わが国では多くの人が会社に雇われて労働者として働いています。そして対価としての賃金を受け取って生活をしているわけですが,この賃金額が仮に完全に固定されていたとしたら何が起こるでしょうか。
まじめに仕事をしてもサボっても,また売り上げに貢献してもしなくても,まったく同じだけのお金を受け取れるのであれば,その仕事自体がとても面白いとか経験が後になって役に立つ等の事情がないのなら,おそらくちゃんと働かない人が多いでしょう。
そこで多くの企業では,固定給と歩合給を組み合わせたり昇進競争で競わせたりすることで,労働者の動機付けを行っているのです。また誰にでも分かるような形で(正確には裁判所に証明できるような形で)サボったりすると,クビになってしまうかもしれません。クビになる恐れがある場合にもある程度はまじめに働くでしょう。
まじめに働くかサボるかといった何らかの行動や選択を行う際の動機のことをインセンティブといいます。そしてインセンティブに働きかけるために,様々なアメやムチが準備されているのです。
そのような取り組みが行われるのは職場だけに限りません。例えば飲酒運転により発生する事故を減らすことを目的として,飲酒運転への罰則が強化されると,それに反応して飲酒運転による事故が明らかに減りました。
また企業間の談合やカルテルを防止するために2006年に導入された課徴金減免制度では,仮に談合をしたとしても自ら名乗り出て捜査に協力した企業は課徴金が免除または軽減されることになっています。この制度があると,まず談合が行われているときには,他社が先駆けて通報してしまわないかと疑心暗鬼になることを通じて我先にと申告する効果が期待できますね。
ここで談合した企業が名乗り出たからといって免責されるというのは正義に反すると思われるかもしれません。しかしそれは単純すぎる考え方でしょう。制度が導入されたばかりの過渡期を除いては,免責される制度があるからこそ正直に申告される,そしてすぐに通報されてしまうのであれば,そもそも談合が行われないという効果が期待できるのです。
このように契約や制度を設計する際には,ルールを変えるとそれにより人々の行動が変わることを理解し,人々の反応を読み込んだ上でデザインすることが求められます。
例えば所得税率を倍に引き上げたとして,税収も倍になるかどうかを考えてみましょう。税率が変わったら納税者はどのように行動を変えるでしょうか。おそらく馬鹿らしくなって仕事を減らす人もいるでしょうし,一方で手取り収入を維持するために仕事を増やす人もいるでしょう。より重要な変化は,税率が上がると,これまで以上に節税行為をすることのメリットがあることです。これらの効果を合計すると,おそらく税収は倍にはならないでしょう。
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