ジョセフ・ヒース「住宅の巨大化は、現世における多くの害悪の元凶である」(2015年6月4日)

These houses are the source of a great many problems in the world
Posted by Joseph Heath on June 4, 2015

私は先日、ブランプトンにある新興住宅開発区の近くをドライブしたついでに、少し車を止めて写真を撮ってきた。私は過去にも巨大な住宅を見てきたが、ここの住宅群には仰天した。まあとにかく、まずは住宅のサイズを見てほしい。住宅というより施設のようだ。(2台収納駐車場を見れば、住宅のスケール感を把握することができる。)さらに、下の写真ではよく見えないかもしれないが、この住宅群は、1~2エーカー〔4000~8000平方メートル〕区画にぽつねんと建っているのではない。住宅は密集して建設されており(このまま開発が進むなら)、おそらく100棟以上は建築されることになるだろう。

私は最近、消費主義についてあまり書いていない。主な理由に、この件について満足するまで研究してしまっており、この分野ではあまり新しい話題がないように思えるからだ。それでも、こんな住宅を見てしまえば、我々が棲息している世界において、顕示的消費の問題がいかに中心的な問題であるのか、そしての他の非常に多くの問題の根底には顕示的消費がいかようにも横たわっているのかを思い起こさせられてしまう。

私的見解だが、20世紀における「政治経済学」における最大の発見は、人類が富を8~9倍に増やすことができたことをもってしても、独占所有の度合いや、再分配への抵抗水準を僅かばかりも弱めることができなかったことにある。これは私を絶えず驚かせている(19世紀の水準において我々の少なくとも95%が、強欲に耽るのを克服できるだけ豊かになれば、我々は「オレのもの」と「オマエのもの」にあまり執着しなくなるだろうと自明視していたカール・マルクスも同じように驚いただろう)。

私の人生においてすら、カナダの一人当たりのGDPは2倍になっている。子供達は、私が同い年だった頃の平均的な国民で換算すれば2倍豊かになった国で育っている。(しかもこれは技術的な変化を考慮に入れていない。)にもかかわらず、一般的な人が自身の財産状況や消費についてどう感じているについて、認識的にはまったく変化していない。地球温暖化と戦う為の炭素税の導入や、渋滞を緩和する為の渋滞税の導入、さらには貧困層を救済するための所得税の累進強化が、我々には求められているかもしれない、といった提唱は、憤慨のうなり声に直面することになっている。カナダの勤勉な世帯は課税だけされていて、こういった追加的な負担の余裕はない、と我々は聞かされている。他にも本当に多くの支払わねばならない負担があるのだが、どうもそういった差し迫った社会問題を解決するための負担余地は〔一般世帯には〕まったく存在しないようなのだ。

ほとんど人が実際にこのように感じていることを、私は今や図らずも真に受けるようになった。これは作り話などではない。カナダの平均的な世帯は、財政的に圧迫されていると感じているのだ。現在の勤勉な世帯は、私の若い頃に比べても平均して約2倍豊かであることを考慮するなら、なぜこうなっているのだろうと疑問が生じる。富を二倍にすることは可能なのに、幾ばくかの余裕を作り出すことさえ不可能になっているのはどうしてだろう?

(中間層の所得は停滞していてトップ1%が経済成長の全てを奪っている、等を理由に挙げてはダメだ――ここはカナダであって、アメリカではない――カナダとアメリカでは所得のトレンドは異なっている。さらに、最近の郊外の平均的世帯に住んでいる人なら誰でも、その地の人達の消費水準が非常に高くなっていることを十全に承知している。上の写真を見ていただきたい、この写真の住宅はおそらく上位60~80%の所得水準の人向けに売られている。間違えても上位10%向けなどではない。)

〔平均世帯が財政的に追い詰められている〕答えは、人々は(暗黙ないし明示的な)様々な形態の顕示的消費に巻き込まれてしまっていて、底辺への競争に陥っていることにあるのだ。住宅の大きさも顕示的消費の一種だ。住宅は端的にどんどん大きくなっている(ロバート・フランクは“Luxury Fever(贅沢の過熱)”中で、アメリカの下位1/5の所得層が、平均的なヨーロッパ人と同じ大きさの生活空間を満喫している報道記事を引用している。)義理の親戚はちょうど郊外に新しい住宅を買ったのだが、彼女にどんなタイプの住宅を選んだのか一度尋ねたのを思い出した。「一番大きなヤツよ」と彼女は言っていた。私は彼女の返事を凄く気に入っている。一番大きいブツを買うのは一行為に過ぎないが、〔この回答のような〕説明を行いながらブツを購入するのは、非常にイケてるのである。さあ、みんなして底辺への競争を始めよう!

