タイラー・コーエン 「『Founder of Modern Economics:Paul Samuelson』 ~現代経済学の礎を築きしポール・サミュエルソンなる男~」(2017年1月18日)/「『経済学界のマグヌス・カールセン』と言えば誰?」(2008年9月5日)

●Tyler Cowen, “*Founder of Modern Economics: Paul Samuelson*”(Marginal Revolution, January 18, 2017)


ポール・サミュエルソン(Paul Samuelson)の伝記が新たに出版された。掛け値なしの逸品だ。著者はロジャー・バックハウス(Roger E. Backhouse)。今回出版されたのは第一巻。1915年から1948年までしかカバーされていないが、それでも700ページを超える分量だ。目を通している最中だが、心をわしづかみされるようだ。ほんの一部だけ引用しておこう。

・・・(略)・・・自分の知性は、遺伝によるもの。サミュエルソンは、そう自己分析している。「私は、昔から、遺伝の力を疑わない一人でした。私の兄弟も、私も、幼い時は賢い子供でした。従兄弟たちもみんな、平均より上でした。従兄弟の一人が生まれつき頭がよくて、そのことを隠そうともしなかったんですが、確か1950年代の初頭のあたりでしたか、何か薬を処方されて、それを飲んだところ、頭がぼんやりしたらしいです。その時にこう言ったものです。『他の連中がどんな感じで生きてるのか』はじめてピンときた、と。」

サミュエルソンは、ゴットフリート・ハーバラー(Gottfried Haberler)から何を学んだか? 実に14ページにわたってそのことが論じられていたりするのだが、興味はおあり? 私なら「勿論だ」と答える・・・と思うが、何でその話題に触れるんだろうと気になるようなら、MIT(マサチューセッツ工科大学)で経済学の博士号を取得した最初の人物(第一号)はローレンス・クライン(Lawrence Klein)というヒントを出しておくとしよう。

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●Tyler Cowen, “Magnus #1?”(Marginal Revolution, September 5, 2008)


弱冠17歳のマグナス・カールセン(Magnus Carlsen)が(チェスの世界最高峰のトーナメントの一つである「Grand Slam Chess Final Masters」での)今日の一戦で勝利し、おそらく非公式ではあろうが、世界ランク一位に上り詰めた(これまで一位だったヴィスワナータン・アーナンドは敗れて、国際チェス連盟 (FIDE)のレーティング(実力を点数化したもの)で二位に陥落)。カールセンの人となりについて色々知れる記事はこちら。「経済学界のマーク・カールセン」と言えば、誰になるだろうか? その筆頭に挙げられる「神童」は、ポール・サミュエルソンなんじゃないかというのが私の考えだ。『Foundations of Economic Analysis』(邦訳『経済分析の基礎』)が出版されたのは、サミュエルソンがまだ32歳の時のことだ。書き上げていたのはずっと前なんて話も聞いたことがある(何歳の時に書き上げていたのか、誰か正確な情報を知らないだろうか?) サミュエルソンは20歳の時にシカゴ大学の学士号を取得している(学部を卒業している)が、おそらくその時点で既に、世界で最も優れた経済学者の一人だったことだろう。フランク・ラムゼイ(Frank Ramsey)という対抗馬の名前も頭をよぎるところだ――ラムゼイは自分のことを経済学者とは考えていなかったようではあるが――。数理経済学の分野で「この人」という神童は他に誰かいるだろうか? 数理経済学の分野には「神童」はあまりいない(稀少な存在の)ように思われるのだが、その理由は、(数理的な思考力に加えて)経験を通じて得られる知恵による補いが必要となるからというよりは、数理経済学は審美的な面で魅力に欠けるところがある(そこまで美しくない)からなんじゃないか [1] 訳注;それゆえ、「神童」の候補があまり寄ってこない(数理経済学を専門にしようとしない)、という意味。(大抵の人にとっては、数理経済学はそんなに楽しくないし、美しくもない)というのが私の意見だ。どう思う?

(追記)アンドリュー・ゲルマンが統計学の分野を対象にして関連する話題を取り上げている

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1 訳注;それゆえ、「神童」の候補があまり寄ってこない(数理経済学を専門にしようとしない)、という意味。
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