需要曲線から先に説明することにしましょう。まずは特定の財やサービスに対する個人の好みを考えて,その人が価格がいくらのときにその品物を何個欲しいかという関係をグラフ化することから始めます。つまり価格と需要量の関係を考えるのです。このグラフのことを需要曲線と言います。
通常は,値段が高くなると買うことをあきらめ,安くなるとたくさん買っても良いと考えるでしょう。例えばガソリンの値段が高ければ購入量を減らすでしょうし,美容院の料金が下がればより頻繁に通うようになるといったことが予想されますね。よって価格と需要量には,通常は右下がりの関係があります。個人の需要曲線を描く際には,例えば価格を極端に高い水準から徐々に下げていったときに需要量がどのように変化するのかを順に考えていけば良いのです。
実際に個人の需要曲線を描いてみましょう。ある暑い夏の日に,安藤さんが由比ケ浜のビーチに行き,海の家で缶ビールを購入する場合を考えてみます。安藤さんはケチなので「海の家で缶ビールが一本300円より高ければ買わない。300円以下なら一本だけ買って大切に飲む。250円以下ならば二本買っても良い。150円以下なら三本欲しい。そしてもっと安くても三本より多くは買わない」という好みを持っているとします。
このような好みを持つ安藤さんの,海の家で買うビールに対する価格と需要量の関係は次の図のようになります。
この図のように,値段がいくらのときに何本欲しいかといった関係を描く際には,グラフが連続ではないほうが現実的でしょう。なぜなら金額は普通は一円単位ですし,缶ビールを買うのも一本ずつだからです。
しかし図を簡単に描くことや細かい場合分けが不要になるなどのメリットがあるため,今後は特別に注記しない限りでは,価格も数量も連続的に選択できるものとして,グラフを描くことにしましょう。そして現実にはくねくねと複雑な形をしているかもしれませんが,見やすいように直線として描くことにします。重要なのは値段が下がれば需要量が増えるという右下がりの関係ですので,この大事な性質さえ満たしている限りでは階段状に描いても直線で描いても,本質的な結論は変わらないからです。
ただし,これはあくまでも単純化したものであり,現実の需要「曲線」が直線であるわけではないことに注意してください。またこのグラフでは値段が高すぎるとことからゼロ円まで,どんな値段に対しても欲しい缶ビールの本数が決まっていて,それがちゃんと描かれていることにも注意してください。
上の例では,安藤さんは値段がいくらなら何本の缶ビールが欲しいか明確に決めているように設定しました。これは非現実的な状況だと思われるかもしれません。しかし私たちが例えばスーパーに行き,売っている商品の値札を実際に見たときに,「これはお買い得だから今日は思い切って3つ買ってみよう」とか「今日は高いから買うのをやめておこう」といった判断をするのは良くあることではないでしょうか。確かに家を出る前から,何がいくらだったら何個買おうといった買い物計画を綿密に立ててはいないとしても,私たちはこのように無意識的にかもしれませんが頭の中に需要曲線を描いているのです。
さて,それでは個人の需要曲線を合体させて,市場全体の需要曲線を描いてみましょう。といってもあまりに人数が多すぎると図解するのが大変なので,ここでは消費者としてAさんとBさんしかいない状態を考えて,全体の需要曲線を考えます。もっと人数が多くても同様に考えることができます。また,下の図では縦軸が価格で,横軸は一月に購入する缶ビールの本数とします。

ここで大事なのは,横に足し合わせているという点です。縦軸の価格を例えば200円と固定したときに,Aさんの20本とBさんの30本の合計で50本になるということですね。
経済学では,物の値段と需要量の関係を需要曲線と言ったり需要関数と言ったりします。需要曲線とは図解するときには曲線や直線で描くことからこのように呼ばれていて,また需要関数とは,価格を決めたら需要量が一つに決まるという関係が関数として理解できるからこのように呼ばれています。
ここで注意して欲しいのは,図の書き方が普通とは異なる点です。皆さんが数学の授業で習ったように,例えばy=x+1といった関数のグラフを描くときには,通常は横軸(x軸)の数字が決まると,対応する縦軸(y軸)の数字が決まるように図示するのが一般的です。しかし,歴史的な経緯等もあり,経済学では価格と数量の関係を図にする場合には横軸に数量が,そして縦軸に価格がくるように描くことになっています。
このような図を描く際には,何が何の関数なのか(どちらがどちらを決めるのか)を明確にしておくことが重要です。また繰り返しになりますが,非常に高い価格からゼロ円までに対応するすべての需要量が明記されている必要があります。上の需要曲線の図では,右下がりになっている部分だけでなく,価格が高すぎるために需要量がゼロになっている部分がちゃんと描かれていますね。
教科書によっては,ここで説明した需要曲線と後で説明する供給曲線を,下の図のように中心部分しか描いていないこともありますが,皆さんが図を描く場合にはこの教科書にあるように図の全体を描いて頂きたいと思います。

最近のコメント