アレックス・タバロック 「偽りの安全に伴う高い代償」(2012年11月20日)

●Alex Tabarrok, “The High Price of False Security”(Marginal Revolution, November 20, 2012)


チャールズ・ケニー(Charles Kenny)がブルームバーグに大変優れた記事を寄稿している。テーマは、「9・11」以降の米本土のセキュリティ問題。

アメリカ国内では、テロの脅威に比べて不釣合いなほど、テロへの関心(注目度)が高い。イスラム過激派によるテロに関しては、特にそうだ。アメリカ国内では、「9・11」から2010年終盤までの間に、合計で15万件の殺人事件が発生しているが、そのうちでイスラム過激派が関わっている事件の数は、3ダース(36件)に満たない。ジョン・ミューラー(オハイオ州立大学)とマーク・スチュアート(ニューカッスル大学)の二人の共同研究によると、アメリカで暮らす市民がテロ事件に巻き込まれて命を落とす確率は、2000年以降に関しては、350万分の1と見積もられている。アフガニスタンやイラクといった紛争地帯を除いた話で言うと、2000年以降にイスラム過激派によるテロで命を落とした人の数は、全世界で200人~400人程度だ。ミューラーが2011年の論文(pdf)で指摘しているように、200人~400人と言えば、アメリカ国内で一年間に浴槽で溺死する人の数とそう変わらない。

・・・(中略)・・・

ニューヨーク・タイムズ紙が報じているが、アメリカが「9・11」で被った直接的・間接的なコスト額の推計の一つによると、テロ攻撃によって直接的に生じた「物理的被害」の額は550億ドル、経済活動に生じた損害の額は1230億ドル。その一方で、国内のセキュリティ強化や反テロ対策のための出費に、イラクやアフガニスタンでの戦争に伴う出費を加えると、総額で3兆1050億ドルに上るというのだ。

マシュー・イグレシアス(Matthew Yglesias)も鋭い指摘をしている

運輸保安庁(TSA)だとか、FBIだとか、CIAだとかといった、そっち方面のお偉方に是非とも仲良く協力してやってもらいたいことがある。空港でのセキュリティチェックを一切やらずに、搭乗客も手荷物も保安検査場を素通りできていたとしたら、一体どれだけの数の飛行機が自爆テロの道具として使われることになっていたと思う? その推計結果をまとめてもらいたいのだ。推計手法の一つとして、例えばこんなのがある。民間航空機の安全性がアメリカ国内を走る平均的な路線バスのそれと同じ程度だとしたら、民間航空機は路線バスと同じくらいの頻度で自爆テロの餌食となることだろう。では、アメリカ国内で路線バスが自爆テロの餌食となった例はというと・・・ゼロ件だ。テロリストは飛行機を爆破することに特別なこだわりを持っている、とかいう意見を耳にしたことがあるが、「どうだろうねえ」というのが個人的な感想だ。そう遠くない昔の話だが、イスラエルはバスを使った自爆テロに何度も悩まされて、バスのセキュリティを強化する対策を講じねばならなかった。かつてのイスラエルのように、我が国でもバスのセキュリティを強化するために何かやられているかというと、そういうわけでもない。それにもかかわらず、アメリカ国内の路線バスがテロリストに爆破されずに済んでいるのはなぜか? 爆破しようと企てている輩が誰一人としていないからだ。少なくとも、そういう可能性は否定できないだろう。

セキュリティ強化に伴う代償として、金銭的なコストの他にも、あれやこれやも付け加えたいところだ。例えば、「自由」(civil liberties)の制限(喪失)。例えば、監視馴れ。政府による監視やセキュリティチェック(全身のスキャンに、身体検査)に悲しくも馴れつつある大衆の姿を見よ。数年前に独立記念館を訪れた時にも漏らしたように、寝ずの番(絶えざる監視)の代償は自由(の喪失)なのだ。

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