デビッド・ベックワース 「第一次世界大戦の見過ごされがちな遺産 ~再建金本位制とヒトラーの台頭~」(2014年7月28日)

●David Beckworth, “The Other Important Legacy of World War One”(Macro Musings Blog, July 28, 2014)


第一次世界大戦がその幕を開いたのは、ちょうど100年前の今日(1914年7月28日)だ。100周年ということもあって、第一次世界大戦それ自体についてばかりではなく、あの戦争がその後の時代にどのような影響を及ぼしたかについても、あちこちで議論が沸騰している。NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)で放送されているOn Pointでも、第一次世界大戦がテーマとして取り上げられていて、移動のついでに先ほどまでずっと耳を傾けていた。番組の司会を務めるのは、トム・アシュブルック(Tom Ashbrook)。歴史家をはじめとした複数の専門家に話を聞くという作りになっているが、大変面白い内容で、多くの事を学ぶことができた――例えば、現在の中東やウクライナが抱える問題の根源の一部は、第一次世界大戦後に着手された国境線の画定にまで遡れるらしい――。移動のお供として、これ以上のものは望み得なかったろう。

ところで、指摘しておきたいことがある。上で紹介した番組でもそうだったし、第一次世界大戦開戦100周年に絡めて語られるその他多くのコメントのどれにしてもそうなのだが、第一次世界大戦が国際通貨制度に刻み付けた重要な遺産のことが、すっかり見過ごされているのだ。第一次世界大戦は、1870年から1914年まで続いた国際金本位制(古典的な金本位制)を粉々に破壊することになったが、終戦を迎えるや、世界各国は相次いで再び金本位制に復帰した。1914年以前までの国際金本位制は比較的うまい具合に機能していたが、戦後に再建された国際金本位制は大きな欠陥を抱えていた。1930年代の大恐慌(Great Depression)があれほど深刻なものとなり、世界中を巻き込む国際的な現象ともなった原因は、再建金本位制にある多くの論者〔拙訳はこちら〕が口を揃えて語っているのだ。それだけではない。1930年代の大恐慌は、ドイツにおいてナチス党を権力の座に押し上げる重要な触媒の役割を果たしたと語る歴史家もいる。例えば、バリー・アイケングリーン(Barry Eichengreen)&ピーター・テミン(Peter Temin)の二人は共著論文(pdf)の中で次のように語っている。

ナチス党が台頭した原因をめぐっては、これまでに数多くの議論が巻き起こり、その過程で大量のインクが消費されてきた。ドイツの経済状況とナチス党の選挙での躍進(得票数)との間の関係をめぐって、競合する仮説が提示され、擁護と反駁が繰り返されている。しかしながら、「ナチス党は、大恐慌と浮沈をともにした政党である」という点については、ある程度疑い得ないところだと言えよう。ナチス党は、1920年代の段階では、泡沫政党の一つに過ぎなかったが、経済状況(景気)の悪化に伴って多くの票を集めるようになり、1930年の総選挙では、第2党に躍進するに至った。1932年に行われた最初の総選挙では、さらに議席を伸ばす格好となったが、景気が回復傾向にある中で行われた(1932年の後半に実施された)2回目の総選挙では、議席を減らすことになる。パネルデータを利用した最近の研究の一つによると、仮にもっと早い段階で景気が回復に向かっていたとしたら、ナチス党の得票数はもっと少なかったに違いないとの結果が示唆されている。ワイマール共和国の政治指導者たちの間で繰り広げられる政治的な駆け引きに揺さぶりをかけるために、ナチス党が獲得すべきであった最低限の議席数を明らかにしてくれるような理論モデルは残念ながら持ち合わせていないが、どんなモデルであれ、ほぼ異口同音に次のような結論を出すことだろう。ドイツの経済がもう少し調子がよかったら、ナチス党に対する有権者の支持もそこまで高まらなかっただろうし、ひいては、ヒトラーが首相に任命される確率も低く抑えられる格好となっていたことだろう、と。

欠陥を抱えた戦間期の(再建された)国際金本位制は、第一次世界大戦が生み出した最大の問題の一つだと言えよう。再建金本位制は、大恐慌をもたらした。そして、大恐慌は、ナチス党の台頭、ひいては、もう一つの大戦(第二次世界大戦)を誘発することになった。第一次世界大戦の大いなる教訓、それは、国際通貨制度の設計はものすごく大事な問題だということだ。

今回の話題と関連するエントリーとして “The Gold Standard Was an Accident of History”〔拙訳はこちら〕もあわせて参照されたい。

(追記)Francesco Lenziがツイッターで興味深い図表を掲げている [1] … Continue reading。以下がそれだ。ヒトラーの台頭を後押ししたのは、ワイマール期のハイパーインフレーションではなく、大恐慌ということがよくわかる。

References

References
1 訳注;横軸は年度(1924年~1932年)、縦軸(左)は失業率、縦軸(右)はナチス党の選挙での得票率。灰色の折れ線はドイツ国内における失業率の推移を表しており、赤色の四角はそれぞれの年度におけるナチス党の選挙での得票率を表している。
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