トーケ S. アイト, ガブリエル・レオン, ラファエル・フランク, ピーター S. イェンセン 『民主主義と革命危機: 新たな実証成果』 (2015年1月8日)

Toke S. Aidt, Gabriel Leon, Raphael Franck, Peter S. Jensen, “Democracy and the threat of revolution: New evidence” (VOX, 08 January 2015)


民主化に際しては、革命の危機というものが中軸的役割を果たすのだと示唆する理論がいくつか存在する。本稿はこの仮説を裏付ける新たな実証成果を提供するものである。本稿執筆にあたっては19世紀のヨーロッパ、20世紀末前後のアフリカ、1832年の英国での大改革といった場面でみられた民主主義への移行に関するデータを利用した。我々は、歴史中一貫して、抜き差しならぬ革命危機がその機先を制しようとする民主主義的改革の引き金となっていたことを明らかにした。

革命危機仮説

2010年から2012年まで続いたアラブの春の間に北アフリカや中東を席巻した暴力的抗議活動の波は、長らく盤石の体制を保っていた幾つかの専制政治国の崩壊と時を同じくしていたが、これら専制政治国のうち首尾よく存続を果たしたところでは、大衆勢力の鎮静化をねらった一連の政治改革・再配分政策が足早に施行されていたのだった。そこから一と半世紀を遡った西ヨーロッパにおいても何やら似た様な事態が起きる。1848年、フランスでまたドイツ各地で諸革命が勃発すると、それに続く様にしてデンマークやルクセンブルクまたベルギーそしてオランダでは民主的改革が見られたのだ。

こういったエピソードは 「革命や暴動およびその他の暴力的抗議活動は民主的変革の引き金と成り得る」 との仮説の信憑性を高めるものである。同仮説が魅力的なのは、それが参政権拡張にまつわる謎、つまり、「政治権力をはじめ多くの場合経済的リソースをも独占している既存専制権力が、自分達とは異なる目的をもった人口層に対し、広く自らの権力を共有してゆく事に同意するのは何故なのか」 という謎を解いてくれるからだ。革命危機仮説は特にAcemogluとRobinson (2000, 2006) またBoix (2003) の労作を通して展開されてきたのであるが、その示唆にしたがえば、ひとたび成功すれば自らの権力基盤全体を根絶やしにするだろう革命の抜き差しならぬ危機と直面した時、専制勢力はその様な行動に出るのだろう、という事になる。この見方を取れば、今日のアラブ世界における専制勢力や150年前の西ヨーロッパの諸君主がみせた対応は、抜き差しならぬ革命危機の機先を制する為の反応だったのだといえる。

とはいえ、皆が皆この解釈に納得している訳ではない。例えばRoger Congleton (2010, p. 15) は1830年から1930年の間に起きた諸般の民主的改革を論ずるなかで次の様に主張している: 「実質的に全てのケース [国] において、リベラル改革の採用にあたって改正に関する既存の憲法的規則が用いられた。どのケース [国] においても、リベラル改革の全てに大規模反乱が先行していたなどという事は無く、そのうえ殆どのケースでは、一見してすぐそれと分かる様な改革を生み出せなかった大規模デモの例で溢れているのだ」

民主化は多面的プロセスなのだから、民主主義の淵源に関してこの革命危機仮説とその他の説が当てはまる領域を画定する事こそが課題と成る。そこで、革命危機仮説がどこまで民主主義への移行を説明し得るのかを確定してゆく算段となるが、これは次の2つの理由の為に困難なものと成っている。

 

  • 第一に、問題と成るのは革命の危機であって、これは定量化が難しい。
  • 第二に、観測された社会的抗議活動をその背景に在る危機の代理物として用いるなら、同危機が民主化を引き起こすのか、それともその2つとも何か別の要因から生じているのか、この点を確定するのは難しい。

我々は一連の論文で (AidtとJensen 2014, Aidtと Leon forthcoming近刊, AidtとFranck 2013, forthcoming近刊) 歴史上のデータ並びに近年のデータまた種々の識別戦略を用いて上記の問題と取組んできたが、これらの研究成果をはじめ、Przeworski (2009) の先行研究やDorschとMaarek (2015) の最近研究から炙り出される状況は明らかだ。即ち:

