スコット・サムナー「なぜ日銀の政策変更が(おおよそ)信頼を欠いているのか」

[Scott Sumner, “Why the BOJ policy move (mostly) lacked credibility,” The Money Illusion, September 21, 2016]

今日連銀がなにをやってなにをやらないにせよ,先日の日銀の決定はそれよりもはるかに重要になりそうだ.ただ,いまのところ,疑問を解消する以上にさらに疑問を生じさせている:

1. 日銀の公表では,10年物国債の利回りを0パーセントに抑え,かつ,2パーセントインフレ目標の超過[オーバーシュート]を試みるという.
2. 日銀は超過準備付利 (IOR) を下げたりさらなる量的緩和を行うとは公表しなかった.

今日の市場の反応は,ぼくには評価しがたい.当初の反応は明らかに好意的で,株価は2パーセント近く上がったし円はほぼ1パーセント下がった.ところが,その後,円はいったん下げた以上に上げもどした.だからといって,日銀の行動がなんの影響もなかったというわけではなく,どういう影響であるにせよ,せいぜいのところ市場の予測をほんのわずかに上回っていたというだけの話だ.

目標超過[オーバーシュート]の約束は,クルーグマンのいう「無責任になるという約束」ともとれるし,水準目標にむかうよちよち歩きの一歩ともとれる.Martin Sandhu は第三の解釈をしている――多くの国で事実上2パーセントインフレの天井があると言われつつも目標は対称的だというシグナルだと彼は解釈している.3つの解釈それぞれに一抹の真実があってもまったくおかしくはない――なにしろ,中央銀行の政策は複数の委員たちによってつくられているのだから.

たしか,バーナンキは長期金利ペグのような話をしていたと思う――誰か教えてくださいな.このアイディアについては,ぼくは賛否入り交じった感情がある.一方では,金融政策を量的緩和/マイナス金利アプローチから転換して物価ペグアプローチに向かう方がいいと思っている.ただ,釘付け[ペグ] する対象として金利はほぼ最悪の候補だとも思う.標準的なネオフィッシャー的理由からだ.長期金利が低いのはお金が緩和されてるってことだろうか,それとも,お金が相変わらず引き締められているというしるしだろうか? その点はまったくはっきりしない.

今日具体的にとられた策には失望しているけれど,ある意味では,こうした策をみて楽観的になった.日銀は実験してみる意欲があることを示したし,インフレを上昇させたがっていることも示した.こう喩えてみよう.連銀がはじめてフォワードガイダンスを実施したとき,そこでとられたやり方はとても効果が乏しいものだった――低金利を今後 X 年やります,というやり方だった.これはかなりあいまいだと批判された――ちょうど,日銀が10年物国債の金利上限があいまいなのとよく似ている.そこでフォワードガイダンスにおける次の手は,金利コミットメントを経済状況に依存したものにすることで,これは大きな改善だった.おそらく,日銀が次にとる手は,物価水準目標への転換だろう.そうすることで,インフレ目標の超過[オーバーシュート]の範囲をもっと具体的にするわけだ.あるいは,10年物国債の利回りに上限をつけるかわりに,もっとあいまいでないものを釘付け[ペグ] するかもしれない.たとえば,いろんな通貨のバスケットに対して円を釘付け[ペグ]したり.それがあまりに異論が大きいとなれば(たぶんそうだろう),CPI先物契約に対して円を釘付け[ペグ]すればいい.

危ないのは今回の具体的な策が機能しなかったときで,すると今度はバックラッシュがおきて日銀が将来にとるもっと進んだ手が邪魔されてしまう.この危険があるために,〔発表から〕ほんの数時間のちに円相場が円高方向へもどしたのかもしれない.

追記.いま思ったんだけど,10年物国債利回り上限は,(標準的な金利パリティの理由から)ドルに対して円が年率1.68%値上がりすることにつながると予想される政策を実施するコミットメントだと考えうる.ぼくが懐疑的な理由を説明する,ネオフィッシャー的でない方法がこれだ.長期的には,この国債利回り上限は,アメリカのインフレに対して日本のインフレを 1.68% 低くすることになる見込みが高い.日本が本当にやる必要があったのは,昨年の前半にスイスがやったことの反対をやることだった――つまり,円を急激に下げる一方で,同時に金利を上げることだった.

追記の追記.ポール・クルーグマンに賞賛を.「無責任になる約束」みたいな当初はいかにも「象牙の塔」っぽかったアイディアが,少なくとも部分的には実行される結果を迎えることもあるわけだ.
残念ながら,クルーグマンが最初にこのアイディアを提案したときには,(ごく妥当ではあるものの)流動性の罠は一時的なものだと仮定していた.少なくとも日本に関しては,市場はそう信じていないようだ.

更新:コメント欄で Kgaard がこうコメントしている:

スコットに――ぼくの理解では,発表後の記者会見で,月々の債券購入量を増やすことはないと黒田は発言している.だから,円は上げもどしたんだ.2日ほど前にスコットが書いたことが,ここで全面的に意義をもつと思う:「2パーセントCPIをのぞむ」と *言いつつ*,実際にとる行動が0パーセントCPIと整合的な場合,他に補足がなければ彼らが本当に目標にしているのは0パーセントCPIだってことになる.そして,投資家たちはそれに応じた行動をとったわけだ.その結果が円高で…

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