これまで見てきたように,市場全体の需要曲線とは,価格がいくらのときに人々が何個欲しいと思うのかという価格と数量の関係を表すものでした。つまり注目している財・サービスの価格が変わったときに消費者たちの需要量がどのように変わるのかを考えているのです。
それでは,価格以外の要素が変わったら何が起こるのかも考えてみましょう。例えば多くの消費者の賃金が何かの理由で上がったとします。このとき缶ビールの需要曲線はどのように変化するでしょうか。
まずは一度,個々人の需要曲線にもどって考える必要があります。
多くの人は,賃金が上がると一ヶ月に飲む缶ビールの本数を増やすでしょう。それは例えばこれまで一日あたり2本までと決められていた晩酌を3本にするからかもしれませんし,安い発泡酒をやめてビールにするからかもしれません。このようにおそらく増やす人が多いと思われます。
しかし人によっては賃金が上がったら,これまであまり飲めなかったシャンパンを飲むようになり,缶ビールを買う本数が減るかもしれません。しかしそのような人はあまりいなそうですね。
これらの個人の変化を市場全体で横に足し合わせると,人々の賃金が上昇したときに需要曲線がどのように変化するかが分かります。そしておそらく次の図のように右側に移動するでしょう。
右側に移動するとは,缶ビール一本あたりの値段が例えば200円なら,これまでなら30本買おうとしていたのが,賃金が上がったことで40本買うようになるとか,100円とするなら,これまで50本買っていたのが70本になるといったように,ビールの価格がどのような水準であっても,買う本数が同じか増えるということです。
ここで「同じ」という言葉をわざわざ入れているのは,値段が非常に高い場合には,これまでも一本も買わなかったし,賃金が上がってもやはり一本も買わないという場合もあるので,正確を期すためです。「なんだか細かいことを気にする奴だなあ」と思われるかもしれませんが,細部をキチンと詰めておくことは重要なことなのです。
ここでは,まず賃金が変化した場合を考えましたが,これと同様に,人々の好み(嗜好)が変わったときや補完財や代替財の価格が変わったときなどにも,注目している財・サービスの需要量が変化し,需要曲線の形が変わります。
補完財とはビールと枝豆,コーヒーと砂糖のように,同時に消費されることで満足度が上昇するような商品の組み合わせのことを指します。例えばコーヒーに砂糖もミルクも入れずに飲む人は多くいますが,一方で砂糖が無ければ苦すぎて飲めないという人もいるでしょう。このような人は砂糖が手に入らなければコーヒーも飲まなくなるはずですね。
そして例えば砂糖の価格が非常に高くなったとすると,毎月の生活費から砂糖に支出できる金額が減り,砂糖の購入量が減り,その波及効果としてコーヒーを飲む量も減少することが予想されます。このような影響により,補完財である砂糖の値段が上昇すると,コーヒーの需要量が減る方向に需要曲線が変化するのです。
また代替財とは,コーヒーと紅茶のように競合関係にある商品の組み合わせのことを指します。コーヒーが値上がりすると,人々がコーヒーを飲む量を減らして紅茶にするのであれば,これら二つは代替財だということが出来ます。
教科書によっては,需要曲線の形が変化することを「需要曲線が右上や左下にシフトする」というように表現しているものや,その変化を直線が平行移動しているように描写しています。しかし細かいことを言えば,現実の世界において需要曲線が同じ幅だけ移動する平行移動になることはおそらくないでしょう。これらはあくまで説明や作図の簡単化のために行われている仮定であることに注意してください。
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