タイラー・コーエン 「娘のリベラル化効果? ~娘を持つ親は左寄りになる?~」(2005年12月25日)/「娘の保守化効果? ~娘を持つ親は右寄りになる?~」(2010年4月5日)

●Tyler Cowen, “Does having daughters make you more interventionist?”(Marginal Revolution, December 25, 2005)


こちらの記事は大変面白い。ほんの一部になるが、引用しておこう。

・・・(略)・・・しかしながら、最も強烈な証拠を提供しているのは「転向者」だ。オズワルド(Andrew Oswald)教授とポータヴィー(Nattavudh Powdthavee)博士の二人が1991年から2004年までの期間を対象に(イギリスの)有権者の投票行動に関する自己申告データを調査したところ、左派政党から右派政党へと「転向」した(投票先を変えた)のは539名、右派政党から左派政党へと転向した(投票先を変えた)のは802名に上ったという。左から右へ「転向」した有権者と、右から左へ「転向」した有権者との一番の違いは何か? その答えは「娘」の数。右派政党から左派政党へと投票先を変えた有権者は、平均すると(家庭で養っている)娘の数が多い傾向にあったというのだ。

記事ではクロス・セクション(横断面)データ(イギリス以外の国のデータ)を使った分析結果についても触れられているが、やはり同様の結果が得られているようだ [1]訳注;詳しくは、以下の論文を参照されたい。 ●Andrew J. Oswald&Nattavudh Powdthavee, “Daughters and Left-Wing Voting”(IZA Discussion Paper No. 2103, April … Continue reading

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●Tyler Cowen, “Do daughters make you more conservative?”(Marginal Revolution, April 5, 2010)


ドールトン・コンリー(Dalton Conley)&エミリー・ラウシャー(Emily Rauscher)の二人が次のように述べている

ワシントン(2008)は子を持つことが議員(政治家)の議会での投票行動(法案への賛否)にいかなる影響を及ぼすかを分析しているが、(養っている子供の総数をコントロールした上で)娘が一人増えるごとにその親(たる政治家)は法案への賛否投票でリベラル寄りに振る舞いがちになるとの結果を見出している。そして、その理由を社会化(感化) [2] 訳注;娘が所属する社会集団(娘と同世代の女性)に特有の考え方や価値観に感化される、という意味。に求めている。しかしながら、政治プロセスに埋め込まれている選抜機構の働きもあって、娘が親に及ぼす影響は、エリートの政治家と一般の国民とでは違ってくる可能性がある。本稿では、実子たる(血の繋がりのある)娘の割合 [3] … Continue readingが子を持つ一般国民の支持政党選びに影響を及ぼすかどうかを検証する。アメリカ全土を対象とした総合的社会調査(GSS)のデータを用いて分析を試みたところ、実子たる娘の割合が高い家庭の親ほど、保守派政党(共和党)を支持する傾向が強いとの結果が見出された。その理由の説明として、娘を持つことによって親にとっての最適な生殖適応戦略が変化するためではないかとの仮説を提示する。

コンリー&ラウシャーの二人が論文の最終パラグラフで投げつけている「石」には拍手を送りたいところだ。

保守派は、家族/伝統的な価値観/男女の役割を強調し、生命尊重の立場から中絶反対を訴えるが、そのどれもが(女親だけではなく男親も含んだ)親による子供への投資(育児)の重視につながる。保守派が推す政策には、「女性」の遺伝上の利害が反映されている。保守派が推す政策では、父親による子供への投資(育児への関与)の後押しが意図されているだけではなく、(「掌中の一羽は、叢中の二羽に値する」とでも言わんばかりに)子供の子供――孫――への投資も強調される。つまり、保守派が推す政策には、男性による乱交を抑え、父親による子供への投資(育児への関与)を後押しすることを通じて、女性の遺伝的適応度を高める効果があるのだ。保守派が推す政策は、女の子――娘――の自由を束縛する面があるかもしれないが、その女の子――娘――が将来産むかもしれない孫の数(の期待値)を増やすことになるやもしれないのだ。

二人が述べている通りかどうかは何とも言えないところだが、議論に付してみる価値はあるだろう。

References

References
1 訳注;詳しくは、以下の論文を参照されたい。 ●Andrew J. Oswald&Nattavudh Powdthavee, “Daughters and Left-Wing Voting”(IZA Discussion Paper No. 2103, April 2006;ジャーナル掲載版はこちら
2 訳注;娘が所属する社会集団(娘と同世代の女性)に特有の考え方や価値観に感化される、という意味。
3 訳注;この論文では、「子供が2人の場合/3人の場合/4人の場合」が対象となっており、子供のうちで娘が占める割合に目が向けられている。例えば、子供が3人いる家庭でそのうち1人が娘(女の子)で残り2人は息子(男の子)だと、娘の割合は33%ということになる。
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