こういった巨大な住宅はいくつもの事象を象徴している。まず第一に、環境問題を純技術的に解決するのが不可能になっている、という古い論点が補強されている。ここまで巨大な住宅を大きく建てることができる理由の一端は、以前より遥かに安価で建築でき、安価で温めることができるからだ。写真の家屋は、(屋根以外)全てパーティクルボード [1]訳注:削方板。おがくずを圧縮して固めた合板 で建てられていることに着目してほしい。また、この建物は、6インチの外壁、おそらくR40 [2]訳注:Rはカナダにおける屋根の骨組みの中に敷く断熱材の基準。R40は保温効果が非常に高い。 の断熱材、98%AFUEの天然ガス加熱炉の屋内暖房 [3]訳注:AFUEはガス加熱炉やボイラー等のエネルギー効率をパーセントで表した数字。100%に近いほどエネルギー効率が良い を備えている。なので、薬缶を沸かすと蒸気が満ちて、換気扇を付けないといけないくらい、極めて密です。言い換えるなら、技術上では、環境保護的に夢のような家だ。この新規の住宅群が、私が住んでいるトロント市内の中古住宅のような吹きっさらしなら、正気の人は誰もこんな馬鹿でかい家を買わないだろう。なので、優れた断熱素材と高効率の屋内暖房が、二酸化炭素排出量の削減に役立つであろう、との幻想は抱くべきでない。人は、自宅を暖める為には、相当の金額を支払うことを厭わない。そして、その厭わない予算に応じて住宅は拡張することになる。しかも、人はさらなる余裕があれば、加熱式の私道や他の設備を設置することになるだろう。これは、労働においていくつか存在する、無駄の恒常性原理のようなものである。〔訳注:どんなに労働の効率化を図っても、無駄な要素は常に一定は存在してしまう様を指していると思われる。〕

次に、このような住宅を購入する人は、住宅ローンより巨額の追加的な消費の自縄自縛に、生涯にわたって基本的に陥いることになる。最も重要なのが、こういった強大な住宅を購入する人の多くが、住宅を埋めるのにどれだけ大量の家財が必要なのかまったく知らないままに、購入していることだ。私は笑ってしまうほどがらんどうの巨大な新築住宅に相当数お邪魔してきた。人は住宅を埋めるだけのお金を持っていない――家具を揃えるには約30万ドルかかる――がそれだけでなく、住宅に見合った規模の消費を行うための、時間や、精神的余裕も持ってないのだ。(つまり、居間に備えるための12人掛けのソファーはどうやって選べばよいのだろう? ということである) さらに、こういった住宅にはおそらくバスルームが5つ備え付けられている――住宅を建てる際の最近の流行では、寝室ごとにバスルームを備え付けている。なので、人は、買って、買って、買い続け…消費が一生かけてのプロジェクトになってしまう。

また、人は自宅が埋め尽くされるまで消費を続け、満杯になった時点で消費を止める傾向があることに私は気づいた。この最適事例は、子供のおもちゃだ。人は、おもちゃが全て積み上がって、もう何も物色できなくなくなるまで購入を続け、その時点になって「もう子供のおもちゃはいらない」と言うことになる。しかしながら、こういったあまりに巨大な住宅では、限界時点に到着するのに永遠を要するので、人は家財を積み上げ続けることになってしまう。車庫を満載にするだけではなく、私道にまで車を停めることになってしまうのだ。

いずれにせよ、政治思想(特に特に国家の最適サイズ)の重要な問題の多くが、私有財の領域における顕示的消費の認識によって突き動かされている、と私的には言わざるをえない。保守党政権がこれやあれやを減税して「これで、あなた方が苦労して稼いだお金をもっと貯金することができますよ」と誇らしげにアナウンスする時、私の脳裏に浮かぶのはこういった住宅だ。人はこれを無駄とまでは感じていないかもしれないが、事実、ほとんどは無駄金の浪費になっている。

これは、カナダの気候変動への対応があまりに悪辣であることも想起させられる。中国、インド、ブラジルのような国が排出量を削減するのを、カナダは説得する必要があるが、「私達は排出量を削減する余裕はありません…私達の経済は非常に脆弱で、経済的に余裕がないのです」と今の我々は言っているわけだ。それでいて、「これが我が国における一戸建て住宅です!」との有様になっている。世界中の人々からしてみれば、我々のスタンスがどれほどお笑いで利己的なものに見えているのか、あなた方は想像できるだろうか?

References

References
1 訳注:削方板。おがくずを圧縮して固めた合板
2 訳注:Rはカナダにおける屋根の骨組みの中に敷く断熱材の基準。R40は保温効果が非常に高い。
3 訳注:AFUEはガス加熱炉やボイラー等のエネルギー効率をパーセントで表した数字。100%に近いほどエネルギー効率が良い
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  1. 細かいですが

    >どうやった選べばよいのだろう? ということである
    -> どうやって

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