ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.6」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

[pt.5はこちら

ボックス記事 #1: 輸出制限は裏目に出る

3M は保護マスクの世界的な製造業者で,ヨーロッパ・アジア・ラテンアメリカ・合衆国に工場をもっている.2020年1月時点で,COVID-19 の発生を見た 3M は N95保護マスクの生産能力を年間11億枚にまで倍増させた.合衆国内では,3M は生産を 40% 増やすことを目指している.2020年6月までにN95保護マスクを月間 5,000万枚生産する見込みだ.

2020年4月2日に,トランプ政権が 1950年の「国防生産法」(Defense Productions Act) をもちだして,国益のために合衆国企業の産出を指図しようとした.翌4月3日,大統領の覚え書きが実施に移され,連邦政府の当局は医療リソースを国内用途に割り当てられるようになった.これら2つの命令は,N95保護マスクの輸出禁止を意図したものだった.4月3日に,3M はトランプの輸出禁止に反応を示し,〔輸出禁止措置によって〕カナダやラテンアメリカの人々に保護マスクの供給をとめたときに生じる人道的な帰結を指摘した.3M の主張はこういうものだった――「合衆国内で生産される保護マスクの輸出を止めれば,他国による報復措置を招く公算が高く,そうなれば,差し引きした正味の数としては合衆国が利用できる保護マスクの数は減少してしまうだろう.」

開かれた貿易を支持する人々はこう主張する:その便益は世界的なバリューチェーン生産に依存していない.たとえば,3M は地域化戦略をとっていて,それぞれの地域に近い供給業者・輸入業者と連携して,その地域を製品の供給源にして近隣の顧客の要望に応えている.したがって,保護マスクの開かれた貿易にとってサプライチェーンは意味のある要因ではないにも関わらず,開かれた貿易は,いざ追加の供給が必要となったときに重要な供給源となるのだ.

個人防護具の不足を是正すべく講じられている生産面の対応は,合衆国内の衣料品メーカーにはっきりと見てとれる.たとえばヘインズブランズのようなメーカーは,3億2,000万枚をこえるマスクを生産する見込みだ.また,フランス企業に目を向けると,シャージャースのような企業は織物繊維の生産設備を転用して,週当たり 100万枚以上を供給している.このように新しく自発的に行われている生産の取り組みは,生産基準に関する情報が利用できることと生産要素を調達できることがいかに重要かを例示している.そして,生産要素は,国外の供給業者からも調達されるものなのだ.各種製品の基準や認証は安全面で決定的に重要だ.しかし,規制の実施プロセスは,緊急事態への対応で制約となりうる.

製品基準に関する国際的な協力がない場合のリスクの具体例は,2020年4月はじめに輸出認可要件を強制する決定を中国が下した一件に見つかる.その決定の結果として,合衆国や EU で買い手に認められていた企業は,中国における新たな認証がないために輸出を阻まれた.この証拠からは,次のことがわかる――医療器具や保護具の供給を増やすためには,自国・他国の両方の製造工場の品質や医療器具の品質に関する広く相互に認められた基準と国際的な規制の協力体制と育むうえで政府の役割が重要なのだ.こうした協力によって,貿易を制限する基準を特定の国だけで厳格に実施するのは阻止されるだろう.とくに,危機においては,特定の国による一方的な行動が非常に高い人道的コストをもたらしうるだけに,協力はいっそう重要だ.

出典: 本書所収の Fiorini et al. 論稿から抜粋.


pt.7 に続く

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