ジョン・コクラン「付加価値税」

John Cochrane ”VAT — full textThe Grumpy Economist, October 4, 2017


掲載から30日経ったので,ほかのすべての連邦税に代えて付加価値税を勧めるという趣旨でWall Street Journalに掲載した論説をここにも掲載しよう。前回のブログポストにはさらなる補足がある。
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ジョン・H・コクラン
2017年9月4日東部標準時 2:38 pm

トランプ政権と有力議員たちはまもなく税制改革提案を明らかにするだろう。報道では,この提案には法人税と所得税の引き下げのほか,一部の税額控除の終了が含まれている。しかし,優遇された(あるいは冷遇された)集団に(あるいは集団から)所得を移転する手段として主に税法を捉える人々や,控除,特例,補助金を支持者に与える政治家たちの普通の利益によって真の改革は阻害されることが多い。

したがって物事が常の通りに動くならば,アメリカの複雑で機能不全な税法が大きく変わることは期待できない。しかし,この国の指導者たちが本当に抜本的な改革を行おうとしていたならば,彼らはこの政治的行き詰まりを打開することもできた。変化は有権者にとって簡単で分かりやすく魅力的なものでなければならない。そして規制改革を伴った抜本的な改革だけが経済成長を3%あるいはそれ以上に引き上げることができる。

一番良い方法は,所得税,法人税,相続税をはじめとするすべての連邦税を完全になくしてしまい,全国的な付加価値税,つまるところは全国的な売上税を導入することだ。

税に関する現在の混乱のほとんどは,所得に課税することに起因している。政府が所得に課税する場合,それは法人所得に対してでなければならない。個人所得に課税すれば,人々は税の支払いを避けるために法人化するだろう。しかし,正しい法人税率はゼロだ。法人税はすべて,価格の上昇,賃金の低下あるいは株主に対する配当の低下によって人々が負担することになる。さらに,法人税は特例措置を要求する弁護士やロビイストの軍団を生み出してしまう。

所得税には資本所得に対する課税もある。資本所得税は貯蓄と投資を抑制する。しかし,政府は資本所得に課税せざるを得ない。さもなければ人々は賃金を隠してストックオプションや「成功報酬(carried interest)」といった形で支払いを受けるからだ。

相続税は財産の半分近くまで徴収されうる。これにより,税を回避するために世界一周航海に散財したり,弁護士に気前よく支払いを行ったり,非効率な投資を行ったりする強いインセンティブを生み出してしまう。

現在の税法は複雑怪奇な軽減措置をもってこうした損害を抑えようとしている。401条k項,526条b項,個人退職講座(IRA),医療貯蓄口座(HSA),企業の投資に対する控除,そして複雑な固定資産税や相続税等々,何かに課税する一方で複雑な軽減措置を行うのは明らかな病気の兆候だ。しかし,人々や企業が車や家,ボートを買う際に課税すれば,こんな複雑さはすべて投げ出してしまえる。付加価値税では,賃金,配当,キャピタルゲイン,相続資産,ストックオプション,成功報酬といったものから得られるお金のすべてから,それが支出される際に徴税できる。

改革後の税法には一切の控除措置を含むべきではない。父と子と聖霊たる住宅ローン利子,雇用者提供の健康保険,寄付控除もだ。これに関する各利益集団は強力だ。しかし,政府がそもそも所得に課税しないのであれば,こうした控除措置は争いなく消え失せる。

付加価値税は必ず一律にしなければならない。これはいろはの「い」として岩に刻んでおくべきだ。様々な品や団体に異なった税率を課して所得移転をしたり人々・企業に補助を与えようとすれば,税制を再度めちゃくちゃにすることになる。そしてヨーロッパがやっているように現在の税制に加えて付加価値税を導入するのではなく,現在の税制を付加価値税に置き換えなければならない。

累進課税についてはどうすべきか。付加価値税を累進的にするのは簡単だ。現在の特例措置の代わりに全員に1万ドルの小切手をあげれば良い。もしくは所得税還付措置のように,支出額に応じて還付が受けられるようにするのでもいい。納税者は1万ドルまで完全な還付を受けられ,1万ドルから2万ドルまでの間はその半分,さらにその上は…といったように。電子的な記録を使えば,デビットカードやクレジットカードを通じて簡単に還付を行うことができるし,全員が所得を隠す代わりに買ったものを報告するインセンティブを持つようになる。

しかしアメリカの所得再分配の混乱具合は税法の無秩序さに比肩するほどだ。税に関する議論が物別れに終わるのは,一つ一つの変更による再分配効果が個別に評価されるからだ。税制と所得移転制度が相互にどのように働くかを計測することで,政治家はより良い税とより効果的な再分配を実施することができるのではないか。

アメリカには統合的な社会保険プログラムも必要だ。必要とする人々の小切手を送るのも良いだろう。しかし,大学学費援助,健康保険,光熱費補助,メディケア,メディケイド,社会保険,雇用保険,フードスタンプ,農家保護,住宅補助等々,彼らが政府財源から得ているすべての金額も把握しなければならない。こうした制度の改革を行わないにせよ,税による何らかの再分配を正確に調整するためには,少なくともこれらによる全体としての効果を計測する必要がある。

税率についてはどうすべきか。連邦政府がGDPの20%を支出するのであれば,付加価値税は遅かれ早かれ20%程度に落ち着くだろう。税制改革が妨げられるのは,政治家が税率に関する主張と税の構造に関する主張を一緒くたにするからだ。これは誤りだ。政治家はまず税法の構造について合意すべきで,その後に税率,ひいてはその税率によって支えられる支出について議論すべきなのだ。

これは非現実的だろうか。いや,小さな歩みが不可能な時には大ジャンプが可能なこともある。現在の制度の微調整が現状を大きく変更すると考える方が非現実的だ。

時は来たれり。アメリカの民主主義がこの税法を直すことができなければ,経済の低迷と債務危機,もしくは大規模な支出削減が手をこまねいている。

コクラン氏はスタンフォード大学フーバー・インスティテュートのシニアフェロー,ケイトー研究所の客員研究員である。
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追記:累進的付加価値税のアイデアには先例があった。ヤコビ・ニール「所得税の代替としての累進的付加価値税」2008年12月

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