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Samans「成長と発展の新しい測定方法」

Samans “A new way to measure growth and development“(VoxEU, March 6, 2018)

 

多くの国における近年の政治的な発展は、多くの国の市民のほとんどが、社会の誰もがGDPの成長から恩恵を受けているという標準的な成長モデルの前提に対する自信を欠いていることを示唆している。このコラムは、成長と発展、包摂、世代間の平等、そして持続可能性の一連の指標[1]に基づいて、多次元的な包括的な発展の指標(Inclusive Development Index)を提唱する。一人当たりGDPの成長は、雇用や、収入と資産の不公平や、炭素強度[2]に付随する指標を含む、多くの新しい指標の項目のパフォーマンスと弱い相関がある。

世界的な経済成長は、予想されていた以上の復活をもたらしている。世界的な経済成長は、2016年の3.2%から2018年には4%にまで加速しようとしている。(IMF 2018) これは多くの面で良いニュースであるが、われわれは、多くの国における、高まりつつある不平等や政治的なエスタブリッシュメントを揺るがした経済的な不安に関する社会的な不満を減らすために、より強力な成長を期待することができるだろうか。

これは最近数十年の標準的な成長モデルの背後にある暗黙の前提である。その前提は、GDPの上げ潮——私的な資本の投資へのインセンティブの増大や輸出志向の生産など、特には供給サイドの改革によって上昇させられる——は、究極的には全ての船を持ち上げる[3]だろう、というものである。

しかし多くの国における近年の政治的な発展は、それらの国の市民のほとんどがこの前提に対する自信を欠いていることを示唆している。そして金融危機以降、G20のコミュニケと国連の決議において経済成長をより社会的に包摂的にするための新しくてより計画的な努力を繰り返し要求しながら、政治指導者は同様の懐疑論を主張してきている。

経済政策における幅広い社会経済的進歩がより強く優先されるべきであるというこのコンセンサスにもかかわらず、GDP成長率は国家経済パフォーマンスが政府によって統計的に追跡され、メディアで報告される主要な方法であり続けている。2009年に報告書を発行した”Stiglitz-Sen-Fitoussi Commission”と一般に呼ばれる経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会を含むいくつかの研究の試みは、長きにわたってこの難問を調査してきた。(Stiglitz et al. 2009)

測定されたものは管理される傾向にあり、そしてそれゆえにGDP統計の優先順位はマクロ経済政策や金融安定化政策に適用される注意とリソースの不均衡をより強化する傾向にある。これにより,技能開発,労働市場,投資家と企業のガバナンス,社会的保護,インフラ,基礎的サービスといった,経済活動のパターン形成,特に成長のプロセスと果実への社会的参加の幅広さにとって重要な役割を果たす構造的な政策分野における制度と政治的インセンティブの強さと平等性よりも,全体としての経済活動に重きが置かれてしまう。

明らかにこのことが理由の一つとなり,包摂的な成長に関するコンセンサスは,集団としての希求から,多くの経済政策決定者の考え方を形作る標準的なモデルや彼らが設定する優先順位を変える協調した行動へと進歩するにはいまだ至っていない。

2018年の1月に、ダボスでの世界経済フォーラム年次総会で、”Shaping the Future of Economic Progress”とよばれる構想[4]が国家経済パフォーマンスの包括的な指標、「包摂的開発指数」すなわちIDIを発表した。(World Economic Forum 2018) IDIは、ほとんどの市民は自国の経済発展をその経済において生産された財とサービスの量(GDP)によってではなく、家庭の生活水準によって評価するという気づきに基づいている。これは、収入や雇用機会、経済的な安全保障、生活の質を包含する多次元的な現象である。

われわれはGDPの成長を、生活水準の広範な進歩である最終的な社会的成功尺度への手段(決定的に重要ではあるが)であるという意味において、国家経済パフォーマンスのトップレベルの尺度として理解することができる。それゆえに、政策立案者と市民は同様に、代わりのあるいは少なくとも補完的な、共有された社会経済的な進歩における進歩のレベルと割合を測定するボトムレベルの尺度から恩恵を受けるだろう。

IDIは103の国に対してボトムレベルの報告カードを提供している。それは3領域(経済成長と経済発展、包摂性、世代間の平等と持続可能性)における12の指標というより広範な一連の尺度に基づいている。

