ファデル・カブー「アフリカのパンデミック対応は、経済・通貨主権の回復を必要としている:公開書簡」(2020年9月)

Africa’s Pandemic Response Calls for Reclaiming Economic and Monetary Sovereignty: An Open Letter 

これまでのところ、アフリカは新型コロナウイルスによる公衆衛生への最悪の影響を免れてきたが、それに伴う経済活動の停止により、アフリカが抱える経済的欠陥と構造的脆弱性がより明るみに出るようになった。アフリカは資源に恵まれた大陸であり、すべての住民にまともな生活の質を提供する能力がある。医療や教育などの普遍的な公共サービスを提供し、働きたい人には雇用を保証し、働けない人にはまともな所得補助制度を保証することができる。しかし、長期にわたる植民地時代とその後の社会経済的混乱は、市場の自由化によってますます悪化し、アフリカ諸国を次に挙げるような構造的欠陥を有した悪循環に陥らせてきた。それは、

  • 食糧主権の欠如
  • エネルギー主権の欠如
  • 低付加価値の製造業・資源採取産業

である。

この聖ならざる三位一体は、アフリカの為替レートに非常に痛烈な減価圧力を生み出し、食糧、燃料、救命医療用品といった生活必需品の輸入価格上昇をもたらす。このような輸入品によるインフレから人々を守るために、アフリカの政府は外貨での借入を行うことで、米ドルやユーロに対するアフリカの通貨の「価値」を人為的に維持している。こうした人為的な「その場しのぎ」の救済策によって、アフリカは対外債務を返済するのに必要なドルやユーロを稼ぐことだけを目的とした、気の狂うような経済活動を強いられている。その結果アフリカ経済は、国際通貨基金(IMF)の融資条件や、他の債権者による政治・経済的利益を守るための絶え間ない圧力によって強行される緊縮財政モデルに捕われることとなる。これは、アフリカの経済・通貨・政治主権をさらに制限するものである。IMFと世界中の債権者によって課せられるこうした融資条件は、通常、5つの問題のある無益な政策戦略に焦点を当てている。すなわち、

  1. 輸出主導型成長
  2. 外国直接投資(FDI)の自由化
  3. 観光事業の過剰宣伝
  4. 国有企業の民営化
  5. 金融市場の自由化

である。

これらの戦略はいずれも経済的解決策を装った罠である。輸出主導型の成長は、エネルギーや高付加価値の資本設備・産業部品の輸入を増やし、土地や資源の収奪を促す一方で、低付加価値商品の輸出を増やすことにしかならない。そしてもちろん、すべての発展途上国が同時にそのようなモデルに従うことなどできない。ある国が貿易黒字を達成したいのであれば、どこかに貿易赤字を受け入れる国がなければならない。外国直接投資主導の成長はエネルギー輸入を増加させるだけでなく、投資家を引き付けるための減税、補助金、労働・環境規制の弱体化を必要とするため、アフリカ諸国に終わりのない底辺への競争を強いている。それはまた、金融の不安定性をもたらし、一部は違法な資金の流れを伴う形で、富裕国への相当な純資源移転を招くことになる。観光産業は、二酸化炭素排出量や水の使用量という点での産業の実質的な環境コストに加えて、エネルギーと食料品の輸入を増加させる。

ほとんどの国営企業は1990年代以降、すでに民営化されている(例:電気通信、電力会社、航空会社、空港など)。これ以上の民営化は、今もなお、かろうじて公的管理下にある社会的セーフティーネットを崩壊させるだろう。金融市場の自由化には通常、金融規制の緩和、キャピタルゲインに対する税率の引き下げ、資本規制の撤廃、金利や為替レートの人為的な引き上げなどが必要であるが、これらはすべて、世界を取り巻く金融投機家たちにとっての魅力的な環境を保証するものである。彼らは、「安く買って高く売る」ために「ホットマネー」に殺到し、不況に陥った経済を見捨てて逃げ出すだろう。

そして、すべての自由貿易協定と投資協定は、これら5つの戦略を加速させ、深化させることを目的としており、アフリカ経済を苦境のどん底に落とし込むだろう。この欠陥のある経済開発モデルは、アフリカの「頭脳流出 [1]訳註:高度な知識と技能を有した多くの人材が海外へと流出する現象。 」をさらに悪化させ、場合によっては経済・健康・環境移民に死をもたらすといった悲劇的な形へと化ける可能性がある。

