タイラー・コーエン 「金融政策の政治経済学 ~円高とデフレの背後に控える世代間対立?~」(2012年7月30日)

●Tyler Cowen, “The public choice approach to monetary policy”(Marginal Revolution, July 30, 2012)/【訳者による付記】この記事は2012年7月に書かれたものです。


「金融政策の政治経済学」(金融政策に対する公共選択論的なアプローチ)はまだまだ未開拓の分野にとどまっているが、マーティン・ファクラー(Martin Fackler)が日本経済を題材にしてまだほとんど荒らされていないその分野に足を踏み入れているようだ。

円高の進行は海外からの安価な輸入品の流入を後押しすることで幅広い範囲の財やサービスの値下がり――デフレーション――に一役買っているが、デフレで得している層もいる。定年退職した高齢者層だ。彼らの年金や貯蓄の(実質的な)価値はデフレによって高まっているのだ。円高に対する政策当局の無策は新しい政治の現実を反映している。そう語る経済学者や政治家の数は少しずつ増えている。政界のリーダーたちはただでさえ優柔不断だというのに、人口のおよそ3分の1を占め投票率も高い「団塊の世代」に属する退職者(高齢者)らの気分を害さないようにとビクビクしているというのだ。

「円高とデフレを容認する政府の姿勢の根っこにあるのは世代間対立です」。早稲田大学政治経済学術院教授(当時)の原田泰氏はそう語る。「今のところは高齢者が優勢です」。

多くの経済学者が警告しているように、問題は(世代間闘争での)高齢者による勝利には高い代価が伴うということだ。円高が進行することになれば日本企業の海外移転が加速して産業の空洞化が招かれるだけではなく、デフレの加速に手を貸して20年近く続く停滞がさらに悪化しかねない。さらには自滅的な結果を招くことにもなるかもしれない。巨額の貿易黒字を生み出し、快適な生活水準を支える役目を果たしてきた業界の足場が揺らぎかねないからだ。

高齢者層が政治闘争で敗れる例って一体どのくらいあるんだろうね? ファクラーの記事を読んでいると名目値と実質値を混同していたり、短期と長期の区別が曖昧だったりと少々気になるところが散見されるが、次の一文は引用しておく価値があるだろう。

「円高で若者は苦しめられていますが、日本では世代間格差にそこまで注目が集まっていないのが現状です」。野党である「みんなの党」に所属する浅尾慶一郎衆議院議員(当時)はそう語る。

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