の間えんえんと,メディアが世論形成に果たす影響力の重要性について書き続けてきたことをご存知だろう.(私がSPERI/News Statesman賞受賞記念講演で話した内容も主にその話題だった.) これは,メディアが特定の方向に政治的に偏向しているかどうかなどという党派的な話ではない.そうではなく,メディアは主要な政治的事件に影響をあたえ得るし,実際,時として重要な影響を与えていると主張しているのである.公平のために言っておこう.こうした主張はしばしば否定される — 特に,他ならぬメディア自身からは.

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アレックス・タバロック 「事実は小説よりも奇なり ~行方不明の核爆弾~」(2004年10月2日、10月3日)

●Alex Tabarrok, “Truth is Stranger than Fiction Department”(Marginal Revolution, October 2, 2004)


1958年のことだ。核爆弾の一つ――その威力は広島に投下された原爆の100倍以上に及ぶ――がジョージア州の海岸付近で行方不明になってしまった。空軍の飛行訓練中に爆撃機から誤って落下してしまったのである。何たることか! しかしながら、話はこれだけで終わらない。落下後間もなくして熱心な捜索活動が始められたが、数週間探しても見つからずに捜索活動も取り止められようかとしていたまさにそのタイミングで再び別の爆弾が誤って爆撃機から落下してしまったのである。今度の落下場所はサウスカロライナ州のフローレンス市近辺。落下したのは同じく核爆弾だったが、幸いなことにその爆弾には核分裂性核種が搭載されておらず、そのおかげで落下時に核爆発が起こることはなかった。しかしながら、落下の衝撃で通常の爆薬が爆発し、地表に大きなクレーターができただけではなく近くに住む農民も数名が怪我を負うことになってしまった。ジョージア州の海岸付近で行方不明になった核爆弾だが、もしかしたら見つかったかもしれないとの情報がつい最近になって飛び込んできた。民間で放射線の専門家として働いている人物が核爆弾が落ちたとされる近辺で放射線量を測定していたところ、通常の放射線量の3000倍にあたる放射線を放つ地点を探り当てたらしいのだ1

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●Alex Tabarrok, “More Lost Nukes”(Marginal Revolution, October 3, 2004)


「行方不明の核爆弾」ネタの続きだ。ジェラルド・ハナーが次のようなコメントを書いて寄こしてくれた。

サウスカロライナ州での核兵器落下事故と関係のある人物の一人とペアになって飛行機を操縦したことがあります。その人物から聞いた話によると、B-47爆撃機でイギリスにある前方展開基地に向かっている最中の出来事だったそうです。離陸後にわかったそうですが、兵器(こちらの世界では誰も「爆弾」とは呼びません)が発射装置にちゃんと固定されておらず、飛行中に何らかの緊急事態が起きたらすぐにも発射されかねない状態にあったそうです。兵器には「ピット」が搭載されていなかったので万一落下したとしても核爆発が起きる可能性はありませんでした。兵器を安全ピンで発射装置にきちんと固定するために離陸が安全に済んだ後に副操縦士が爆弾倉に向かったそうですが、安全ピンが差し入れ口にうまく嵌らなかったそうです。離陸した基地に連絡してどうしたものかと相談していると、基地にいる誰かが発射装置を少し揺らせば嵌るんじゃないかとアドバイスしたそうです。副操縦士はそのアドバイスに従いました。その直後に基地には次のような声が届いたそうです。「しまった! 落としちまったい!」 兵器は発射装置から解き放たれて爆弾倉のドアを突き破って落下していったそうです。落ちていったヤツは当時のレベルでは重量級に括られる兵器だったそうです。残りの話は御存知の通りです。

デイヴ・ウォーカーは自分のブログでノースカロライナ州で行方不明になった(そして今でも行方不明のままの)核爆弾のエピソードを紹介している。

その事件が起きたのは1961年1月24日の深夜0時を過ぎた直後のことだ。ノースカロライナ州のファロ村の近くを飛行中のB-52G爆撃機(ストラトフォートレス)が右翼の故障が原因で空中分解したのである。機体には2発の水素爆弾(マーク39)が搭載されていた。

B-52G爆撃機の空中分解に伴って2発の核爆弾も地表に落下。そのうちの一発は途中で落下傘が開いたために地表に衝突した時の衝撃が大いに和らげられることになった。残りの一発はぬかるんだ土地めがけて真っ逆さまに落ち、地表に衝突した時の衝撃で一部が損壊した。残骸の一部はぬかるみの奥深くに沈み込み、未だ見つかっていない。見つかっていない残骸の中にはウランを含んだパーツもある。ぬかるみを50フィート近く掘ってみたものの、今でも弾頭の部分をすべて回収するには至っていない。核爆弾の一部は今でも地中深くに埋まったままというわけだ。

残骸がどこにあるか探すために放射線の測定も試みたがこれといった結果は得られなかった。誰かがその辺りを勝手に掘ってしまわないように空軍は周辺の土地の地役権を買い取っている。

  1. 訳注;未だ見つかっていないようだ。 []