IDIの競争的なデータは、包括的な社会経済的な成長と生活水準の中央値の向上を生み出すためには強力なGDP成長率のみに頼ってはならないという決定的な証拠を提供している。一人当たりGDPの成長は、雇用、所得の不平等、資産の不平等、家計収入の中央値、公的債務および炭素強度に関連するものを含むIDI指標の4分の3のパフォーマンスと、弱く相関している。

このことは過去5年間のIDIの傾向について考えるとより明確になる。3か国を除くすべての国がこの期間にGDPを成長させたが、29か国のうち10か国しかIDIの「包摂性」の柱において明確な成長を示さなかった。包摂性は大半の国(29か国中16か国)で悪化し、残り3か国ではこの指標は変化しなかった。このパターンはGDPの成長とIDIの「世代間の平等と持続可能性」の柱でも繰り返されており、成長性の最も強い国のグループであってもその傾向がある。

発展途上国のデータはGDPの成長と包摂性の間の同様の無関係性を示している。過去5年間のGDP成長率のパフォーマンスの上位二つの分位の30か国のうち、6か国しか同様に包摂性の指標の大半で好成績を残さなかった一方で、13か国は平凡であり11か国の成績は悪かった。

GDPの成長は、市民が究極的にはそれに基づいて自国の経済的な成功を判断する生活水準における広範囲に根ざした進歩の達成の、必要条件であるが十分条件ではない。このメッセージは、グローバルな経済成長が最終的により堅調に回復しているときに留意することが重要である。政治的およびビジネスのリーダーは、高成長が、近年多くの国の政治をかき乱してきた社会不満に対する万能薬となることを期待してはならない。

人々と生活水準を国家的な経済政策と国際的な経済統合の中心に置く新しい経済発展のモデルが必要とされている。(Samans et al. 2017) 多くの国には、同時に経済成長と社会的な包摂性を増大させることができる莫大な利用されていない潜在能力がある。しかし包摂的な成長の好循環をより完全に活性化するには、以下のことが必要である。

  • 経済における制度や構造政策の生態系を強化する努力として、構造的な経済改革を再考すること。それらは生活水準における広範囲に根ざした進歩と高成長を導くうえで重要な役割を果たす。また、
  • 社会の経済発展の最終的な尺度である政策立案者の業績を改善し、政策立案者の業績にインセンティブを与える国家経済の成功の広範な指標を採用すること

多くの国の暗黙の所得分配制度は、著しく低迷しているか、あるいは比較的未成熟であるが、これは資本主義の鉄の法則のためというよりはむしろ、政策の重要な部分には注意が払われていないためである。不平等は政策決定者にとって主に内在的というよりむしろ外生的な課題である。技術進歩と、すべての人の生活水準の上昇を支える国際的経済統合の両方の能力に対する国民の信頼を維持するためには、それを認識し、優先順位を付け、測定する必要がある。

 

参照

IMF (2018), World Economic Outlook Update January 2018: Brighter Prospects, Optimistic Markets, Challenges Ahead.

Samans, R, J Blanke, G Corrigan and M Drzeniek Hanouz (2017), “Rising to the Challenge of Inclusive Growth and Development”, in Inclusive Growth and Development Report, World Economic Forum.

Stiglitz, J, A Sen, J-P Fitoussi (2009), Report of the Commission on the Measurement of Economic performance and Social Progress, Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress.

World Economic Forum (2018), Inclusive Development Index, World Economic Forum.

 

[1] dashboardとは本来「(自動車などの)計器盤」のことであるが、比喩的にこの単語が用いられていることを考慮し、ここではdashboard of indicatorsで「一連の指標」と訳した。

[2] 炭素強度(炭素集約度などとよばれることもある)とは、国内で排出された二酸化炭素量を一次エネルギー総供給量で割った値のことである。なお、一次エネルギー総供給量をGDPで割った値をエネルギー強度とよび、二酸化炭素排出量は次のように計算できる。

二酸化炭素総排出量
=人口×一人当たり国内総生産×エネルギー強度×二酸化炭素強度
=人口×(国内総生産/人口)×(一次エネルギー総供給/国内総生産)×(二酸化炭素総排出量/一次エネルギー総供給)

[3] A rising tide lifts all boats. (諺)「上げ潮は船を皆持ち上げる」を踏まえた表現。なお、元となった表現は、シェイクスピアの作品『ジュリアス・シーザー』の中に出てくるブルータスの言葉”There is a tide in the affairs of men.”であり、「人のすることには潮時がある」という意味である。

[4] initiativeは訳しにくい単語であるが、「主導権」の意味で合わなければ、「plan(計画、構想)」や「motivation(やる気)」に近い意味もある。