サイモン・レン-ルイス「マスコミ式マクロ経済学は(残念ながら)健在なり 」(2017年11月30日)

Mediamacro is alive and well, unfortunately
(Mainly Macro, Thursday, 30 November 2017, by Simon Wren-Lewis)

アンドリュー・ニールがジョン・マクドネル [1]訳註: 労働党の影の内閣の財務大臣インタビューした番組は見なかったが,どうやらマスメディアがいつもの政府債務の利子(と,労働党政権になったらそれがどんなに増えるか)に対する妄念を見せはじめたらしい.ペストンのインタビューは見た.彼も似たような質問をしていた(ここ).マクドネルはうまく答えていたが,ペストンがその質問をしなければと感じたということは,マスコミ式マクロ経済学(mediamacro)が未だに健在だということだ.

(訳註: 上記リンクのBBCのインタビューに関する記事の抄訳を示しておく: )

マクドネル氏は,インタビュー中でニール氏が現在の債務の金利を尋ねた際,回答に苦慮した.

労働党幹部マクドネル氏は,質問から逃れようとして「数字に関するノートを送る」と,このBBC Daily Politics番組の最後で提案した.

徐々にヒートアップしたやり取りの後,ベテランBBC司会者ニール氏は「金利の数字を知らないなら,上がるか下がるかもわからないでしょう」と激しく非難した.

マクドネル氏は自己弁護しようと「現在は4千6百万ポンドで,以前に下がったが現在は上がった.このトレンドは覚えている」と言った.

現在の英国の利払い費は年間4千6百万ポンドである.
(以下略)

 

マスコミ式マクロに触れる前に,New Statesmanに私が書いた記事にリンクしておこう.この記事では,政府債務の利子に関する質問がなぜおバカな質問なのか(そして,ずっとよい質問とは何か)を説明してみた.この,債務の利子という考えが馬鹿なやつらに及ぼす影響力を目の当たりにしたのは初めての話じゃない.オリバー・カムとProspect誌でディベートしたことがある.その時,編集者は私のほうが議論を優勢に進めたと思ったそうだが,カムの債務利子に関する論点が最終的に彼女を動かしたそうだ.私はこう思ったのを覚えている”え!?なんて馬鹿なんだ?”.若かりし頃の話で(写真を参照)私はまだマスコミ式マクロについて学習中だったのだ.

それで,なぜペストンは,ニールの質問に追随しないといけないと感じたのだろうか?私が思うに,ことは実に単純だ.マクドネルがニールの質問に答えなかったときのジャーナリストたちの反応は,”質問がバカみたいだったかも”とは考えず,”質問したジャーナリストが何か弱点を見つけ出した”と考えたのだ.ジャーナリストたちは,政治家の弱点を暴くのが大好きだ.そうなれば,そのインタビューのシーンは何度も何度も放送され,インタビューアーは仲間たちから祝福される.政治的失言の数字版というわけだ.大体の場合,こういう幼稚な話なのだ.

本当に問題があるのなら,こんなやり方にも理はあるかもしれない.たとえば,政治家が本当に負債と赤字(歳入欠陥)の違いが分かっていないなんてことを露わにできたなら,それは意味にあることを報じたことになるだろう.(そういえば,財務大臣で,本当にそういう事態を乗り越えなければいけなかった人もいたね.)しかし,そういうことをするためには通常,ほとんどのインタビューアー(債務を完済するなんていう話をしてるやつら)が持っていない知識が必要になる.(ファクトチェッキングサイトでさえ,わかりやすく説明するどころか混乱を招いている.今回の場合は,ここだ.このBBCのサイトは過去にも同様の誤りを犯している.)数字を思い出せないというのは,数字に強いかどうかというより記憶力のテストである.私は数字にかなり強い方だが,英国GDPの大きさを調子の悪い日に尋ねられたら間違えるだろう.

しかし,将来の財務大臣に,おそらく4年も先に行われる投資のための借り入れ利子がどうなるか尋ねるというのはバカな質問である.私のNew Statesmanの記事を読めばはっきりする.ペストンが理解していたのは確かだと思う.それなのに彼はマスコミ式マクロの話題に追随しないといけないと感じたわけだ.それがジャーナリズムというものなのだ.右翼の新聞やジャーナリストたちが作り上げた馬鹿げた攻撃ポイントが,全ジャーナリストが”尋ねなければ”と感じる公的な関心事となってしまうのだ.ジャーナリストたちは,ちゃんと理解している時でさえ,仲間たちをうろたえさせるようなこと — ”私ならそんな質問はしないね; だってそれってナンセンスな質問だから,かわりにもっと知的なことを聞くよ”などと言うセリフ — は言わない.かくして,マスコミ式マクロ経済学なる凡庸がはびこり続ける.

 

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1 訳註: 労働党の影の内閣の財務大臣
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