3-11. ここまでのまとめ

これまで完全競争市場という理想的な環境を検討しました。まず需要曲線や供給曲線とは何か,また理想的な環境において市場均衡点という安定的な点がなぜ実現するのか,そして完全競争市場が効率的だということの意味を順に説明しました。ご理解頂けたでしょうか。

ところでこの教科書ではなぜこのような非現実的な理想的状況から考え始めたのでしょうか。それは現実の世界で行われている不完全な取引を考える際には,理想的な姿とどこが異なるのかという見地から考えると何が問題なのかが明確になるからです。

体の健康や病気の話に置き換えて説明すると分かりやすいかもしれません。これまで第3章では,まず健康体であるとはどのような状態なのか,そしてなぜそれが望ましい状態なのかを説明しました。

おそらく完全に健康な人はこの世の中には存在しません。目や歯が少し悪いとか,毎年の健康診断のたびに医者から飲み過ぎを注意されているなど,少しくらいは問題があるはずです。

しかし理想的な健康体とはどのような状態なのかを知っておくことは有益でしょう。それにより何が病気なのか,またどのような治療が必要なのかが分かるからです。ただし完全に健康体でないからといって,すぐに手術や投薬が必要とは限りません。軽微な問題なら自然治癒するかもしれませんし,副作用の方が大きいことが予想されれば,手術せずに対症療法がとられる場合もあるのです。

第4章では,それなりに市場が機能していて完全競争に近い状態のときには,個別取引に政府が介入しない方が良いことを説明します。これはほぼ健康体のときに無駄に強い薬を飲むのは意味がないだけでなく害にもなるということに対応します。

また政府の活動に必要な資金を集める等の理由で市場取引に対して課税する必要がある場合には,それにより交換の利益が損なわれることを説明し,どの程度の弊害があるのかも検討しましょう。これは健康診断の際に採血やX線検査をすることは必要ですが,それにより健康な体を少しは傷つける可能性があることに対応しています。できるなら弊害が少ない検査方法を利用することが望ましいのと同様に,必要な課税を行う際にも弊害が少ない手法の採用が求められます。

その後の第5章からが,政策分析を考えるこの教科書の最も重要な部分です。そこでは体調が悪いときに発熱している理由や痛みの発生源を調べるのと同様に,望ましい交換の利益が上手く実現しないのはどのようなときかを調べます。そして原因ごとに問題を切り分けて,どのような介入が必要なのかを個別に検討することになります。