  • 革命危機は確かに民主化原動力の1つなのである

革命危機の新たな実証成果

タイトルに挙げた問題に解答を与えようとすれば、理想的には民主主義への移行例全てを含んだ集合を対象とした研究を行ってゆくべきだろう。だがこれは不可能なので、研究者として我々は、特定期間、特定国家、さらには具体的な改革にまで研究の焦点を絞ってゆかざるを得ないが、こういった特定の対象を数多く研究することでも、暴力・暴動・革命と民主化の間に在る繋がりに関して非常に多くを学ぶ事ができるのである。我々がこれまで研究に取組んできた 『事例』 は次の3つ。即ち: 『長い19世紀』 におけるヨーロッパ、20世紀末前後のサブサハラ-アフリカ、そして1830年代の英国、これである。

各々の事例において、そこでの既存支配勢力に対し、彼らの握る権力を脅かすに足る実効的な反抗行為を実施しようとする際に関係してくる 『集合行為問題』 が目下のところ解決されている事を見せつける役割を果たした客観的観測可能な出来事が具体的に存在する。そこで我々は、既存支配勢力がこうした出来事に対しどの様な反応を見せたのか、とりわけ、彼らが民主的改革を採用したのかどうかを調査した。勿論、これだけではこの2つの事柄の間の因果関係を確立するまでには至らず、各々の事例においてコンテキストを踏まえた識別戦略が必要となる。

体制不満に関する情報の国際的伝播は、危機認識の違いを把捉する1つの方法である。Kurt Weyland (2014, p. 120) は1848年におけるヨーロッパの諸革命について論ずる中でデンマークの事例を取り上げ、このロジックの例示としている: 「デンマーク国王には、到来しつつあった不満の波を見定めるのに [プロイセン国王よりも] 多くの時間が有ったし、非常に高く付いたウィーン (3月13-15日) やベルリン (3月18-19日) での衝突について知る事もできた。そこで3月21日になるとデンマーク国王は暴力の機先を制するべく、彼の宮殿の外に集まった群衆に対しこういった変革 [リベラル民主主義的憲法] を申し出たのだ」。我々はAidtとJensen (2014) のなかで民主化第一波 (1820-1938) の渦中に在ったヨーロッパ諸国のパネルデータを対象とする研究を行ったが、そこでは 「近隣諸国における実際の革命が、その他の国君主や潜在的革命家に対し、状況がどれだけ危機的であるかを伝えるシグナルの役割を果たした」という考えを精査し、この様な革命的事件と参政権改革の間に頑健な関係性が存在する事を明らかにしている。なおこの関係性は、革命の中心地に言語的または地理的に近しい国について強くなる。

  • 我々の推定値は、ヨーロッパの何処かで革命が1つ勃発した場合、近隣諸国で参政権改革が1つ起きる可能性が75%上昇するという関係があったことを明らかにしている。

1990年から2007年に掛けてサブ-サハラアフリカで起きた民主的変革を対象とした我々の研究は、革命危機と民主化の繋がりが、ヨーロッパにおける民主化第一波に固有のものではなかった事を証明している (AidtとLeon, 近刊)。同研究では、国内の暴動に関するデータを用いて体制不満の程度の定量化を試みた。暴動と政変を引き起こす原因は多岐に亘るから、暴動が民主的変革に及ぼす真の影響を明らかにする為に操作変数法を利用している。我々はBrücknerとCiccone (2011)、BurkeとLeigh (2010) およびFranck (近刊) に倣い、天候ショック (干ばつ) を政治行動に対する操作変数とした。干ばつが暴動に繋がるかもしれないというのには多くの理由が在る; 例えば、一時的な所得の減少することで権力への反抗にまつわる機会費用は低減するし、干ばつは農村地帯を困窮させるので都市部への移住が続いて生じるが、これは既に存在している緊張状態を加速させ、過密状態を悪化させるものである、等々。そして我々は、干ばつが暴動に及ぼす影響の結果として民主的変革の確率が16.7パーセント点上昇する事を明らかにしている。

