クルーグマン「信用の妖精さんと小人さんを反駁」

Paul Krugman, “The Confidence Fairy and Gnome, Debunked,” Krugman & Co., November 1, 2013.


信用の妖精さんと小人さんを反駁

by ポール・クルーグマン

Eirini Vourloumis / The New York Times Syndicate
Eirini Vourloumis /The New York Times Syndicate

悲しいと言えば悲しいことではあるけれど,これから半世紀たった頃に世間がぼくについて覚えていることは――世間がなにか覚えているとして――主に「信用の妖精さん」なんじゃないかと思う.これと平仄を合わせて論議のギリシャ化を反駁する試みをまとめるなら,こう指摘してみてよさそうだ.ああいう恐怖譚は,どうやら妖精さんと関連した一群のキャラクターたちを持ち出しているらしい.それは,信用の小人さんたちだ.

世間に広まってるおはなしは――連銀前議長アラン・グリーンスパンからオバマ大統領の債務委員会の共同議長アースキン・ボウルズまで,ありとあらゆる人たちが語ってるおはなしは――こんな具合に進む:

1. 投資家の信用喪失だぞ
2. ??????
3. ギリシャ!

ぼくがずっと頼み続けているのは,誰かステップ2をうまく説明してくれってことだ.それも,アメリカもイギリスも日本も,ギリシャとちがって,自国通貨をもっていて,短期金利を制御する中央銀行があるって事実と整合するように説明してくれないかねって,ぼくはずっとお願いしてる.あの人たちは,各国の中央銀行が短期金利をわざわざ上げるって言ってるのかな? だとしたら,上げる理由はなに? 長期金利が短期金利から無関係になると言ってるんだろうか? でも,なんで? それに,中央銀行は長期債券を買い入れるだけでそれを阻止できないってことなら,どうして?

これまで,誰一人としてこの課題に明快な答案を出してくれていない.彼らはひたすら「とにかくこういう具合になるんだ」って断定するだけだったり,あるいは,途中で論述を切り換えて,いきなり銀行破綻か何かのこわそうな見通しを持ち出してきたりする.だーかーらー,金融政策に何が起こると想定されるのか教えてってば!

そうそう,経験が示しているのはこういうことだ,なんて言わないでもらいたい.この手の主張の歴史的な前例なんて,単純にありゃしない――自国通貨があってその通貨で借り入れてる国での債務危機なんて前例はない.1920年代のフランスはそれにいちばん近いけれど,そこでも現代ギリシャみたいな事態は展開されなかった.いま現在の日本なんて,事実上,信用を減らすことで利益を得ている国の実例だ.(この手の主張について論評する前に,ぼくの新論文の草稿を読んでみてね:PDF

もっと言うと,こういうことをじっくり考え抜くことがいかに大事なことかを示す明快な例がこの前現れたところだ.覚えてるかな,グリーンスパンみたいな人たちは,財政赤字からやがて金利急騰とインフレに至ると主張してた.でも,短期金利がゼロ近くの不況下にある経済でどんな具合にそういう事態が起こるのか,一度も説明してくれなかった.ここでも,彼らの論理はだいたいこんな具合だ:

1. 赤字だぞ
2. ??????
3. ジンバブエ!

その一方で,こういうことを考え抜いた人たちは,そういう事態は起こらないと結論づけた――そして,現に起こらなかった.

この5年間にわたってマクロ経済学は――少なくともケインジアンのマクロ経済学は――実際にかなりうまく機能してきたと信じてる人間に,ぼくをぜひ数えておいてほしい.

問題は,ここまでのところ,自分たちの手元にあるモデルを使ってみようって意思をもちあわせていた経済学者があまりにもわずかしかいないってことであり,また,影響力ある人たちのなかに,3世代に1回の経済危機に対応するにはなんとなくの直観じゃものの役に立たないってことを理解してる人があまりにもわずかしかいないってことだ.

© The New York Times News Service

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  1. 「この手の主張について論評する前に,ぼくの新論文の草稿を読んでみてね:PDF」のリンク先が間違えているみたいです

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