ビル・ミッチェル「日本式Q&A – Part 3」(2019年11月6日)

Bill Mitchell, “Q&A Japan style – Part 3“,  Bill Mitchell – Modern Monetary Theory, November 6, 2019.

Part1はこちら

Part2はこちら

これは今週の4部構成シリーズの第3部で、日本の諸派が提起した現代通貨理論(MMT)についてのいくつかの重要な質問に関するガイダンスを提供する。今日、私は東京にいる。日本のメディアでMMTを宣伝するために、1日の記者会見とテレビ撮影を行う予定だ。私はすでに(昨日)記者会見で非常に明確に論じた。彼ら(メディア)が日本の人々に我々の考えを正しく表してくれることを願っている。

たとえば、昨日の日本の国会(議会)での講義の後の記者会見で、私は数多くのジャーナリストに対し、「MMTは赤字は問題ではないと考えている」あるいは「MMTとは政府による紙幣印刷支出のことだ」とは書いて欲しくないと述べた。 このメッセージが伝わっていることを願う。第1部と第2部で述べたように、多くの人からMMTに関する一連の質問への回答を求められたが、(内容が大幅に重複する場合)個々の人に個別に対処するよりもこうして記事にする方が、MMTの本質、及びMMTの基本原則を複雑化する現実世界のニュアンスをよりよく学び、理解するにあたって有用かつより効率的な方法だと思われる。これらの回答は最も完全で正確なものというわけではなく、より詳細な点については、リンク先のブログ投稿を参照いただきたい。本日の質問は、グリーン・ニューディールについての別の質問と、ジョブ・ギャランティ(就業保証)がベーシック・インカムへと置換可能かどうかについてだ。

ジョブ・ギャランティとグリーン・ニューディール(続き)

質問

  • 2019年1月19日に、ウォールストリートジャーナルが発行した共同声明(炭素配当に関するエコノミストの声明)があり、FRBの元議長4人とノーベル賞受賞者27人を含む3500人を超える米国のエコノミストによって署名されました。そこでは 「必要な規模と速度で炭素排出量を削減する」ために炭素税を実施し、「増加する炭素税の公平性と政治的実行可能性を最大化するために、すべての収入は均等に一括して米国市民に返還されるべきである」と提言されました。言い換えれば、彼らは、炭素税によって生み出された税収から適度な基本所得保証を提供することを提言したわけです。日本は約110億トンのCO2を排出しており、排出されたCO2トンあたり100米ドルの炭素税は1兆1,000億ドルの収益を生み出します。これは、1人あたりの月間配当100USドル弱に相当します。 MMT派経済学者はこの提案に賛成なのでしょうか?

この質問にはいくつかの検討事項がある。

第一に、MMT派経済学者は一般に、政府が実現したい公平度というものは、あらかじめ他の財源から上げた収益によって左右ないし制約されるものとは考えない。。

日本で1人あたり100USドル分の基本所得保証を提供することが望ましい場合、日本政府はそれを可能にする通貨発行能力を持っているからだ。

というわけで、質問の論理を完全に逆転させて考えることになるのだが、そうした望ましい介入が名目支出成長と経済の実物生産キャパシティとの関係に負荷をかけた場合、需要牽引力からのインフレ圧力を回避するために、政府が(他の反インフレ対策の中でも)税制の変更と新税導入or増税を検討する必要があるということだ。

しかし、これは「税金」が望ましい社会的措置に「資金提供」することを意味するものではない。

このことは、ソーシャルメディアで議論されているもっと一般的な論点を提起する。

MMTを支持する活動家の中には、「デマンド・プル・インフレを削減するための1つの武器として、政府が増税しなければならない可能性がある」という事実に対して抵抗する向きもあるようだ。

中核的なMMT派経済学者は、このことについて常に明確に論じている。

時には、政府は価格の安定を維持するために困難な(そしておそらく不人気の)決定をしなければならない。政府が自由に使える強力な政策ツールの1つは税制だ。

MMT派経済学者は、ジョブ・ギャランティの下での雇用バッファーストックの増加を、価格安定性フレームワークの提案における不可欠な要素として論じているが、理解されておかなくてはならないのは、雇用バッファーストックの増加は、政府が政策を変えることによって制御されなければならないということだ。 – この場合は、純支出の水準を落とすということである。

この純支出の収縮は、おそらくいくらかの増税を伴うことになる。

一部の活動家の間では、特定の政治的文脈内の特定の政治的問題(たとえば、現在の米国大統領選挙)に対処する必要があるため、防御的姿勢(増税による相殺を好まない、あるいは必要と見なさない)を採用しており、そしてそれをMMTの代表的なコアの考え方だとしている。

しかしそれはMMTのコアの考え方ではない。

第二に、MMT派経済学者は、一般的に、ベーシックインカム・ギャランティの導入を推奨していない。代わりに、失業とそれに伴う収入の不安定性に対する解決策としては、ジョブ・ギャランティの導入が最善であるとする。

