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グレッグ・マンキュー、トップ1%を擁護する

アメリカ経済学会(AEA)が発行するJournal of Economic Perspectiveがアメリカの所得上位1%と残り99%の分配についての論争を特集している。経済学101では第一弾として “アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め“でBivens and Mishelを紹介した。第二弾としてグレゴリー・マンキューの”Defending the One Percent“を紹介する。

第一弾の”アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め“では所得トップ1%の所得の伸びの大部分はレントである、ゆえに非効率であるという主張がなされたが、マンキューは効率的である、と主張している。 [Read more…]

ジョン・コクラン: Mankiw on the 1%

Top1%を巡る論争からのスピンオフ。アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占めも合わせてどうぞ。


John Cochrane, “Mankiw on the 1%“, The Grumpy Economist (6/18/2013)


John Cochraneはシカゴ大学ブースビジネススクール ファイナンス教授。株式市場、債券市場、外国為替市場など金融市場における価格形成、ボラティリティ、VCの利回り、流動性プレミアムの研究や株価と景気循環の関係など金融論および貨幣経済学を主な専門とする。カリフォルニア大学バークレー校よりPh. D. (経済学)取得。


グレッグ・マンキューが「トップ1%を擁護する」というタイトルの興味深い原稿を書いている1。しかし、実にタイトルが悪い。私が読んだ限り、もっと興味を引いた主なポイントは(トップ1%にフォーカスすることではなく)「所得移転は下層50%を本当に助けるのか?」だ。 [Read more…]

  1. 訳注:最終的な論文はこちら。 []

アメリカのトップ1%は成長の果実を(不当にも)独り占め

2008年に発生した金融危機以降、アメリカの所得トップ1%を巡る論争が激しさを増している。トップ1%の所得の伸び率はそれ以外の層よりも顕著に大きく、また1%の中でも格差が拡大しているが、その伸びがそれぞれの層の生産性の伸び(あるいは限界生産)を反映しているかどうかが論争の主要部分である1

これについてアメリカ経済学会が発行しているJournal of Economic Perspective特集を組んでいる2。今回はBivens & Mishelによる“The Pay of Corporate Executives and Financial Professional as Evidence of Rents in Top 1 Percent Incomes”を取り上げる。彼らの基本的な主張は、トップ1%の伸びの多くはレントであり、彼らの限界生産に見合ったものではない、それゆえ、所得税の累進度を高めることで経済成長を損ねることなく格差を是正できる、というものである。


Piketty and Saez (2003) に最近のデータを加味したFigure1からは、1979年以前はそれぞれの所得層の均斉のとれた成長が見られたものが、1979年以降は驚くべきことにボトム90%の成長はその9%しか分配されておらず、トップ10%が成長の果実を独り占めしていることがわかる。そして、そのトップ10%のなかでも格差が生じており、トップ0.01%の成長が著しい(トップ1%は59.8%)。所得移転やノンキャッシュ所得(キャピタルゲインなど)を含めた連邦議会予算局のデータでもトップ1%は38.3%を得、ボトム80%は31.0%しか得ていない。

The Piketty and Saez data indicate, for instance, that between 1979 and 2007, the top 1 percent of American tax units ac counted for 59.8 percent of average growth in cash, market-based in comes compared to just 9 percent of average growth accounted for by the bottom 90 percent over the period. While including transfers and noncash incomes reduces the share of growth received by the top 1 percent significantly, as shown in the Congressional Budget Office data, the top 1 percent still ac count for 38.3 percent of growth, m ore than the 31.0 percent share received by the bottom 80 percent.(p.58)

Figure1 income growth.jpg

さらに1979年から2007年にかけて中間層(50パーセンタイル)の家計の所得の伸びの半分は社会保障やメディケア、年金といった所得移転によるものである。つまり、所得移転前の分配はもっと偏ったものであることが予想される。

We have noted elsewhere that more than half of the income growth for households in the middle of the income distribution between 1979 and 2007 was driven by government transfers (dominated by Social Security and Medicare) and pensions currently received for past labor market service (Mishel, Bivens, Gould, and Shierholz 2012, table 2.13).  (p.59)

所得の源泉についてみてみると、総所得に占める労働所得は1979年と2007年を較べると69.8%から60.3%に減少している。これに対し、キャピタルゲインや金利・配当収入、役員報酬は18.3%から22.8%と増加している。なかでもキャピタルゲインは3.6%から8.0%へ、役員報酬が4.5%%から6.1%へと増加している(Table 1 参照)。

The most striking fifinding in these columns is the large decline in labor compensation’s share of overall income, falling from 69.8 percent in 1979 to 60.3 percent in 2007. Conversely, the combined share of capital income (including capital gains) and business income rose substantially, from 18.3 percent in 1979 to 22.8 percent in 2007. (p.60)

トップ1%の職業を金融業のエグゼクティブ、非金融業のエグゼクティブ、その他の3つに分類すると、トップ1%の非金融業のエグゼクティブの占める割合は44%、トップ0.1%は36%を占める。また金融業のエグゼクティブはトップ1%、0.1%のいずれでも23%程度を占め、エグゼクティブ全体ではトップ1%の58%を占めていることがわかる。

House-holds headed by a nonfifinance executive were associated with 44 percent of the growth of the top 0.1 percent’s income share and 36 percent in the growth among the top 1.0 percent. Those in the fifinancial sector were associated with nearly a fourth (23 percent) of the expansion of the income shares of both the top 1.0 and top 0.1 percent. Together, fifinance and executives accounted for 58 percent of the expansion of income for the top 1.0 percent of households and an even greater two-thirds share (67 percent) of the income growth of the top 0.1 percent of households. (p.61)

