サイモン・レン=ルイス「ウソつき政治」

[Simon Wren-Lewis, “The politics of lying ,” Mainly Macro, August 11, 2017]

世間では「政治家はみんな嘘つきだ」と言うけれど,政治家がみんなドナルド・トランプと同レベルの不誠実ぶりだという意味ではとてもじゃないけれど言えない.とはいえ,政界での嘘つき具合を計るにはどんな方法があるだろう?

ポール・クルーグマンの考えでは,共和党のいろんな問題は,「〔富裕層への〕減税はおのずと元が取れるものだ」という考えを推し進めはじめたときからはじまったのだという.減税すれば歳入が減るどころかかえって税収が増えるという考えは理論上こそ可能ではあるけれど,実証的には間違いだという研究が次々に登場している.だが,このウソが他のウソよりひどいという理由はなんだろう?

私の案は次のとおりだ.このウソは共和党の主要な党是になった(し,いまも党是であり続けている).ウソといっても,統計的な事実についてもっと融通を利かせて政党の政策に都合のいい見方をするとか,そういう話ではない.このウソは,つきつめるとようするにすごいお金持ちへの減税と国家規模を縮小することを正当化する試みだった(減税してもおのずと元が取れるのでないとしたら次の手は支出を削減して赤字分を相殺することになるので,お金持ち減税と小さい政府にすることはつながっている).このウソは専門家の見解に真っ向から反するものだった.そして,そんなウソが共和党の経済戦略の核心に据えられたわけだ.

こうやって根本からおかしいウソをつくと,政治活動の方針全体がゆがむ.こういうウソやその支持者たちは,事実を隠すいろんな方法に関心をしぼるようになる.やがてシンクタンクを設立して,そこで党是を推し進めるだけでなく本物の専門知識に拮抗する見解を広め,そうやって本物の専門知識を無力化することを目指すようになる.こういうシンクタンクには,「資金を出してくれればそちらの利害に貢献しますよ」という要素がある.だからこそ,右派系シンクタンクは資金についの透明性が非常に低い.また,こうしてウソを推し進める上で,党派的な外部メディアを利用して有権者に代替現実を提示するようにもなる.

こういうことをやってもまんまとやり逃げできるとなれば,重大なウソひとつきりですませる理由はない.政治は,じぶんたちの目的を推進するのにどんなウソをついてやり逃げするか選ぶことに変わる.大事なことは,どんなウソならしかるべき有権者たちにもっともらしく聞こえるか,どんなウソなら党派的な報道機関がそれを支持する証拠を都合よくつまみ食いしてこれを安定して維持できるか,という点だ.党派的なメディアでは,政界とジャーナリズムの線引きがぼやけてしまう

全体主義体制や情報手段の多くを統制する体制では,うそつき政治は日常茶飯事だ.多くの人が驚いたのは,民主主義の伝統と独立メディアを誇る2つの国〔イギリスとアメリカ〕のうち,一方では指導者や与党が日常茶飯事のようにウソをつく事態にまで到達しえたし,もう一方の国では片方の陣営がウソをついて刑事免責されるような選挙の勝利にもとづいて大きな憲法改定をやろうとしているということだ.EU離脱キャンペーンでウソをついた人たちは,べつにそれがうれしくてウソをついたのではなくて,ウソをつくことで票が獲得できるだろうとみたからだ.いま得られている証拠をみるに,どうやら彼らのウソを人々は信じたらしい.

長い民主主義の伝統をもつこの2つの国がこうもあっさりとウソつき政治に籠絡された理由は,べつに理解に困らない.第一に,どちらの国も,オーナーたちがどんな音を奏でようとそれに合わせて踊る党派的メディアの成長をゆるした.第二に,中立を維持したメディアも,両陣営をひとしく扱って,国民に情報を伝えたり真実を語ることよりも政争と娯楽を優先した〔たとえば「地球が回っているとA党は主張しいますが,他方,地球は回っていないという研究者もいるとB党は言っています」と,それぞれ「こう言っています,ああ言っています」と同じ分量で「公平に」伝えてその根拠の強弱を伝えない場合を思い浮かべるといい〕.クリントンのメール疑惑論争は,均衡の考えを当てはめ損なった明白な事例だ.〔EU離脱すべしの根拠として言われた〕「週ごとに3億5000万ポンドものお金」〔がイギリスからブリュッセルに送られている〕という数字を「賛否両論あり」と証するのは,文字通り,真実に関して融通をきかせていた.「情報・啓発・娯楽」という BBC の使命には,秘密の条件がついている:情報と娯楽は,政治的と見なされる要素を含まないこと,という条件だ.

私が驚くのは,こういうことが起きたということではなくて,この点についてなにか手を打とうとする気が党派的でない放送メディアにないということだ.アメリカでは,トランプがじぶんの報道に不満を語ると,トランプが指名した人物を CNN が雇った.イギリスでは,EU離脱報道について王立経済学会が意見書を出しても知らんぷりを決め込んで,「ウザいクレームがまたきたよ」とばかりにやっつけた.政治的右派から絶え間なくなされる「フェイクニュース」/「リベラル偏向」攻撃や,彼らのビジネスモデルを考えれば理解はできる.だが,これによって,どちらの国もウソつき政治にやられ放題のままとなる.

同様の主題についてもっと長く書いた文章:「ポスト真実とプロパガンダ」(英文)

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