クルーグマン「共和党が描いている世界」/「舵がとれず漂流するCEOたち」

Paul Krugman, “The World According to the G.O.P,” October 11, 2013.


共和党が描いている世界

by ポール・クルーグマン

MOIR / The New York Times Syndicate
MOIR / The New York Times Syndicate

先日,『ワシントンポスト』の Wonkblog で,記者のリディア・デピリス (Lydia DePillis) がこう問いかけている:「共和党が「経済の不確実性」について心配してたときのことを覚えてる?」

えっと,覚えてないです.共和党が経済の不確実性を心配していると言い張ってたときのことなら,覚えてるよ――でも,その当時ですら,おきまりの古くさい話に新しく疑似学術的なよそおいをほどこそうという試み以外のなにものでもないのは,完璧に明らかだった.彼らが本当に意味していたのは,ひとたびイスラム系無神論者のケニア人社会主義者〔オバマ〕を追い出してお金持ちに愛想良くする人間を据えてやれば,経済は活気を呈するよ,ということだった.共和党は,注意深く読みさえしなければ自分たちの不平不満を支持しているように見えるなにかの研究にとびついたけれど,自分たちのホントの目標を追求するのに不都合になった瞬間に,さっさと不確実性がどうのこうのという話を投げ捨ててしまったのは,疑いのないところだった.

これは,緊縮論争とずいぶんよく似てる.緊縮論争では,債務についてなんだかんだと文句をつけていても,ホントは福祉国家を仕留めようと狙う方便なのは最初からずっと一目瞭然だった――この点を力強く立証してくれたのは,フランスが手当の削減ではなくて増税によって赤字を減らし始めたときに欧州委員会のオッリ・レーン委員みたいな人たちがみせた攻撃的な反応だ.

要点はこれだ――なにも知らずに素朴に事態を見てる人が思うよりも,ここで誠実になされてる経済学的な議論はずっと少ない.そして,その理由は他でもなく,権力のある勢力が最善を尽くして何も知らずに素朴に事態を見てる人たちをだまそうとしているからだ.

というわけで,「経済の不確実性」話よサヨウナラ.ホントの話,これを真面目に考えてた人なんて誰もいやしかなったんだ.

© The New York Times News Service


舵がとれず漂流するCEOたち

Wonkblog で,引き続きデピリスさんが大企業の政治的な不運についてタメになる一連のポストを書いている.大企業は,もてるお金とコネを使いながらも,地滑り状況に歯止めを掛けられないばかりか,これといって手応えのある影響を行使することすらできずにいる.ただ,いまだにぼくは,企業のえらい人たちが自分たちの問題を理解しているとは思わないんだよね.

デピリスさんは,「どうして大企業はワシントンで起きてる最悪の悪夢を止められなかったのか」と題した最近のポストで,この点をいくらか把握してる.ただ,それでも,問題の根っこには行き着いてないと思う.

去年,こういうことをまとめて説明しようとしたことがある.スターバックス CEO のハワード・シュルツの混乱について書いたんだ.彼は掛け値なしにいい人で,政治状況をどうにかマシにしようとがんばってる――けど,なんの助けにもなっていない.シュルツ氏や,おそらく他の多くの企業家タイプの人たちは(きっといまもなお)ぼくらの状況に関する3重の誤解にはまっている.

第一に,CEOたちはいまだに,債務と財政赤字が経済政策の中心問題であるかのように語っている.ああいう話は,そんな中心的な位置を占めるようなシロモノじゃあない.赤字がはっきりと急速に減少していて,債務の展望はこの先10年にわたって安定しているなかで,債務だの赤字だのはそんな大事なことじゃない.それにもかかわらず,「予算の大幅削減こそ――破滅的な緊縮策を終わらせる事じゃなくて予算削減こそが――いま必要なことだ」という観念をCEOたちは手放せずにいる.

第二に,ぼくの見るところ,多くのCEOたちは自分たちが向き合ってる相手について心底からものを知らず素朴だ.たとえば,下院予算委員会の委員長ポール・ライアンがほんとに赤字を気に掛けていると彼らは信じている.

赤字がどうのこうのって話がまるごと全部,経済の危機を利用して社会的セーフティネットを破り捨てる口実にする方便なんだって現実を,彼らは把握していない.あるいは,把握するのを拒んでいる.

第三に,CEOたちはいまだに両方の過激主義者たちの中道に位置どろうとしてる.ところが,現実はと言えば,基本的に穏健な民主党が急進的な共和党と対立していて,後者は正常な規則にしたがって競い合おうとしちゃいないんだ.

上院議員のテッド・クルーズとエリザベス・ウォレンが対称的な人物だと言い張るなら,すでに政治の現実から遊離しちゃっていて,有用な影響をふるうことは見込めない.ぼくはほんとにときどき考え込むんだけど,こういう人らは,いったいどうしてああも素朴になれるんだろう.おそらく,彼らの一部は実のところ素朴で無知なわけじゃないんだろう――ひそかに階級闘争をやってるんだろう.ただ,CEOたちのなかには,ほんとにわかってないらしい人たちもいる.おそらく,今日のアメリカ政治の現実について考えると,不愉快に感じるんだろう――じゃあ,大企業の役員室にいる人たちに,不愉快なことを言ってやれるのは誰だろう?

〔保守的なイデオロギーの〕幻想の泡につつまれて暮らしてるのは,フォックス・ニュースの視聴者たちばかりじゃあない.お金と権力もときに同じ効果をもたらすことがあるんだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

長引く政府閉鎖

by ショーン・トレイナー

下院が予算措置をめぐって袋小路に陥ってしまったことで,合衆国政府の多くの機関が9月30日から機能を停止している.そして,オバマ大統領が合意しそうな解決案を共和党がまもなく見つけ出しそうな徴候はほとんど見あたらない.

両党の対立は,共和党がオバマしの保険医療改革に反対したことから派生している.多くの共和党員たちは,この法律によって増税になり雇用が失われると信じていて,医療改革のさらなる実施のための予算配分が停止されるか少なくとも延期されるという合意なしには政府の予算措置の取引を結ばないと要求している.

その一方で,ある重要な期限が近づいてきている:議会は,10月17日までにアメリカの借り入れ上限を引き上げないといけない.さもなければ,合衆国政府は債務不履行に陥ってしまう.多くの共和党員たちは,債務不履行の脅迫を利用して,オバマ氏に譲歩を強制する意欲を見せている.

実業界のメンバーたちは,その大部分が共和党の伝統的な支持基盤だが,共和党が政府閉鎖と債務不履行の戦略を追及するのに反対している.今月初めに『ワシントンポスト』が掲載したオンラインの記事で,リディア・デピルズ記者はこの2つの危機をめぐる不確実性によって,自分たちが選挙を支援した極右のティーパーティー党員集会のメンバーたちについて,一部企業が考えを改めるにいたっている様子を伝えている.「強引な議員たちが自らののぞむささいなものをえる動きを数年にわたってみせてきたあと,企業のリーダーたちは,自分たちがそれをつくりだす一助となった政治的現実に対処する方法をなくしてしまっている」とデピリス女史は記している.

© The New York Times News Service

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