これら5つのその場しのぎの解決策は、雇用創出という形で一時的な救済を提供し、近代化と工業化の幻想を与えるため、魅力的に映りがちである。しかしながら、実際にはこうした政策によって雇用はますます不安定になり、グローバルサプライチェーン、国際需要、国際商品価格に対する外的ショックの影響を常に受けやすくなる。言い換えれば、アフリカは、その経済的運命を常に海外の情勢に左右され続けなければならないということである。

新型コロナウイルスは、アフリカにおける経済問題の根本的原因を露呈させることになった。それゆえ、パンデミック後の復興は、既存の構造的欠陥に対処しない限り持続可能なものとはなりえない。差し迫った気候危機と社会生態学的適応の必要性を考えると、真に持続可能であるためには、経済政策がこれまでの欠陥のあるモデルとは全く異なる原則と提案に基づいたものでなければならない。

我々は、すべてのアフリカ諸国に対し、通貨・経済主権を取り戻すことに焦点を当てた戦略的計画を策定することを要求する。そしてそれは、食糧主権、(再生可能な)エネルギー主権、および製造業におけるより付加価値の高い製品を中心に据えた産業政策を含まなければならない。アフリカは、競争と効率性の名の下に、経済発展のための底辺への競争というやり方に終止符を打たなければならない。大陸内における地域貿易協定は、公衆衛生、交通、通信、研究開発、教育などの戦略的分野における水平的な産業連携の形成を目的とした協調的な投資に基づいたものでなければならない。

我々はまた、アフリカの貿易相手国に対し、資源採取中心の経済モデルの失敗を認め、技術移転、研究開発における真のパートナーシップ、および生産と雇用を維持するための政府債務超過構造 [2] … Continue reading (外貨建て政府債務の免除を含む)などを包括した新たな協力モデルを受け入れることを要求する。

アフリカ諸国は、外的ショックに対するレジリエンスを構築するため、明確で自立した長期ビジョンを策定しなければならない。経済・通貨主権のためには、国として孤立化する必要はないが、経済・社会・生態学的優先事項へのコミットメントが必要になる。 これは、大陸内における生活の質を向上させるために、国および地域内に存在する資源を活用していくことを意味する。これにより、海外直接投資、輸出志向型経済、資源採取産業についても選択肢を広げることになる。また、エコツーリズム、文化遺産、土着産業を優先させることにも繋がる。

アフリカ資源の活用は、完全雇用政策(雇用保証プログラム)、公衆衛生インフラ、公教育、持続可能な農業、再生可能エネルギー、天然資源の持続可能な管理といった、これら全てに対するコミットメント、そして参加型民主主義・透明性・説明責任を通じた若者と女性の地位向上に対する妥協のない取り組みによって始まる。今こそアフリカが前進し、すべての人々が繁栄し、その潜在能力を最大限に発揮できるような、より良い未来を目指す時である。この未来は手の届くところにあり、アフリカの経済・通貨主権の回復こそがその始まりである。 

 

署名[1]
Fadhel Kaboub, デニソン大学, アメリカ・オハイオ州
Ndongo Samba Sylla, セネガル・ダカール
Kai Koddenbrock, ゲーテ大学, ドイツ・フランクフルト
Ines Mahmoud, チュニジア・チュニス
Maha Ben Gadha, チュニジア・チュニス
 

[1]署名は著者の個人的な意見を表明するものであり、勤め先やその他の所属機関を代表するものではありません。

翻訳協力(セカンドリーダー):堀之内 陸斗

References

References
1 訳註:高度な知識と技能を有した多くの人材が海外へと流出する現象。
2 訳註:筆者の一人であるファデル・カブー氏によれば、ここでの「政府債務超過構造」はフィナンシャル・タイムズの記事を参照しているという。記事では政府債務について、現在のようにIMFの債務持続可能性分析(DSA)が持続不可能な債務の増加を示すまで待つのではなく、債務の返済のためには成長を犠牲にしたプライマリーバランスの黒字が必要、と判断された段階で債務の帳消しを行うことが提案されている。
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