ジェームズ・ハミルトン 「原油価格の急落は景気の下振れをもたらすか?」(2014年12月21日)

●James Hamilton, “Do falling oil prices raise the threat of deflation?”(Econbrowser, December 21, 2014)


原油価格が急速な勢いで下落している昨今だが、その影響でアメリカ国内のインフレ率がFedの目標である2%を大きく下回る可能性がある。仮にそうなった場合、アメリカ経済は新たなリスクを抱え込むことになるだろうか? 私の答えは「ノー」だ。以下で、そう考える理由を説明するとしよう。

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PCEデフレーターの月次ベースの変化率(前年同月比)の推移(データの出所;FRED

経済学の理論的なモデルでは、「インフレ」というのは、名目賃金を含めたあらゆるモノ(財やサービス)の価格が同時に同じ割合だけ上昇する状況を指すことが多い。名目金利が一定のままであれば、先のような意味での「インフレ」(率)が低ければ低いほど、資金の借り入れに伴って負担せねばならない実質的なコスト(実質金利)は高まることになる。アメリカでは、短期名目金利がゼロ%の水準に張り付いたままの状況が続いているが、かような中で「インフレ」が低下することになれば、(実質金利が高まるために)総支出(総需要)の収縮が引き起こされる可能性がある。Fedとしては、そうなって欲しくないことだろう。理論的にはそういう話になる。

その一方で、世の中の消費者たちは、経済理論が説くのとはかなり違ったかたちで、「インフレ」というものを理解しているようだ。「インフレ」というのは、名目賃金の水準はそのままで、頻繁に購入する財やサービスの価格が上昇する状況を指しているというのが世間の理解のようなのだ。そのことを踏まえると、「インフレ」を引き上げようと試みているFedに対して、大半の消費者が眉をひそめるのも頷けるところだ。

今年の秋以降の原油価格の変動は、どちらかというと、世間一般の人々が抱く物価観(ものの見方)と相性がいいようだ。アメリカ国内におけるガソリンの平均小売価格の現状はというと、1ガロン当たりおよそ2.40ドル。昨年を振り返ると、ガソリンの平均小売価格は1ガロン当たり3.60ドルで、アメリカ国内におけるガソリンの消費量は1年間で1350億ガロンに上った。今年1年間のガソリンの平均小売価格が現状のまま1ガロン当たりおよそ2.40ドルで、アメリカ国内でのガソリンの消費量が昨年と変わらない(昨年と同じく、1350億ガロンのガソリンが消費される)ようであれば、合計でおよそ1600億ドルのお金が浮く計算になる。アメリカ全土の世帯数は1億1600万世帯なので、1世帯あたりに換算すると1400ドル分のお金が浮く計算になるわけだ。

低所得世帯にとっては、特に大きな「棚ぼた」と言えるだろう。というのも、低所得世帯ほど、所得に占めるエネルギー消費の割合が高いからだ。

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データの出所;Daniel Carroll

過去のデータによると、世の消費者たちは、かような「棚ぼた」を手に入れるや、高額の耐久財――景気の動向を左右する上で大きな役割を担う財――の購入に前向きになる傾向にある

結論を述べるとしよう。ガソリン価格の下落を伴う(世間で理解されている意味での)「デフレ」(ないしは、インフレの低下)によって総需要が収縮することになりそうかというと、そうはならなそうだ。何かしらの効果があるとすれば、Fedに利上げ(ゼロ金利の解除)に動くのをもう少しだけ辛抱させることにはなりそうだ。

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