これらの金融業・非金融業のエグゼクティブへ報酬の偏りが、彼らの能力から生じる限界生産の反映ではなく、レントシーキングの結果であるならば、トップ1%のマジョリティの高報酬を説明する要素としてレントが重要な役割を果たしているといえる。

彼らはこの論文で役員報酬がこの2、30年で増加している理由を幾つか挙げているが、一つはストックオプションとボーナスである。これらの報酬は他社の報酬を比較対象として相対評価し株主総会で決定されるが、この「相対評価」は実は「カモフラージュ」であり、相対的なパフォーマンスによって評価しているわけではないと論じている。ストックオプションも相対的なパフォーマンスを反映していると言うよりも単に株価の上下動を反映しているに過ぎない。

金融業トップの報酬の上昇がレントであるか否かの論争は、社会全体における金融業の限界的な拡大が他の業種よりも顕著であったか否かの議論とも関連しているが、この論文では報酬の上昇は金融業拡大の反映ではないし、それどころか金融業拡大から生じる負の外部性による非効率性の存在(複雑化によるシステミックリスクなど)を指摘している。また、金融危機で明らかになったように、金融業には暗黙の保険がかかっていた。また、情報の非対称性を利用してリスクを少なく見せ、自らの報酬を高めていた。この結果、金融業と非金融業での報酬比率は1952年から1982年までは1.1だったものが2007には1.83にまで拡大した。トップ1%の多くを占める金融業エグゼクティブの報酬の増加は理想的な市場が機能した結果ではなく、彼らへレントをシフトさせるような制度変更の結果だったのである。所得への限界税率の低下は報酬に対するレンとの割合の高いトップ層へ、レントシフティングへの強いインセンティブを与えるのだ。

This type of diver- gence seems like powerful evidence to us that a substantial part of the extraordinary rise of top 1 percent incomes is not a result of well-functioning markets allocating pay according to value generated, but instead resulted from shifting institutional arrangements leading to shifting of rents to those at the very top. (p.66)

トップ1%の報酬はもちろん最低賃金とは直接関係ないが、実質最低賃金の引き下げ、あるいは労働組合の影響力低下は企業の利益増加を通じてエグゼクティブの報酬を拡大させることができる。また、そのような独占力や優位な情報の非対称性、およびインセンティブを持っている。イギリスを対象とした研究では最低賃金の引き上げは企業の利益を減少させたが雇用には影響がなかったという報告もある。

Too often the assumption is that policy variables like the real value of the minimum wage cannot be relevant to top 1 percent incomes as they are, by defifinition, nonbinding on high wages. Yet one person’s income is another person’s cost. If a declining value of the minimum wage, or increased effectiveness in blocking union organizing, keeps wages in check at, say, Walmart, then it is hardly a shock that this could well lead to higher pay for corporate managers and higher returns to Walmart shareholders (for example, Draca, Machin, and Van Reenen, 2011, offer evidence that in the UK, higher minimum wages reduce fifirm profifit- ability—but with no signifificant impact on employment).

またグローバリゼーションも労働者の利益を阻害し、資本家の利益をもたらす。ストルパー・サミュエルソンモデルからはアメリカのような先進国では貿易の開放度が高いほど、資本家の利益を増やし、労働者の利益を減らすことが示される。Rodrik  (1999) やJayadev (2007)  の研究でも、先進国、途上国問わず、資本移動の自由度の上昇は労働者の交渉力を資本家へ移す強い証拠が示されている。

Further, it is likely that the role of globalization—a mixture of exogenous and policy-induced changes—also looms large. Textbook Stolper–Samuelson models explicitly show (at least in the older textbooks!) that trade openness can increase capital incomes and reduce labor compensation in rich countries like the United States. Rodrik (1999) and Jayadev (2007) have similarly noted that capital account openness, which is largely a policy choice, could well tilt bargaining power away from workers and towards capital-owners, resulting in higher capital shares not just in developed countries (the standard Stolper–Samuelson result) but in developing countries as well—a nonstandard result that has shown up strongly in the data.

トップ1%の報酬の増加分の多くがレントであるならば、このような格差の是正は原理的には経済全体の成長を妨げるものではない。このサーベイでは実際に最高限界税率の変更が経済成長へ大きく影響しないことをいくつかの論文を挙げて主張している。 よって、トップ1%への偏りを是正することで経済成長を阻害させることなしに、中間層、下層への所得分配を増加させることが可能である。

[Taking steps to] reverse the concentration of income at the very top will not kill any golden goose of economic growth. Instead, it will just lead to more income for those at the bottom and middle of the income distribution.

彼らが提案するのはまずコーポレート・ガバナンスの改善である。次に、レントシフティングへのインセンティブを減らすための最高限界税率の引き上げである(とくに労働への報酬ではなく資本からの報酬に対して)。


この論文では言及がなかったが、役員報酬が利益と連動する 契約の場合、法人税の引き上げは雇用に影響なく役員報酬と株主への配当(これも税率が低い)を減少させる効果があるだろう。

 


参考文献:
Bivens, Josh and Lawrence Mishel, “The Pay of Corporate Executives and Financial Professional as Evidence of Rents in Top 1 Percent Incomes” Journal of Economic Perspective”, 2013

  1. 現在の標準的な経済学の世界では生産性を反映した絶対的な格差はあまり問題にしない []
  2. このジャーナルは一般のメディアと学界の成果を結びつけることが目的のため無料で読める。 []