アレックス・タバロック 「クリスマスツリー戦争 ~『人工』vs.『天然』~」

●Alex Tabarrok, “Not From the Onion: The Christmas Tree War”(Marginal Revolution, November 9, 2011)


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slateより転載

「人工のクリスマスツリー」を販売する陣営(以下、「人工」陣営)と「天然のクリスマスツリー」を販売する陣営(以下、「天然」陣営)との間で主導権をめぐる「戦争」が長年にわたり繰り広げられている最中だが、これまでのところは「人工」陣営が優勢というのが実状だ。しかし、「天然」陣営も黙ってはいない。「天然」陣営が組織する全米クリスマスツリー協会(The National Christmas Tree Association)が形勢逆転を狙ってここにきて「情報戦」を仕掛けてきているのだ。作戦名は「ニセモノのクリスマスツリーに関する隠された真実」(What You Might Not Know About Fake Christmas Trees)。例えばこういう具合だ。「ニセモノのクリスマスツリーの原料はリード線であり、製造地は中国である。それも搾取された労働者たちの手によって作られているのだ」。個人的にお気に入りの「口撃」もついでに引用しておこう。

・・・ニセモノのツリーを初めて開発した会社は元々トイレ用ブラシを製造していた。・・・これまでにテクノロジーは目覚しい進歩を遂げてきていることは確かだが、ニセモノのクリスマスツリーの第一号は緑色をした巨大なトイレ用ブラシに他ならなかったという史実には依然として興味をそそられる。

しかし、全米クリスマスツリー協会も厄介な問題を抱えている。クリスマスツリー市場は多数の零細企業がしのぎを削る競争の激しい業界なのだ。消費者向けの広告キャンペーン(「情報戦」)を全米規模で展開しようとすればそれなりにコストがかかるわけだが、そのコストを負担するだけの余裕と意思を持ち合わせた大企業が存在しないのである(一方で、「人工」陣営が組織しているアメリカクリスマスツリー協会(The American Christmas Tree Association)は洗練されたウェブサイトを持っている。協会の名前という点に関しても(「アメリカン」という単語から始まる)こちらに分があると言えそうだ)。そういう事情もあって全米クリスマスツリー協会は(ミルクや綿花、カリフォルニア・レーズンの製造業者の例に倣って)農務省に対するロビー活動にも力を入れ始め、「クリスマスツリー推進委員会」(Christmas Tree Promotion Board)の創設を求めて心血を注いだのであった。そしてその努力は実を結ぶ。農務省が全米クリスマスツリー協会の要請を受け入れて「クリスマスツリー推進委員会」の創設に動き、「クリスマスツリー推進委員会」に対して「クリスマスツリー産業の立場の強化を目的とした宣伝や研究、評価、情報分析からなる一連のプログラム」を作成する権限を付与したのである 。そしてそのプログラムの作成に要する経費はクリスマスツリーの販売数が年間500本を超える業者への課税(ツリー1本あたり15セントの課税)で賄うこととされたのであった。

この話に怒り心頭なのが保守派の人々である。例えば、デイビッド・アディントン(David Addington)――ディック・チェイニー元副大統領の法律顧問を務め、「史上最もパワフルな男」と評されたこともある人物――は次のように語っている

経済の低迷が続いており、失業率は9%にも上っている [1] 訳注;2011年当時。そのような中でオバマ大統領が採り得る最善の策というのがクリスマスツリーに対する新たな税金の導入だとでもいうのだろうか?

驚くにはあたらないだろうが、アディントンだけではなくその他の保守派の人々も「グリンチ税だ」「神聖なクリスマスに対する課税だ」と矢継ぎ早に批判を繰り出している。それ以外の(リベラルな?)人々の中には「キリスト教の普及を支援するものだ」と攻撃する向きもあるようだが、この意見には首をかしげざるを得ない。というのも、クリスマスツリーは多神教のシンボルだと個人的に常々考えているからなのだが、まあ、細かいことはいいだろう。

今のところオバマ政権はクリスマスツリー税の導入には待ったをかけている。政治に疎い読者は「どうしてなのか?」と疑問に思うかもしれないが、税金が導入される(あるいは引き上げられる)のは選挙の前 [2] 訳注;選挙が間近に迫っている頃合ではなく後 [3] 訳注;選挙が終わってから次の選挙があるまでにだいぶ余裕がある頃合と相場が決まっているのだ。これぞまさしく政治というわけだ。

この話題に気付くきっかけをくれたJoshua Hedlundに感謝する。

(追記)これといった理由があるわけでもないが、RushのThe Treesを紹介しておこう。

References

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1 訳注;2011年当時
2 訳注;選挙が間近に迫っている頃合
3 訳注;選挙が終わってから次の選挙があるまでにだいぶ余裕がある頃合
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