ヨーロッパ及びアフリカにおける民主化を対象とした我々の研究は諸国のクロスセクションデータを継時的に調べたものだったが、『1832年大改革法』 の研究では英国の民主的変革における一大事件に焦点を置いている (AidtとFranck 2013, 近刊)。田園地帯での反乱 – 所謂スイング暴動 – の地理的伝播を精査したのだが、同反乱は『非改革議会』の下で行われた選挙としては最後のものである1830年と1831年の選挙の間に当たる時期に勃発したものであった。そこで我々は、或る選挙区の極近辺で勃発した暴動が、大改革法を承認する1831年の議会において職務を果たすことになる改革に好意的な政治家一名をその選挙区が選出する確率に対し、如何なる影響を及ぼしたのか推定を試みた。勿論、地域暴動と、改革に対し好意的な政治家の当選の間にみられる相関はどれも、多数のファクターから生じていた可能性が在る。そこで我々は、地域的社会相互作用効果を媒介に既存の道路ネットワーク沿って暴動が拡散した事実を精査する事で、地域暴動への曝され方に関する外生的差異の分離を目指した。我々の操作変数とマッチング推定値の示唆するところでは、スイング動乱が無ければ、改革に友好的だった2政党も下院で過半数を獲得する事はなかったようである。そしてこの過半数無しには、同改革プロセスは十中八九押し留められていただろう。

結論

革命危機はAcemogluとRobinsonが一連の論文や、書籍The Economic Origins of Dictatorship and Democracyのなかで展開した民主化理論において基軸的役割をもっている。同理論は民主化が歴史の機運を決する分節点において勃発することを強調するものであるが、我々の実証成果はこの見解の裏付けとなった。しかしながら、我々の研究にせよ、革命危機説それ自体にせよ、工業化・都市化・所得増加・国際貿易・格差といった背景に在って、ゆっくりと歩みを進める経済プロセスと、民主化へのきっかけが織り成す複雑な相互作用が重要であることを否定し去ろうというものではない。他国における革命・地域暴動との直面・干ばつが誘発した抗議活動などといった 『革命ショック』 が一押しとなり一国をして限界線を踏み越えさせ、支配勢力を民主的改革の施行へと向かわせる場合もあるだろう。しかしそれも背景に在る経済的ファンダメンタルズがその限界線に『近接』している状態が在って初めて生じ得るのである。

 

参考文献

Acemoglu, D and J A Robinson (2000), “Why Did the West Extend the Franchise? Democracy, Inequality, and Growth in Historical Perspective”, Quarterly Journal of Economics, 115(4), 1167-1199.

Acemoglu, D and J A Robinson (2006), Economic Origins of Dictatorship and Democracy, Cambridge: Cambridge University Press.

Aidt, T S and R Franck (2013), “How to Get the Snowball Rolling and Extend the Franchise: Voting on the Great Reform Act of 1832”, Public Choice 155 (3), 229-250.

Aidt, T S and P S Jensen (2014), “Workers of the World, Unite! Franchise Extensions and the Threat of Revolution in Europe, 1820-1938”, European Economic Review, 72, 52-75.

Aidt, T S and G Leon (forthcoming), “The Democratic Window of Opportunity: Evidence from Riots in sub-Saharan Africa”, Journal of Conflict Resolution.

Aidt, T S and R Franck (forthcoming), “Democratization under the Threat of Revolution: Evidence from the Great Reform Act of 1832”, Econometrica.

Boix, C (2003), Democracy and Redistribution, Cambridge: Cambridge University Press.

Brückner, M and A Ciccone (2011), “Rain and the Democratic Window of Opportunity”, Econometrica, 79 (3), 923-947.

Burke, P J and A Leigh (2010), “Do Output Contractions Trigger Democratic Change?”, American Economic Journal: Macroeconomics, 2, 124-157.

Congleton, R D (2011), Perfecting Parliament, Cambridge: Cambridge University Press.

Dorsch, M T and P Maarek (2015), “Inefficient Predation and Political Transitions”, European Journal of Political Economy, 37, 37-48.

Franck, R (forthcoming), “The Political Consequences of Income Shocks: Explaining the Consolidation of Democracy in France”, Review of Economics and Statistics.

Przeworski, A (2009), “Conquered or Granted? A History of Suffrage Extensions,” British Journal of Political Science, 39, 291-321.

Weyland, K (2014), Making Waves. Democratic Contention in Europe and Latin America since the Revolutions of 1848, Cambridge: Cambridge University Press.

 

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts