コーエン & クルーグマン「インタビュー, pt.5: マクロ経済について」(2018年10月10日)

[“Paul Krugman on Politics, Inequality, and Following Your Curiosity,” Conversations with Tyler, Oct. 10, 2018]

コーエン: いくつけだけ,マクロネタの質問を.いま総需要が低迷している要因として,人口増加の鈍化をどれくらい心配してます?

クルーグマン: すごく.ちょっとした話があるんだけど.ラリー・サマーズは,いまアメリカが長期停滞に直面しているってアイディアを主張して有名になったよね.だいたい同時期だったか,1ヶ月ほど早くにぼくも同じ路線で書いてたんだよ.ただ,ぼくの方は定式化がずいぶんひどくて,読めたものじゃなかったけど.

ラリーは,論点を明快そのものに説明してみせた.それで彼が手柄をものにしたわけだ.さらに困ったことに,現に手柄に見合うだけのことをしたんだよね.手柄を取り損ねて,ぼくはもう,ぶんむくれちゃって.

長期低迷タイプのお話,つまり,人口増加が鈍化すると貯蓄を使うのに十分な投資需要を喚起するのが難しくなって,景気がいいときにすら金利が低くとどまる傾向が続き,あまりに頻繁に金利がゼロ下限に達してしまうってのは,いいお話だと思う.

この話が正しいかっていうと,100パーセント確かとはいかないけれど,いいお話だと思う.2008年以来ずっと続いてる苦難の予行演習は日本だった.よく知られてるとおり,他の先進国にさきがけて日本は人口の高齢化が進んだ.これは大きな問題だと思う.

コーエン: 政治的リスクはもう話したので脇に置くとして,いま世界経済にとって最大の危険はなんだと思います? 企業の債務でしょうか? 中国でしょうか? トルコとアルゼンチンでしょうか? 他になにかありますか?

クルーグマン: このところずっと主張してるんだけど,次の景気後退は「ビュッフェ形式景気後退」だろうね.キミが言ったようなこと全部の混合になるだろう.突出した巨大な要因ではなくて,いろんな要因があわさった景気後退で,ミンスキーの金融サイクルに似た感じのやつになると思う.

長い間ショックが起きない期間が続いて,みんなが油断するようになる.すると事業を拡大したりはじめたりしてリスクをとるようになり,レバレッジをやって,これが新しいリスクをうみだす.こうしたことはあちこちに波及する傾向がある.それでなにが危険かっていうと,なにかこれっていう巨大な脆弱性があるっていうより,典型的な景気後退では連銀は 600ベーシスポイントくらい金利を引き下げるって事実だよ.

現時点で,連銀には金利引き下げの余地が200ベーシスポイントしかない.これが,長期停滞についての問題に関連してる.つまり,ほんとに金利が低い状況から〔景気後退への対応を〕はじめることになるので,金融政策はあまり効果的でないんだよ.

経済になにか1つの大問題が形成されていってるわけじゃなくて,おそらく,あれやこれやのもっと小さな問題が揃っていってる.そのうちいくつかがいよいよ対応を要するほどになったとき,すごく難しい景気循環のお膳立てがととのってしまう.

コーエン: 昨日,ジャネット・イェレン〔当時のFRB議長〕が,いまの時点で金利を引き上げる必要があるかもしれないと発言しているのを読みました.イェレンとあなたで物事の見方がちがうとして,おふたりの基礎にある枠組みにどんな具合に関連しているんでしょうか?

クルーグマン: 面白い質問だね,だって,ぼくが知るかぎり…

コーエン: イェレンはすごくハト派ですもんね,周知のとおり.

クルーグマン: そうそう.ぼくが知るかぎり,イェレンの枠組みはぼくのと大差ない.で,ぼくの枠組みだと,いま金利を引き上げるべきじゃない.というのも,あといくらか高いインフレ率の方がはるかに有益だから.いま金利を引き上げないでおけば,あといくらか高いインフレ率に到達できる.それはつまり,次の不況で実質金利を低くする余地ができるってことで,その方がのぞましいでしょ.

じゃあ,どうしてイェレンはそんな風に〔金利引き上げの必要があるかもしれないと〕考えてるんだろ? ぼくの考えでは,知的な理由というより社会的と言っていい理由で,中央銀行の運営が2パーセントインフレ目標に執着している,というのが答えだと思う.

2パーセントインフレ目標を墨守すべきだという考えを受け入れるのなら――インフレ率はずっとすごく低いままなのが続いていて,かりに連銀がさらに金利を引き上げなかったら,インフレ率が2パーセントを顕著に上回るところまでジワジワ上がってくる見込みはかなり高い,そう考えるべきもっともな論拠はある.

これを制約にするなら―――つまり,インフィレ率が2パーセントを大幅に上回るのを許容してはならないとするなら―――そりゃまあ,金利は引き上げる必要はあるってことになる.でも,ぼくはその最初の前提を受け入れないな.

コーエン: つねに契約条件が交渉しなおされているサービス部門の経済があったとしましょう―――つまり,労働者の交渉力がつねに弱くなるだろう経済があったとします.その場合,アメリカ国民は,自分たちの実質賃金が切り下げられて交渉のサイクルが回ってくるたびにその分を取り戻すのに苦闘しなくちゃいけなくなるだろうと知りつつ,4パーセントインフレ率をしぶしぶでも受け入れるでしょうか.

クルーグマン: いい質問だね.ただ,よくわからないんだけど,はたしてサービス経済の側面が本当に大きなちがいをもたらすかというと…

コーエン: でも,労組は減りましたよね?

クルーグマン: 労組は減った.でも,他方で,労組が減ったことで,賃金がより柔軟に変化できるようになるかもしれないわけだ.たしかなのは,COLAs がないってこと.いや,COLA がなんなのか知ってるってことで年齢がバレバレだけど.

コーエン: 生活コスト調整,ですね (Cost-of-Living adjustment).

クルーグマン: 現時点で,国民は「4パーセントや3パーセントのインフレ率は受け入れられない」と言ってはいない.そういうことを言ってるのは,中央銀行の人たちだ.ぼくもけっこうな年齢だから,4パーセントインフレ率の経済がどんなだったか覚えてるんだけど,1980年代後半がそうだった.で,あの時代に人々がインフレについて苦々しく不満を言ってた記憶はないんだよね.

たしかにあるというはっきりした証拠もないのに,国民の反対意見をでっちあげるべきじゃない.他方で,4パーセントインフレ率は大いに理にかなってるという経済学説はかなり強力だ.この10年間の経験で,2パーセントで十分だと考えた経済学説は,すっかりまちがいなのがわかった.

part 6 に続く

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