私がこれまで幾度も説明してきたように、ベーシックインカムは、「政府が雇用を増やすためにできることは何もない」という新自由主義の神話に屈するものだ。

ベーシックインカムは、貧困と不平等の問題に対する集合的なアプローチではなく、個人主義的なアプローチである。

したがって、失業の問題を(「犠牲者を非難する」ような)個別の問題と見なし、個別の解決策を提示することになる。この場合、多くの受動的消費主体を作り出す – 彼らには飢餓を避ける最低限の給付しか必要にならないということにされてしまう。

新自由主義時代以前の経済学者が十分に理解していたように、大量失業は構造的な文脈でのみ理解されるべきだ……つまり、十分な雇用を創出するためのシステムの失敗によるものだと理解されるべきなのである。

そして、非政府部門の支出と貯蓄が決まり、その支出額が全ての生産資源を確実に利用するための必要額には満たない場合、この不足を補うことができる部門は一つしかない。つまり政府部門だ。

したがって、大量失業の存在は、少なくとももう1つのことを示していることになる……つまり、政府の財政状態が過剰に引き締められており、政府は(最初の状況に応じて)財政黒字を減らすか、財政赤字を増やす必要があることになる。

以上より、このシステム的失敗による犠牲者を非難することは、新自由主義の中核的主張であり、プログレッシブ(進歩主義者)は皆、そうした性向を避けるべきだ。

また、ベーシックインカム・ギャランティの導入がインフレに対する名目上のアンカーを提供しないことも明らかであり、したがって、国家はインフレ圧力の際に政府が失業を増やさなければならない「失業バッファーストック」の世界に居続けることになってしまう。「失業バッファーストックの世界」では、名目支出の(生産キャパシティに対する)超過があれば、失業の増加によってインフレ圧力を減じなくてはならない。

最後に、以下で引用するブログ投稿でこの問題について詳説しているが、収入以上に大事なことが他にある。我々は仕事から社会的アイデンティティと自尊心を獲得する。仕事することで、我々は社会的ネットワークを広げ、子供たちには失業中の家庭で育つことの不利益を継承させないようにすることができる。

ベーシックインカムの支持者は、雇用のこうした別の利点を見過ごしているのである。

ベーシックインカム・ギャランティよりもジョブ・ギャランティを好むもう1つの理由は、仕事に対する社会的選好と「施し」文化(訳注:貧困層に対しての)に対する敵意がある状況の中で、ジョブ・ギャランティが「生産的な仕事とは何を意味するのか」について再評価するためのフレームワークとして機能し得るからである。

現在、我々は、民間の利益に貢献する活動を生産的であると見なす「有給の仕事」の概念に支配されてしまっている。

このバイアスは、非生産的だとか、または「不要不急の仕事」(’make work’)だとか、またはその他の、公共部門の雇用創出に対して保守派(および多くの見当違いの進歩派)から引き出す否定的な用語によって、社会的価値を追加する膨大な数の活動が棄却されていることを意味する。

ジョブ・ギャランティは、資本家の利益追求を助長しない多くの活動をジョブ・ギャランティに含めることを可能にし、これによって、「価値があり、生産的である」と見なされる職務の範囲を拡大するための枠組みを提供することになる。

私がよく挙げる例はミュージシャンとサーファーだ。これらの活動は通常、鉄鋼労働者や教師が生産的であると見なされるのと同じようには「生産的」であるとは見なされない。

しかし、これらの労働者を使って拡大できる幸福の範囲には途方もないものがある(たとえば、サーファーはサーフィンのために雇われ(当たり前だが)、オーストラリアの夏を悩ませる溺死を避けるため、学童のための水上安全のレッスンを行うことができる)。

そして、時間が経つにつれて、社会は価値観を再調整し始め、「生産的な仕事」という概念を拡張し始めるだろう。

この種の移行は、私たちが直面している大規模な気候変動問題への取り組みに進むためにも不可欠だ。

したがって、これらの理由および他の多くの理由により(下記のブログ投稿を参照)、インカムギャランティは大量失業に対する劣った解決策なのである。

参照文献:

1. Basic income guarantee progressives cosy up with the worst CEOs in the world (April 4, 2018).

2. A Basic Income Guarantee does not reduce poverty (May 31, 2017).

3. A basic income guarantee is a neo-liberal strategy for serfdom without the work (April 5, 2017).

4. Why are CEOs now supporting basic income guarantees? (March 28, 2017).

5. Is there a case for a basic income guarantee – Part 1 (September 19, 2016).

6. Is there a case for a basic income guarantee – Part 2 (September 21, 2016).

7. Is there a case for a basic income guarantee – Part 3 (September 22, 2016).

8. Is there a case for a basic income guarantee – Part 4 – robot edition (September 26, 2016).

9. Is there a case for a basic income guarantee – Part 5 (September 27, 2016).

10. Employment guarantees are better than income guarantees (January 5, 2011).

11. Mass unemployment – its all about demand (February 13, 2013).

12. The possibility of mass unemployment – Part 1 (December 14, 2012).

13. What causes mass unemployment? (January 11, 2010).

結語

4回シリーズの最終パートは次の月曜日に上げる予定だ。(長旅と、他に参加しなくてはならない約束がその前にあるので)

今日はここまで!

Total
28
Shares
0 comments

コメントを残す

Related Posts